第65話 マニアと鍛冶屋で夢の最強タッグ! と要らない子の学院生
ダニエラ叔父の協力を得て、“翼”の骨組作りは解決の道が開けた。
「一日でも時間が惜しい。細かい打合せは明日やるとして、取り急ぎ今日は工房上げてパイプ作りじゃ」
エンジェル氏はさすがに経営者だけあって、ダニエラがかつて書いたのとは格段に違う工程表を引き始めた。
「それで? 設計の細部を詰めるのに、実際に図面を引いたヤツは明日打合せはできるんじゃな?」
「はい、技術が分かっている者同士で話してもらった方が良いと思います」
ラルフが確認も取らずに、調子よく頷いた。
これ正確に言えば、ラルフたちが間に入ってしまうとまずいのだ。
(俺らが挟まると伝言ゲームになっちまうからな……)
ホッブが言えば、クラエスフィーナも同意する。
(私たち、彼らが何を言ってるんだか分からないしねえ)
課題の当事者はクラエスフィーナ。
実際問題学院生たち、幼年学校生のグループが言っている事の半分も理解できない。だからそれを鍛冶師たちに、まともに説明することさえできるとは思えない。
「よし、ガキどもには明日こっちに出張してもらおう。アイデアスケッチだけじゃあ、細かいところをどうするかわからねえからな」
と、本来の研究チーム員であるホッブが指示を出した。
「了解! ジュレミーに伝言頼むよ。だけど、ジュレミーに何かやってもらうと金かかるんだよな……」
と、兄の威厳も何もあったものじゃないラルフが頷く。
「はー……とにかくあたしがやる羽目にならずに済んで良かったぁ」
と、唯一の工造学科生であるダニエラが責任を回避して喜んだ。
「研究チームって、私たち四人だよね……」
と、原則は忘れないけど一番何もできないクラエスフィーナが力無くツッコんだ。
ホッブが優しくクラエスフィーナの肩を叩く。
「いいか、クラエス。何も設計したり骨組を作ったりだけが研究じゃねえ。大規模な研究にはな、現場監理って大事な仕事があるんだ」
「現場監理?」
「各部署がうまく連携できるように間を取り持ったり、予定通り進んでいるかスケジュールをコントロールしたり、研究資金が足りるかとか事務仕事をやったりって仕事だな。監督役がいて初めてチーム全体が機能する、そういう役をやるのも大事なんだぞ」
「ほぇぇ、そうなんだね……」
ホッブに丸め込まれて素直に感心するクラエスフィーナ。
……が、次の瞬間怪訝な顔になった。
「間を取り持つのが無理だから直接話してってのが今の話だよね?」
「そうだな」
「予定通りどころか失敗ばかりでどんどん方針がズレていってるし」
「確かに」
「研究資金も一回パンクして、研究室の物を全部売り払って
「何とかなって良かったな」
「ねえ……私たち、その現場監理も出来てないんじゃ?」
「はっはっは、だからこそだな」
ホッブが真顔になった。
「それをやらないといけない、けど全く役に立ってないクラエスの持ち場は、搭乗者と『黄金のイモリ亭』の看板娘なんだよ。どうせ難しいことは判んないんだから、とにかくおまえは必死に金を稼げ」
◆
「それじゃ、よろしくお願いしますね」
ペコペコ頭を下げるエルフに、工房の職人たちが任せとけと口々に雄叫びで答えた。
「わしがやると言ったからには必ず間に合わせて見せるわい! オメエらも約束を忘れんなよ!? わし、かぶりつきの席じゃぞ!?」
エンジェル氏が鼻息荒く念押しする姿に、身内であるダニエラは見てられなくて掌で顔を覆った。
「ほんと、スケベが服を着て歩いているようなのばっかりで恥ずかしい……ドワーフが誤解されるじゃねえか」
「何を言うとるダニエラ」
「あんだよ!? 姪っ子に恥をかかせんなよ」
「一番スケベなのはテメエのオヤジじゃねえか。プリティーのヤツ、ポコポコ十七人も子供を作りやがって……」
「ちょっと待って下さい」
親戚の会話にホッブが割り込んだ。
「なんじゃい?」
「ツッコミどころしか無くて、どこから言ったらいいかわからないんですが……まず聞きますけど、プリティーって……」
「なんだ、聞いたことないのか?
「下の兄貴ってことは……」
「ああ、上の兄貴はブリリアントって言ってな。鉱山で技師長やっとる」
「職業はこの際どうでもいいです」
「ちなみに末の弟はラブリーじゃ」
「まだいるのかよ!?」
ホッブとラルフ、クラエスフィーナは顔を見合わせた。
「ジジイ四兄弟に全員キラキラネームかよ……すげえな親御さん。他の情報が全てどうでもよくなるインパクトだ」
「いやいやホッブ、子供十七人ってのも衝撃だよ。じゃあダニエラは思いっきり下の方の子供? 一番上とどれだけ離れているのかな」
「叔父さんがずいぶんな歳に見えるから、叔父さんじゃなくて伯父さんじゃないかと思ったんだけど……このオジサン、ホントに叔父さんなんだね」
「えっ? クラエス、何その『おじさん』の連発……何か区別あるの?」
「ラルフ文章学科だったよね!?」
興味深い話題に話の尽きない三人だったが……ご家庭の事情がもろバレで、もう半分泣きべそをかいているダニエラが課題と関係ない議論を始めた仲間を追い立てた。
「さあ帰るぞバカども! やる事はいくらでもあるんだからよお!」
「ダニエラの家の家系図作成とか?」
「うるせえラルフ、その口閉じねえと
◆
鍛冶屋と約束した宴会の事を話すと、『黄金のイモリ亭』の主人は快く予約を受け付けてくれた。
「ドワーフが十数人なら、酒もつまみもすげえ事になるな!」
今から皮算用をはじいているオヤジさん。その言葉を聞いて、クラエスフィーナは一つ不安な事が見えてきた。
ラルフを振り返る。
「ねえラルフ。ドワーフの職人さん十数人を招待しちゃったけど……とんでもない金額にならない?」
ダニエラを見れば、ドワーフが大酒飲みなのはわかる。しかも女子学院生でこれだ。鍛冶職人なんていかにもガッパガッパ行きそうな人たちがどれだけ飲むのか。
「おいおいクラエス、何を言っているの」
下手をすれば研究費に大打撃が……と心配しているクラエスフィーナと逆に、ラルフの方は至極楽観的だ。
ラルフはにっこり笑ってクラエスフィーナをなだめた。
「僕は招待するとは言ったけど、奢るとは言ってない」
「それ、その時になったらメチャクチャ怒るんじゃないかな!? 大丈夫なの!? 改造が必要になったら受けてもらえないんじゃないの!?」
「その心配は大丈夫だよ」
よけいに心配になったクラエスフィーナに、ラルフはいやいやと首を振った。
「飲み始めて一番気分のいい時にうまく切り出すから大丈夫さ。ホッブが」
「俺に丸投げかよ!?」
後ろの
「ダニエラの叔父さん達はクラエスの
「言い出しっぺだけ何もしてないよ……」
恨みがましいクラエスフィーナの目は気にしない。でも何か、見落としがあったような……ラルフがいまいちしゃっきりしない感覚を怪訝に思っていると。
店主が張り切って叫んだ。
「よおし、予約の日が決まったら仕入れも思い切って倍増するか! ラルフ、ホッブ、
「忘れてた! それがあったぁ!?」
「自業自得だよ……」
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