第4章 我がチームの方向性

第25話 心地よい目覚め……からの地獄行き

 クラエスフィーナは朝日に気がついて目が覚めた。

 上掛けを横にどかしてベッドの上に置きあがる。枕元の水差しからコップに注いだ水を何回かに分けて飲み、一息ついた。

「ふー……昨日の晩は楽しかったなあ」

 昨日の飲み会を思い返すと、自然と笑みがこぼれてしまう。


 学院で敬遠されていたエルフには、人生初めての飲み会コンパだった。今まで一緒に飲みに行くような友達はダニエラだけで、四人も集まって初めての店に行くのはとても楽しかった。

「お肉料理も色々食べられたし、何度も乾杯して……友達で飲みに行くって、いいなあ」

 エルフの里では飲み会なんて、村の寄り合いの時ぐらいしかない。そんな集まりで子ども扱いのクラエスフィーナが楽しく飲むなんてありえないし、そもそも一人前でないと酒宴には参加させてもらえない。

 強くなり始めた日差しを見ながら、クラエスは口元がニンマリして来るのを押さえられなかった。

「四人で研究を頑張ってると、もっと色々楽しいことがありそう」

 そう呟いてそのまま日向ぼっこしていたクラエスフィーナは、しばらくしてコップをベッドサイドのテーブルに戻した。

「……それはそれとして」

 代わりに手に取った水差しに口をつけ、直で水をがぶ飲みする。青い顔になったクラエスフィーナは水差しを戻すと、よろよろとベッドに横になってもう一度上掛けをかぶった。

「ううっ、頭がガンガンするよぅ……胸やけして胃もムカムカする……ラルフたち、いつもあそこで飲んでて大丈夫なのかな……」

 二日酔いのエルフは、自主休講を決意した。


   ◆


「ヒデエ顔だなクラエス。どうした?」

 ダニエラに言われて、机に突っ伏しているクラエスフィーナがノロノロと顔をドワーフに向けた。

「ダニエラは今朝大丈夫だったの……? 私、今日は講義全部休んで寝込んでたんだけど」

「あ? おまえ今日はこれだけの為に来たのか?」

「そうだよう……うう、まだ頭痛い……」

 ダニエラはクラエスよりよっぽど多く飲んでいたはずなのに、全然二日酔いになった様子がない。けろっとした顔でコーヒーを入れている。

「あたしらドワーフは酒飲むために生きてるところがあるからなあ。別に昨日のぐらいじゃ翌日まで響かねえよ」

「凄いね……私、ダニエラの半分も飲んでないのに」

 クラエスフィーナの酷い様子に、ダニエラは大笑いした。

「おまえは飲み方をわかってねえんだよ。酒の合間にはつまみも食って、出来れば水も飲んで」

「うん」

「『あ、これ悪酔いする酒だ』と思ったら、途中で席を立ってトイレで吐く」

「飲むだけ無駄だよ、それ!? ていうか悪い酒だってわかったら、さらに追加で飲むのを止めようよ!?」

 クラエスフィーナの弱弱しいツッコミに、目がマジなダニエラが重々しく首を横に振った。

「アホかクラエス。『酒は酔えればいい』、これがドワーフの大正義ジャスティスだ!」

 まるで懲りていない友人の物言いに、クラエスフィーナはやつれた顔で突っ伏した。

「……昨日散々言ってくれたけど、エルフが“意識高い系の引きニート”だったらドワーフは“重度のアルコール依存症”だよ……」

「あ、それ当たってるぅ!」

「明るく認める話じゃないよね……」


 ラルフとホッブが入って来たのは、二人がそんなやり取りをしているところだった。

 男二人が首を傾げ、ラルフがダニエラに尋ねた。

「クラエスはどうしたの?」

「ああ、コイツ昨日の打ち上げを引きずっていてグロッキーなんだよ」

「あ~やっぱり。昨日の晩は僕らもキテたから、二人が無事に帰れたか心配したんだよね」

 けろっとしているラルフに、死にそうな顔のクラエスフィーナが尋ねた。

「ラルフたちは大丈夫なの?」

「僕たち?」

 ラルフが右手で後頭部を掻いた。

「慣れちゃった」

「あの酒に?」

「ううん、悪酔いに」

「ここにはバカしかいないよう……」




「さて、そんな話は横に置いておいて」

 ホッブが昨日廻った各研究チームのコンセプトのメモを机に置いた。机につく一同を見渡す。

「我らクラエスチームの方針を決めたいわけなんだが……クラエス、聞いてるか?」

 肝心のチームリーダーが、机に上半身を伏せて寝ている。

「ちょっと……まだダメ……」

「OKわかった。無視して話を進めよう」

「そもそもこの課題、クラエスの個人研究を手伝ってるはずなんだよな」

「別にいいんじゃない? クラエスも結局素人なんだし」

「みんな……せめて心配して……?」


 昨日見て来た、よそのチームの研究は六つ(お祈りは数に入れない)。その中で使えそうなのを検討していく。

「やっぱり昨日見た中では“羽根”で飛ぶのが一番応用しやすそうだよね」

 ラルフの意見に、ホッブとダニエラも頷いた。

「応用しやすそうって言うか、俺たちで使えそうなのはアレだけだよな」

「“気球”も細かいことを気にしないで良さそうだけどさ、あたしたちには空気に浮く気体を作れない。それと推力をどうするかが解決してないもんな」

 ホッブが昨日のメモを見た。

「細かい技では、あの“パチンコ”も使えそうだけどな。装置がデカいわりに機構は単純だ」

「だけど“羽根”で使うなら、クラエスを直接発射台のレールに乗せるわけにはいかないでしょ? なにかを間にかまさないと無理だよ?」

 ラルフの言う通り、実験機の下にぶら下がる方式だとあの発射台は使えない。

「そうだな……使えるかどうかは保留にするか。他には?」

 ダニエラが手を挙げる。

「装置自体はそのまま使えないけどさ、あのムカデ砲の推力を継ぎ足していくやり方も良くねえか?」

「それを言ったら、“羽根”チームの魔力を連射しながら飛距離を継ぎ足していくやり方の方が……。ムカデ砲は、結局は発射機を出るまでしか加速できないのは“パチンコ”と一緒でしょ?」

 ラルフの反論に、うーんと唸るダニエラとホッブ。

「ちなみに“おならポーション”は?」

「ヤツらも実現できてねえじゃねえか。検討するだけ無駄だ」

「実現できてたって、あんな飛び方は嫌だよ!」

「あ、クラエスもちゃんと聞いてた」


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