かみさまのみかた

俺たちの仕事はシンプル。

主人の命令を成し遂げること。

それ以外は求められない。


人間界を護る神に従うのは、たいてい二柱。

悪魔属性天使属性の両方を持つのが規則。

だけど俺らのコンビは気性が個性的。


俺は魔族上がりの悪魔族で、煉獄官庁の所属。一般魔族だ。

相方はエリート。天界出身で下界からの転生ではなく、稀少な創造神生まれ。

主人の神は今の世界を治めることを任され、若いながらに天界から期待をかけられている。

俺たちは神の名の下で、誇り高く任務をこなしているが、主人が変り者でときたま変な任務を下すときがある。


それは、今みたいに。

…腰が痛い。もう二時間くらい草むらを捜し回ってる。


「なんでこんな無茶言うんだろーなー、ウチの主人は…」


寝転がる。草の感触と土の匂いが心地いい。

俺の相方は、熱心に草を掻き分けている。

さすが天界エリート、文句すら言わない。

その見た目は下界で言うヤンキー娘みたいに怖いんだけど、中身真面目だから損だよな。


「二人で探せば、日没までには見つかる」


優しい言葉もかけてくれる。とはいえかなり無愛想だ。

できれば他の天使みたいに微笑んでほしいが…相方には無理な相談。


「はー…しかし人間界って面白いなー」


俺が主人からのスカウトにのったのは、あの言葉からだった。


『ボクと来れば退屈しないよ』


退屈してる場合じゃないくらい使い潰されている毎日。

ま、確かに楽しい。地獄でだらだら過ごしてるより全然いい。

困るのは主人の無茶な命令とお仕置きだ。


今回も『ボクの大好きな可愛い人間に、四つ葉のクローバーをやりたいから、お前達で日没までに探してこい』なんて理不尽で利己的で無茶な話。

…そりゃやりますよ、言わば狛犬みたいな使い魔ですからね。


朝から探してる相方には悪いけど、正直腰が痛いし面倒臭い。俺は人間に興味ないし…帰りたい。

ふと手元をみると、四つの葉が見えた。

…おや?


「……あった!」


あっさり、ゲット。


「良かったな。ありがとう、ミズキ」


俺に対して少し笑いかけてくれる相方。

あっさりしすぎてちょっと申し訳ないのに、相方は素直にお礼を言った。やっぱりエリートだ。


「よし。帰ろう」


相方の言葉を合図に、二人で立ち上がる。

主人のいる屋敷へ。


「やっと見つけたか」


我らが主人、今の名を雨宮あまみや和葉かずは

見た目はちょっとカワイイ小学生だが、人の世に生きるための依り代なので見た目だけだ。

ただ勝ち気な口調と真直ぐな瞳は同じで、どんな生きものに生まれ変わっても分かる。


「これが四つ葉のクローバーか…持つと幸せになると信じられているものだ」


まじまじとそれを見ている主人に、俺は嫌な予感がした。


「まさか、また人間を好きになったんですか?」


えこひいきは厳禁。でもうちの主人は…


「仕方がないよ、ボクは生き物の中で人間が一等好きなんだ。

あんなに愚かで弱くて駄目な生き物は類が無い」


主人は弱っちい生き物が大好き。

ま、結果的に見れば主人がハマった生き物は強くなっていくのだが……。


「しかしこんなに時間がかかるものなのか…。なんて可哀想なんだ!

よし、四つ葉のクローバーをもっと増やしてやろう」

「せ・生態系と文化環境が崩れます!」


これには慌てて相方も反対する。

主人は眉をひそめて、些末さまつなことだ気にするなと切り捨てる。

この主人のわがままぶりに、悪魔の俺でさえ呆れてしまう。


「アキラは細かすぎるぞ。ミズキ、お前はどうだ?」


問われて言うことは一つ。


「御心のままに」


俺の言葉に破顔する主人、焦る相方。


「よしよし、ボクの悪魔として、よい心がけだ」


悪魔のほうが忠誠深いなんて変な話。

でも主人と一緒だと、楽しいから。

あくまは神の味方をする。

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