かみさまのためいき

大抵、僕たちは人間として生を受ける。


物心を持ち、ある一定の成長過程に入ると自分の『使命』に覚醒する。

自分が主に選ばれた存在であった事。

そして主の傍に、呼ばれればすぐに戻らねばならない事。

自分だけではなく、対になるパートナーがいる事。


その辺のさじ加減は、主次第。

法則はない…僕には理解はできないだろう。

だが、この世界を統治…主は『観覧』と言っているが…とにかく主の傍らには対となる存在がなければならない。

少ないいくつかのルール。

天界から与えられた世界を持つ、そもそものルールのひとつ。


「せやから二つにしたやんけ。

なにをごちゃごちゃ言うてんねや」


古い日本家屋の縁側に、金髪で浴衣の男が寝そべっている。

彼が僕の主。

今回は地方の訛りを気に入っていて、その強い口調を変えない。

僕は気圧されないように、毅然とした態度で仁王立ちする。


「だめだよ。

だってこれじゃついじゃないもん。

天使の僕が人間で、悪魔が亀だなんてアンバランスでしょ」


僕は庭からじっとしている亀を掴み、主に見せつけるように上に挙げた。一応名前はある。

亀吉。

…適当すぎる。


「お前は知らんだろうが、コイツは天界じゃえっらい暴れん坊やったんやで。

それやったら亀にでもしとく方が手間かからんくてええやろ」


うちわを持ちながら、頬杖をつく。

確かに、僕は天界の事はまだよく分かっていない。

この主に選ばれた時も、天使としてまだ成熟していなかった。


主は天界でも有名な変わり者。

何を考えているか分からないと言われていたけど、この亀吉…手のつけられない悪魔をパートナーに選ぶその優しさに、僕は惹かれたんだ。


「それにな、亀なら余計な些事に関わらんでもええし、長生きするし。

何が悪いねん」

「そうかもしれないけど、

人間なら色々な感情や人生に触れられて、更正するチャンスも増えるでしょ。

僕が終わったら、次は亀吉を人間にしてよ」


僕は亀吉を抱えながら、主を見上げた。

いかにも面倒と言う顔をして、主はため息を吐いた。


「……ガキの面して言われると、余計腹立つわ」


ふてくされたのか、僕らに背を向けて寝転がる主。


「子供の姿にしたのは主だよ。

それにそんなに文句を言うなら、僕を選ばなければ良かったでしょ」


抱えていた亀吉をそっと庭に下ろした。

亀吉はその頭をのんびりとこちらに上げる。

…天界の暴れん坊、そんな風にはとても見えない穏やかな顔。


それならどうして亀吉を悪魔に選んだのだろう。

僕もどうして選ばれたんだろう。


「…俺に付いてくる阿呆はおらん」

「アホじゃないもん」


全く、主の考えてる事はよく分からない。

亀吉も主に呆れたのか、ゆっくり庭の池に入っていった。

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