かみさまにやきもち

「───む? おい、由井ゆい


「なんすか」

「マチの首にあるあざはなんだ?」

「……分かってて聞いてるんですかい?

ありゃあ、昨晩どこぞの虫に噛まれたんでしょうな」

「今は冬だぞ。

私は冬に蚊を作った覚えはない」

「本気で言ってんですか、主。

…マチは顔だけは綺麗に作りましたからねぇ。

奴なりに今の世を楽しんでるっつーことじゃないですか?

昨晩も帰りは遅かったですからねぇ」

「だがあいつの性格は最悪だぞ」

「自分の悪魔なんですから、せめてもうちょい言い方直してくださいよ。

…もうあいつのことは放っときましょう」

「………由井、近い」

「いいじゃないですか、天使と神様の仲でしょうよ」

「意味が分からん。

分かるように説明しろ」

「分かってるんでしょう?

なんならマチの首についてる痣とおんなじの、主にもつけてさしあげましょうかい?」


「――…いや、ちょっとそれ、まずくない? 由井サン」


長い、長い黒髪を腰までのばした女の子。

その両手を掴んで押し倒している、茶髪の男。同じ高校生くらいだ。

マチが落ち着き払っているのが不思議な距離感で、見つめていた。

その様子を後ろから咎めるように声をかけた、もう一人の会社員風の男…その首筋には赤い痣。


「それに俺の帰りが遅いのは仕事なんですけど。学生の二人からすればそりゃ遅いでしょうよ」


にらみつけながら振り向く、由井と呼ばれた男。


「お前に言われたかねーよ、この色魔しきま


「いや、まぁそれは否定はしないけどさ。

でも主に手ぇ出すのはダメでしょ!

ほら、由井、抑えて抑えて!

優秀な天使様でしょ!」

「……………」


黒髪の男に引きずられて女の子から離される。

むくれてる様が年に合わず可愛らしい。


「主ももっとしっかり毅然きぜんと叱って!

この距離でたじろがないのは幼馴染設定でもさすがに無理が出てくるよ、年齢的に!」

「マチ」

「はい?」

「その首筋の痣はどこぞの女がつけたのか?」

「ちげーよ、フツーに虫刺されだわ。

蚊じゃなくてダニだけどな!

もー会社でも散々ネタにされてっからうんざりですわ。

俺が人間の女とイチャコラするか」

「そうか──ならばよい」

「……」


女の子が笑う。

それを見てますますふてくされる由井だった。

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