かみさまはおれさま

三笠みかさくんてさぁ……ホントに悪魔なの?」


幼稚園に似付かわしくない二人だった。

お迎えには時間が早すぎる。

なにより、二人とも子供がいるような年には見えない。


口を開いたのは、女性。

豊満なバストを見せ付けるようなチューブトップにパンツが見えそうな短いスカートを履いていて、その格好から母性は程遠い。


対して横に立っているのは、まだ中学生になったばかりの男子。

学生服が真新しい。


「失礼な!僕は純血の悪魔属性ですよ、この黒髪が証拠ですっ」


誇らしげに自分の髪を指差す三笠。

つまらなそうに女性は目を閉じて、欠伸あくびを一つ。


「この東洋人エリアならみんな黒髪だよ、世間知らずくん。

それよりきゃんきゃん吠えないでよぉー…二日酔いなんだからさぁ」

「この僕が主探しで奔走ほんそうしていたというのに、ゆいさんはお酒を飲んでいたんですか?!」


二人は幼稚園で、神さまを待っていた。

三笠は悪魔。結は天使。

この世界を管理する神が『生まれ変わった』と知り、二人は探していたのだ。

…否、正確には三笠だけが、だ。

結は天使のくせに全く働かず、すっかり娯楽を楽しんでいた。

対して三笠は、忠犬のように主探しであちこち奔走し、勉学も力を抜かない品行方正な悪魔だった。


「結さん、もう酒は止めてくださいね。

主の前でそんな胸をさらけだすような格好もいけません。

だいたい一応大学生なんですから、きちんと授業に出て勉学に勤しむべきです。それから…」

「いーじゃん、セックスアピールくらい。

心は真っ白よん。大学生は酒飲みからがお仕事なんですよーだ。

それに悪魔が天使に説教するなんて変なのー」


三笠がくどくどと注意をしているのに、結はケータイゲームに夢中でほぼ聞いていない。


「天使のくせになんですかその態度は!

定期報告で七天使に言い付けますよ!」

「あんたの報告先は煉獄れんごく官庁かんちょうでしょ」

「結さんが報告してる時に横からチクります!」

「そういう所は悪魔っぽいね」


とかなんとか二人でやり取りしていると、昇降口の扉が開く。

さすがに一瞬、口を閉じる二人。

だが、予想に反して出迎えたのは普通の幼児だった。


「ねーちゃんたち、まつさまの下僕?」


松、というのは彼らの主の名だ。しかし下僕と言った覚えはない。


「あるじ…えーと、松くんは中かな?」

「うん。松さまが中入れって」


友達に様付けをさせる幼稚園児は、間違いなく彼らの主の仕業。

靴を脱ぎ、呼ばれるがまま中に入る。


中にはイチゴポッキーを食べながら、女の子たちに囲まれている一人の男の子がいた。


「松さまぁー、みきのお菓子も食べてよぅ」

「松さまに話かけないでよ、いまユッコと話してるんだからぁ」


……異様な光景だった。

異様にモテモテなその男の子は、固まっている二人に気付く。


「よく来たな、オレ様の下僕」


幼稚園児ではない黒い笑い。

にやり、と効果音がつきそうだった。


「下がれ。……後で続きをしようぜ」


黄色い声がする。

二人は目の前の幼稚園児がどんな生活を送っているのか、想像したくもなかった。


「うわ主…色気全開じゃーん

幼稚園児にしちゃ、ダダ漏れすぎだよ」


さすがに天使の結は呆れている。

三笠はもっと憤慨していた。


「なんですかあれは!

幼稚園児といえば無邪気にかけっこでもすべき年頃でしょう!

お菓子もダメです!

こんな怠惰で堕落しきった生活では、円滑な人間界の管理などできませんよ!

生活態度から改めてください!」


天使の結より、かなり厳格な悪魔の三笠。

主は不快そうに眉を釣り上げて、三笠を見る。


「くどくどうるせぇなぁ。どーしようが勝手だろ。

下僕がオレ様に指図すんなよ」

「あの悪魔くん、きっとモテないから羨ましいんじゃないの?」


主の言葉にちゃっかり結が便乗してきた。

二人の態度に我慢がならないようで、顔を真っ赤にしながら三笠はわめく。


「結さんもなんなんですか、その態度!

だいたいお二人とも管理者たる自覚が薄すぎなんです!

そもそも人間界の管理を託されたのは……」


「はいはーい、いつもご苦労サマ、三笠くん。

この小煩いのが悪魔で、三笠。あたしは結。

じゃ、主。これからよろしく」

「ふん、お前なら横にはべらしてやってもいいぞ。乳もでかいし」

「ごめんねー、まだ学生だから遊べないのー」

「なんなんですかさっきからその会話!

僕の話も途中です!」


こうして神さまの日常が、はじまる。

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