第13話 静養

 それから数ヶ月。俺は失業保険を貰って、静養していた。正直なところ、仕事しても、うつ病が再発して仕事に行けなくなることを繰り返していたからだ。ギリギリまで休んで、失業保険が出なくなる2ヶ月前から、新しい仕事を探し始めていた。その間も小説を書いてはいた。

 ぶっちゃけると、もうどこかの会社に勤めるよりも自分のペースで仕事が出来る小説家になりたかった。小説賞には何度か応募しているものの、あまりいい結果は出ずにいたが。

 会社を辞めてから、私物が返ってきた。その中には、彼女、佐野さのさんに自社の研修の際に貸していたプログラムの本も含まれていた。俺は期待して開いたが、本には一言もなかった。会社を辞める人には手紙を書いていた彼女のことだからと、ちょっと期待していたのだが。どうやら彼女に相当嫌われたらしい。あんなに嫌われないように気を使っていたのに……。

 就職活動をすると、拍子抜けするほどすぐに仕事が決まった。しかも、家から歩いても通えるほどの近さの職場だ。以前は何人かいたらしいのだが、俺が入社した時点で社長と経理をやっている社長の奥さん、そして、社員は女性が1人だけだった。

 結論から言うと、その職場はすぐにダメになった。社長はいつも忙しくしていて、ほとんど話ができない。そして、実際の権力を握っているのは社長の奥さんだった。俺はそれに気付くのが遅かった。何をした覚えもないのに、社長の奥さんに嫌われたようだ。俺が朝来ると、もう1人の女性社員との会話が止まる。そして、この職場も1日口を開くことがないことがザラだった。こうなってくると、俺は気付いていないうちに人から嫌われるような動きをしているのだろうかと思ってしまう。

 試用期間が普通の会社よりも少し長く、半年間だったのだが、試用期間のうちにクビになった。理由は仕事が遅いから。俺は特に言い訳もしなかった。なんとかすがっても居たいと思える会社ではなかったからだ。ここで愚痴っておくが、原因は社長だ。俺はプログラムを作り、帳票を吐き出すのはツールを使うと社長から指示されたのだが、それが別のツールだった。そして、俺はそのツールを作ったことがなかった。ネットで調べながらなんとか形にはしたのだが、突然別のツールを使えと言われた。会社で買ってあるからと。だが、会社のツールは20年以上前の古いバージョンのツールしかなかった。これでは、今のウィンドウズにインストールすらできない。それでも、そのツールの新しいバージョンをネットで探してきて、お試し版をインストールして使ってみた。死ぬほど使いづらかった。そんなこんなで行ったり来たりを繰り返していたのだ。そりゃ、遅くて当たり前だ。しかも、環境に慣れていない初めの仕事が(正確には、お客さんのところに打ち合わせに行ったり等はあったが)それだった。

 ぶっちゃけると、途中からは仕事をサボって小説を書いていた。会社のセキュリティがガバガバだったので、会社のパソコンで小説を書いて、自宅に送っても問題なかったからだ。おかげで小説はだいぶ進んだが、仕事は放ったらかしだった。技術的なことを聞ける人間がいないのだから仕方ない。ネットで調べるのにも限界があるというものだ。

 こうして、俺はまた無職になった。すぐに昼夜逆転の生活になった。深夜アニメを観ているからというのもある。しかし、小説を書くのにインプットする作業も必要なことなのだ。……好きだから、観ているというものもちろんあるが。

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