第10話 再発

 彼女、佐野さのさんと一緒の新しい現場が始まった。ここはちょっと変わった現場だった。プログラム言語も現場内独自の物を使っていたし、何より勤怠の連絡メールが現場にいる全員に送られると言うことだ。

 新しい現場になって、4日目。俺は現場に行けなくなった。うつ病が再発したのだ。

 理由は色々とあると思う。はっきりどれが原因なのかは分からない。今まで、リーダーになって結構無理をしてきたこともあると思う。休日出勤の時もあったし、自社で徹夜もした。現場と家が遠いので、終電になることもしょっちゅうだった。現場が終わってから自社に行くと、余計に帰りが遅くなった。確実に終電になった。

 彼女に避けられてると言うか、嫌われているというもの要因の一つではあると思う。それまでは、むしろ彼女に会いたくて、なるべく会社に行こうとしていたのだから。別にフラれたからというわけでない。なんとなく行動や会話の端々に感じる避けられている、嫌っている感があったように思う。

 そして、最大の要因は、現場の全員が見る勤怠のメールだ。俺たちのチーム内で二週間ほど現場に来れていない人がいた。それは、勤怠のメールを追っていれば容易に把握できた。そして、その人の「申し訳ありませんが、休みます」というメールに対して、現場の担当者はキレ気味で返信していた。それを見ていたら、自分も同じようなことになるんじゃないかと思えてきてしまった。それがダメだった。あぁ、この現場にはうつ病のことを分かってくれるような職場じゃないんだと感じてしまった。その人の代わりとして現場に呼ばれたのか分からないが、面談の時点では全然そう言った話は出ていなかった。

 それから、しばらくの間、俺は外にも出ず、ずっと家で動けない生活が続いた。

 すぐにリーダーを下されることはなかったので、自社のプレゼン大会の資料を作る必要があった。俺は何度もチームメンバーにSkypeスカイプで連絡を取って、プレゼン大会のリーダーをやってほしいとお願いしたのだが、返答はなかった。

 結局、誰も音沙汰なしなので、資料は自分で作ったが、自社のミーティングには参加できない。なんとか直前に佐野さんに発表役だけお願いした。他のメンバーは仕事の都合でミーティングにすら参加できなかったからだ。

 自分のせいで彼女に会えなくなったというのに、彼女と会えない日々はひどく空虚くうきょで味気ないものだった。例えるなら、色を感じられた視界が急にモノクロになってしまったような。

 それから、四ヶ月ほど、俺はダラダラと外に出ることなく過ごした。今だに彼女のことを諦めもできないままで……。

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