第5話 ケンカ
ある日、彼女が朝から落ち込んでいた。そんなことは珍しいことだ。
俺は心配になって、どうしたのか聞くと、彼女、
要約すると、昨日の晩の研修後、俺と同じタイミングで入社した女性社員(以前、ランチに行った佐野さんと仲の良かった子だ)と
研修の内容は、チームで一つのシステムを作るというものだった。しかし、研修は遅れ気味らしい。このままでは全体の研修が終わった後に予定されている発表会に間に合いそうにない。その子はそれを気にして終電ギリギリまで研修で作るシステムをいじっていた。佐野さんはというと、研修が終わったし、先に帰るのもなんだからとその子を待っている間、彼氏と電話していたそうなのだ。その子はそれが気に入らなかったらしい。そして、研修の講師も巻き込んだ
こう書いてしまうと佐野さんが悪いと取られるかもしれないが、チーム内で、もうスケジュール的に間に合わないから、機能を削ろうという話になっていたようだ。しかし、その子はそれが納得できず、無理をしてでも機能を削らないで終わらせたいと頑張っていた。だが、スケジュールの都合上、機能を削ることは普通に仕事をしていればあることだ。研修だし、完璧に終わらせたいという気持ちは分かるが、みんなで決めてそういう方向に動いているなら、合わせることも必要だ。
俺は、佐野さんは悪くないと思うと伝えた。ぶっちゃけると、本当に佐野さんが悪いとしても、味方でいるつもりではいたのだが。今回の件は、むしろ佐野さんはその子が終わるのを待っててあげたのだから、責められるいわれはないだろう。
結局、その日の午前中は彼女の話を聞いているだけで終わってしまった。全く仕事をしなかった。俺はその日の昼食を一緒にと誘った。自社にはメンター制度もあって、リーダーになったことで、佐野さんのメンターとなっていた。そのメンター制度のおかげで、一回分のお茶代ぐらいは会社から出るようになっていた。それを利用して、食事に連れて行ってあげて、気分転換できればと思ったからだ。
食事中は、メンターとして仕事上や自社のことで困っていることはないか聞いてみたが、昨日の喧嘩以外に問題はなかった。結果、普通に食事しただけになってしまった。
だが、彼女は午後からは元気を取り戻し、普段と変わらない感じに戻っていた。少しは彼女の役に立てただろうか。
人間が数人集まれば、衝突が起きることは仕方のないことかもしれない。書くのを省いたが、ゲーム開発部の空中分解も佐野さんが一端を担っていた。彼女には、天然のサークルクラッシャーな一面があるのかもしれない。しかし、俺にはそんなこと関係ない。惚れた者の弱いところだが、いくら彼女が悪かったとしても、いくら彼女が間違っていたとしても、相手がどんな権力者だろうが、俺は黙って彼女の味方をするだろう。
後日、自社で行われた研修の発表会に、俺は研修の部外者だったが参加した。営業に部外者も居てほしいから参加を誘われたのもあるが、彼女と俺の同期の子がギクシャクしていないか心配だったのもあった。とりあえず、顔を合わせた途端に殴り合いになったりはせずにいた。二人の間に妙な空気が流れているような感じはあったが……。合わせて、なんで部外者の俺がいるんだという空気も感じたが、俺は自分の子どもの発表会に参加するような心持ちだった。
発表会は滞りなく終了した。彼女のチームが機能を削ったことを責められることもなかったし、もう一つのチームの方がよりできていなかったと思う。俺が何も心配することはなかった。
それから二人が仲直りしたのかどうかは分からない。彼女に非がある訳ではないので彼女が謝ることもないと思うし、相手の子に俺が何か言うのも彼女が俺に話したのかって余計に気分を悪くする気がして止めておいた。二人は同い年だし、できれば仲良くしていてくれればと思う。
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