第13話 事件2・下
昼食を食べ終わると、二人は南著に向かった。
受付で捜査本部へと案内されると、捜査本部を指揮している捜査一課課長の
「貴女が、噂の一条警視さんですか。俺は、浦部です」
僅かに櫻子に頭を下げた浦部は、捜査本部の置かれている部屋に二人を案内した。
「しかし、どうしてこの事件を?」
椅子を薦めると、部屋にいた女性刑事が珈琲を二人に持ってきてくれた。
「先日、お初天神通り商店街の雑居ビルで殺人事件があったのを、ご存じでしょうか?」
「詳しい内容は知りませんが、ニュースは見ました。絞殺の疑いがある女性が発見されたらしいですね」
それが? という顔で浦部は櫻子を見返した。
「彼女は扼殺されていて、肋骨に心肺蘇生された跡がありました」
その言葉に、浦部が眉を顰めた。頭のいい男なのだろう、キタとミナミの事件の類似性に気付いたらしい。
「この
「時期が近く類似しているだけなので、現段階ではあくまでも可能性がある、という見立てです。それを調べる為に、こちらの情報を提供していただきたいのです」
櫻子は珈琲を口にして、小声で「二十点」と零した。
「貴女には全面的に協力する様に、署長から言われています。ですが、こちらにも情報を頂きたい。あくまでも迅速に事件を解決するために、情報はフェアでお願い出来ますか?」
「それは構いません。私達が集めた情報は、必ず貴方にお渡しします」
櫻子が迷いなくそう答えると、浦部は捜査会議で使っている資料を櫻子に渡した。
「亀井さんは死亡する前の日、『セシリア』でいつものように泥酔状態だったんですね?」
「ええ。毎回の事なので同僚の女の子が制服を私服に着替えさせて、黒服がいつも通り合鍵で彼女を玄関先まで送り、部屋の鍵をかけています。その様子は、同じ階の同僚の女の子も見ています。時刻は、夜中の二時ごろです」
資料にざっと目を通した櫻子は、再び口を開く。
「彼女の死亡時刻は、午前九時。火事の報告が入ったのは午前十一時半。通報は、通行人となっていますが身元は?」
「残念ながら、マンションの一階にある公衆電話からの発信になっていまして、確かな身元と指紋等発見できませんでした。このマンションには監視カメラも少なく、唯一あった近くの市が設置した監視カメラは、前日に壊されていました。それが故意なのか偶然なのかも、捜査中です」
「火事で到着した時、救命は撮影などしてなかったの?」
「まさか殺人事件と思わなかったので、消防と救急が到着して通常通りの作業をしただけです。ですが、通行人がその様子を撮影していたらしく、SNSに動画をアップしていたのでそれを提示して貰いました」
森口が言っていた件だろう。
「遺族に言われて、検死して扼殺の疑いと心肺蘇生した跡を発見したんですね?」
「はい。消防が鍋に入っていた油が高温になって火が付いたと現場検証で見立てたので、事件性はないと思ったのですが……日ごろから家事もせず、ましてや当日の二時近くまで泥酔していた人物が朝から油を使うのもおかしいという話になり……殺しだと判断しました」
初動捜査の遅れを、浦部は隠さずに認めた。
「今の所、容疑者は上がってないの?」
「聞き込みを増やしても、彼女は誰かと揉めていた話は上がってきません。客からのクレームもなく、むしろ好かれてましたね。付き合っていた男もいないようでした」
櫻子は瞳を閉じた。
「玄関の鍵の状態は?」
「消防が到着した時は、鍵がかかった状態でした。ピッキングされた後もありません。ただ、黒服が彼女を部屋に入れた時は玄関に彼女を寝かしていましたが、遺体が見つかったのはキッチンでした」
「途中で起きて、水でも飲みに行ったのでしょうか?」
遠慮がちに、篠原が口を挟んだ。
「胃の内容物は?」
「営業中に食べただろうフルーツとお菓子。また、アルコール濃度はかなり高かったようです」
櫻子は背もたれに背中を預けて、深くため息をついた。
「『セシリア』で、彼女の事を聞くわ。まだ、彼女の姿がよく分からない」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます