第11話 事件2・上
「そう言えば、『セシリア』はガールズバーなのに黒服がいるの?」
ガールズバーは、女性で店を回している店が多い。裏方にはもちろん男性従業員はいるが、黒服のような存在はあまり聞かない。
そもそもガールズバーは、キャバクラやクラブのような接客とは少し違う。風営法に分類される『客の隣に座る、客のタバコに火をつけるサービス』など行わず、カウンターの向こうからの話をするのがメインの接客だったはずだ。ガールズバーは、風俗店とは呼ばない。
「『セシリア』は女性従業員に女子高生の様なコスプレをさせていて、指名料もある店でミナミでは割と料金設定が高めのガールズバーらしいです。
宗右衛門町は、道頓堀川北岸に沿った飲み屋が並ぶ通りの一つだ。正式には『そうえもんちょう』と読むのだが、地元民は最初にある長音の「う」を使わず「そえもんちょう」と呼んでいた。ホストクラブやキャバクラやクラブが多くある通りで、美味しいと評判の飲食店も並んでいる大阪ミナミの有名なエリア。安井の隣に座っている森口が、説明をしてくれる。
「亀井被害者は、ミニスカートのセーラー服を好んで着ていたようで指名も多かったみたいです。『セシリア』の黒服は、裏で料理作ったり女の子の送迎したりしてる数人の男です。客がいる時間の店内には姿を見せません」
「亀井さんは、他の女性従業員と揉めてたという事実はない?」
安井と森口を見て、櫻子は再び口を開いた。放火犯は、統計的に女性が多い、と篠原は後で櫻子に聞いた。
「まどかは、これといって問題起こしてる様子はなかったみたいですわ。問題があるとするなら、酒に弱いのに売り上げ気にして強引に飲むらしくて。毎日の様に泥酔している彼女を送るのが大変や、と聞いたぐらいやろうか」
安井が首を傾げながら、そう答える。
「どうやって彼女を送ってたの?」
「女の子はまとめて車で寮まで送るそうです。通いの子は、タクシーを使うか終電までに帰るか。泥酔して自分で部屋の鍵開けれない子の為に、送迎担当の黒服はオーナーから合鍵を預かってると聞きました。合鍵で開けた部屋の玄関に寝かせて、そのまま部屋の鍵を閉めて帰ってるそうですわ」
安井の答えに、櫻子は眉を顰める。
「女の子の部屋の鍵を、黒服が持ってるの? 寮にいる女の子に預けてた方が良くないの?」
「車のキーケースに、女の子たちの寮のマンションの合鍵が付いているそうです。車の運転が終わったら店のキーボックスに直していたそうなんで、そう勝手に持ち出せる事はないと聞いてます。黒服であっても、送迎の時しか触らず常に持ってるそうやないみたいですね。なんや前は、合鍵を女の子に預けてたそうです。でも、その女の子が留守中に他の女の子の部屋に忍び込んで、金目のもんを取って逃げた事件があったらしくてね。従業員に、合鍵は渡さんようにしてるみたいですわ」
安井が言うに、そのマンションから被害届が五件ほど出てたらしい。「玄関に放置って……」と、篠原は眉を下げた。篠原は、女の子の扱い方が気になったようだ。
「そう言えば、火事の時にその様子を動画撮影してた一般人がいたらしいですよ」
森口が思い出したように口を挟む。聞けば森口の同期が捜査本部の資料のコピーを任されているらしく、本来は禁止なのだがこっそり教えて貰っているらしい。森口も、刑事に憧れているようだ。
「そう、それは有難いわね。データを笹部君に送って貰いましょ」
櫻子はスマホを取り出すと、笹部にメッセージを送る。
「けど、篠原よかったな。上司がこんなに美人な子で」
スマホを操作する櫻子をチラリと見てから、安井は篠原に笑いかけた。
「警視って、すごいですよね! 若くてこんな美人で……尊敬します!」
森口も、心なしか頬を染めて櫻子を眺めている。森口も、篠原や安井と同じで高校を出て警察官になったノンキャリア組だ。エリートキャリアでもそういないだろう異例の存在である櫻子と親しくなるなんて、制服警官や地方の刑事では滅多にない機会だ。
まだ謎が多い櫻子を良く分からない篠原は、曖昧に笑って頭を掻いた。
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