第451話:謎の少女。


「ふぅ、やっと終わったか……イリス、よくやったぞ」


「えへへ♪ 役に立てたかな?」


 イリスはぴょんぴょん飛び跳ねながらこちらへ駆け寄った。


「あぁ、正直イリスが来てくれて助かったよ。それに……ティララ。俺はお前に対してどんな感情を抱けばいいのかよく分からねぇんだが……とにかく助かった。ありがとな」


「ううん、気にしないで。それに私にどんな感情をって……勿論恋愛感情か肉欲……」


「ちょっと待とうか。娘の前で何言ってやがるてめぇ」


「あはは、間違っちゃったんだゾ♪」


 まったくこいつは……どこまで本気で言ってるのか全然わからん。

 元々ティアは掴みどころがない奴だったけれど、キララと一つになった事でさらに読めない奴になってしまった。


「とにかく、だ。これだけは言わせてくれ。……おかえり」


「……うん、ただいま」


 ティララは何故か顔を赤くして俯いてしまった。


「そういえばイリス、向こうはどうなってるんだ?」


「んーっとね、魔王軍の幹部の人達が攻め込んできたけどみんな頑張ってくれたから向こうは無事だよ」


 そうか、帰ったらちゃんと礼を言っとかないとな。

 得にラムちゃんには大分苦労をかけてしまっただろうし。


 ……と、その前にだ。


「おい、そろそろ説明してくれるんだよな?」


 俺はネコに……いや、ネコの姿をした何者かに問う。


「いったいお前はなんなんだ? ネコはどうした」


「……私、は……」


 何故かその少女は顔を青くして、足取りもかなりフラついていた。


「おい大丈夫か……?」


『……ちょっと待って。イリスがギャルン吹き飛ばしちゃったけどみんなの核ってどうなったのかしら……?』


「あっ!!」


 俺が突然大声を出したので皆が一斉にこちらを見る。


「まぱまぱ、どうかしたの?」


「そうだった。イリス、もしかして六竜の核もろとも吹き飛ばしちまったのか?」


 イリスが困り顔で「……わかんない」と呟く。今にも泣き出してしまいそうだ。


「待て、別に責めてる訳じゃない」


 そう、仮に……本当にそうだったとしても誰がイリスを責める事ができようか。


「……おかしいゾ」


「今度はなんだよ。整理する事が多すぎて頭がパンクしそうだ」


「ミナト君、……まだ六竜の核は、あるわ」


「本当か?」


 それなら皆の核を回収して、どうにか元の姿に戻せるように……いや、待て。


 六竜の核はギャルンに取り込まれていた。

 ギャルンはイリスの一撃で消し飛んでしまった。


 ……なら核がいったいどこにあると言うんだ?


「……おい、ギャルンの腕はどこだ」


 何の事かわからず首を傾げるイリスとは対照的に、ダンテヴィエルを抜き身構えるティララ。


「無くなってる。さっきまでそこにあったはずだゾ」


 そうだ。イリスの一撃を受けて片腕だけになったギャルンだが、核をその腕に全部集めていた、なんておかしいだろ。



 妙な胸騒ぎが身体中を駆け巡った。

 ふざけるな。毎度の事ながら俺の嫌な予感ってのは……当たっちまうんだ。


 奴は生きている。


「皆気をつけろ! ギャルンはまだ何か企んでるぞ!」


 いい加減しつこいぞギャルン……!!


「きゃっ……!」


 俺の不安は的中した。


「今のは……本当に危なかった。咄嗟に腕を分体として切り離したおかげでかろうじて命を繋ぐ事が出来ましたよ……」


 ギャルンは最早虫の息といった状態だったが、その細い節くれだった腕には、あの少女が捕らえられていた。


「おっと、動かないで下さい。貴女達が私を殺すよりも私がこの少女を殺す方が早い」


「ここに来て人質かよ。落ちたなギャルン」


「なんとでも言うといい。何もしなければ彼女の命は保証します。少しそこで見ていなさい」


 ギャルンは震える腕でゆっくりとネコの身体に触れ、その手はネコの下腹部あたりに吸い込まれていった。


「てめぇ……覚えてやがれ」


「黙って見ていて下さい。手元が狂って彼女の内臓をかき回してしまいそうです」


 くそっ……。

 俺を含め、誰も動くことが出来ない。


 なんであの女はギャルンにいいようにされてるんだ。あの力があれば……。


 既に彼女はぐったりとしていて、とても力を発揮できる状態には見えなかった。


 限界が来たのか? あれだけ無茶な力を振りまいていたんだからそれも仕方ないが……タイミングが最悪だ。


「ふふふ……これでいい。これで……!」


 ネコから引き抜いた手にはアルマの核が握られていた。


 ギャルンはそれを自分に取り込むと、ネコの身体をこちらへ放り投げる。


 落下地点に回り込み、彼女を受け止めた。


「大丈夫か!?」


「ごめんなさい蒼君……でも、ユイシスは、大丈夫だから……でも、私はもう、時間切れ、みたい……」


「どういう事だよ……結局お前はなんだったんだ……」


 彼女は震えながら、その掌を俺の頬に当て、一筋の涙を流す。


「ごめんね、ちゃんと、説明して……あげたかった。でも、もう一度蒼君に会えて、本当に……良かった。この子を、ユイシスを……お願い」


 その少女は、俺の頬に手を当てたままティララをじっと見つめた。


「……貴女は私を恨んでるでしょうけど……心配しないで。ミナト君は私が守るわ」


「そう、なら……お願い、ね」


 がくりと少女が力を無くし、その手が俺の頬から離れて落ちる。


「お、おい……! なんだよ何がどうなってんだ……!? ティララ! どういう事か説明しろ! お前はあれが誰なのか知ってたんだろう!?」


 そうじゃなきゃさっきの会話はおかしい。


「うん。……でも、説明は後だよ」


 ティララはギャルンを指差す。


 ……そうだな。今度こそ完全に、完璧に、奴をこの世から抹消しなければ。




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