第452話:相応しき者。


「ついさっきも言ったがもうお前の面を見るのも飽きたんだよ。今度こそ全てを終わりにしてやるぜ」


「ふっ、ふははは……誤解をしないでいただきたいですね。私はもう戦う気はありませんよ。降参です」


 ギャルンは少し背中を丸め、その細い両腕を上げた。


「何を考えてるか知らないがそんな手には乗らねぇぞ」


「まぁまぁ、まずはこちらの話を聞いて下さい。私は本当にもう敵対する気はありません」


「ミナト君、こんな奴の話を聞く必要なんか無いよ。さっさとやっちまう方がいいんだゾ」


 ティララはダンテヴィエルをギャルンの方へ向ける。


「う、うぅ……ご、しゅじん? 良かった、あの人が守ってくれたんですね……」


 俺の腕の中でネコが目を覚ました。


「ネコ、大丈夫か……? どこか痛い所はないか?」


「えへへ……心配しすぎですよぅ。私は大丈夫……」


 ……とはいえ今のネコはアルマを抜き取られ、六竜の力を失っている。

 この場で戦いに巻き込むわけにはいかない。


「イリス、ネコを頼んでいいか?」


「うん、任せて。にゃんにゃん、こっちにきて」


 俺はイリスにネコを預け、二人の頭を撫でた。


「……さっさと終わらすから待っててくれ。ネコ、心配させて悪かったな。イリス、頼む

 」


 俺は未だに降参ポーズをしているギャルンに向き直る。奴は未だに動こうとはしない。


「律儀に待っててくれたのかよ」


「えぇ、元より敵対する気は無いと言っているでしょう? それを示す為にも、です。力を失った彼女にもう興味はありませんしね」


「それだ。俺にはそれが分からない。敵対する気が無いというのなら何故アルマを引き抜いた?」


 それこそがまだ何かを企んでいる証拠ではないのか?


「先程までの私は最早瀕死でしたからね。命を繋ぐ、という簡単な理由です。そして回復さえしてしまえば最早その力すら無用。貴女に全ての核をお返ししますよ」


 そう言うやいなやギャルンは自分の身体から六竜の核を次々に取り出していく。


 アルマ、ゲオル、シヴァルド……そしてマリウス。


 その核はふわりと宙に浮かび、俺の腕の中に収まった。


「お前……本当に何を考えてやがるんだ……?」


 こいつのしたい事がさっぱり分からない。

 しかしこれで皆を復活させられるかもしれない。

 あいつが何を考えてるかは分からんが、最低限の目標は達した。


 シルヴァがこのまま死んだなんて事になったら俺はリリィに一生恨まれてしまうからな。


「まさかとは思うけれど奪った物を返却したからって許してもらえるとは思ってないわよね?」


 キララはダンテヴィエルを下げない。

 今にも切りかかる勢いだ。


「それらは私個人が御するには些か強大すぎました。魔王キララの身体ならばともかく、この身体では扱いきれず崩壊するのが目に見えていますからね。なので……」


 ギャルンは恭しく頭を下げた。


「ですから……六竜の核を持つに相応しき者へとお返しするのが私の務めかと」


「気持悪い奴だな……さっきティララも言ったがこんな事でお前が許されると思うなよ?」


「それは元より承知の上」


 なんだこいつ。何が目的だ?

 全ての核を俺に返してこいつにまだ勝ち目があるとは思えない。


 俺の同情を買おうとしているのであればあまりにも浅知恵すぎる。

 そしてそんなのはギャルンに似合わない。


 今まで散々辛酸を舐めさせられた俺だからそれくらいは分かる。


「く、くふふふ……ふははは!!」


 突然身をよじりながら笑い転げるギャルン。

 やはり、何かある。


「ミナト君気をつけて」

「分かってる」


 俺もディーヴァを抜こうとして、違和感。


「な、なんだこれは……!?」


「ふふ……さぁ、どう転ぶか楽しみですねぇ!?? 貴女様もそう思いませんか!? 我が主よ!!」


「俺がお前の主だと? ふざけんな!」


 なんだこいついったい何をしやがった!?


 俺が抱えた六竜の核がぴったりと吸い付いて離れない。


『すぐにそれを手放しなさい!!』


「なっ、なんじゃこりゃぁぁぁっ!?」


 俺の腕にぴったりと張り付いた六竜の核がずぶずぶと俺の身体に潜り込んでいく。


 ママドラ! なんだこれどうなってんだ!?


『分からないわよ! 早く取り出して!』

 いや、んな事言われてもどうすれば……!


『マリウスの力でも使ってよ!』

 今俺の中に入ってこようとしてる核の力をいきなり使えるわけねぇだろうが! 落ち着け!


『落ち着いてる場合じゃないのよ! 早くなんとかしな……』


 ママドラ?

 おい、ママドラ!?


 ドクン。


 ぐっ……胸が、くる、しい……。


「ふふふ……先ほど貴女は私に律儀に待っていたのか、と言いましたが貴女こそ律儀に受け取って下さってたすかりましたよ」


「ミナト君! どうしたの!? 大丈夫!?」


 まずい。目が霞む。

 俺の中に何かが、六竜が入り込んでくる。

 そして、俺の中には既にイルヴァリースとカオスリーヴァが居るんだ。


「ティ、ララ……イリス達を連れて、すぐにここを、はな……れろ」


 それだけ言うのが精一杯だった。

 迂闊。本当に何をやってるんだ俺は。


「ちょっと、ミナト君!? ミナト君ってば!!」


 ギャルンが何か企んでる事くらい分かっていた筈なのに、核を回収して皆を復活させる事ばかり考えてこんな事になるとは思っていなかった。


 そもそもギャルンは皆の核を取り込んで、最後に俺からママドラやカオスリーヴァも抜き取り、取り込む事が目的だった。


 それを自分が出来なくなったからと言って……あの野郎……!


 揃ってしまった。

 同じ、俺の中という場所で。


 全ての六竜が……。


「さぁ、目覚めるのですヴァルゴノヴァ!!」




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