蝗帷卆莠泌香莠檎せ5縺ョ1話:レーゾンデートル。(ギャルン視点)
私はなんの為に生まれたのだろうか。
勿論、私を生み出したカオスリーヴァはイルヴァリースの為に私を残したのかもしれない。
いや、実際そうなのだろう。
しかし私は産み落とされた時、その事に大した重要性を感じられなかった。
自分の使命だとは全く感じる事が出来なかった。
それが何故なのかは、おそらく魔王の力が働いたせいだろう。
そうなんだろうという経緯が分かった所で、実際私の中は空虚で満たされていた。
何かを詰めなくては私という存在を保つ事が出来ない。
そもそも私はなぜ生まれてしまったのだろう。
もう少し早く魔王の力がカオスリーヴァを浸食してくれれば私は生み出される事は無かった。
もう少し早くカオスリーヴァが私を生み出してくれていれば迷う事なく、疑う事なくカオスリーヴァの分体としての役目を全う出来た。
しかし私は、そのどちらでも無く実際に虚ろな存在として生まれ落ちてしまった。
叶うのならばその時に戻ってやり直しを求めたいくらいだ。
すべき事を見つけなければならない。
そうでなければ私の存在意義が……。
カオスリーヴァの意向に従う事も出来た。
それがやるべき事であるのは間違いなかったのだ。
なのにどうしてだろうか。
私はどちらかというとイルヴァリースという存在に対して嫌悪を抱いてしまった。
私に唯一与えられた感情は嫌悪だった。
そして、そんな空虚な私という存在に引き付けられるようにイヴリンがこの身体に入り込んだ。
私には嫌悪しかなく、イヴリンには悪意しかなかった。
その時の私達はよく似ていたのだ。
私の身体を使っても大した力が発揮できないらしいと知って、私はイヴリンと交渉する事にした。
適した身体を探す代わりに器を手に入れたら協力関係を結ぶ。それが私達がかわした契約だった。
この時点でカオスリーヴァの意思に従うという考えは消え去った。
イルヴァリースの顔を見たらきっと殺意が湧いてしまう。しかし私など彼女は指一本で殺せるだろう。
それは嫌だ。
意味の無い事を必死にこなそうとして無意味に死んでいくなど到底看過できない。
私は何がしたいのだろう?
したい事を見つけたい。
私はカオスリーヴァの分体であると同時に、彼の意思から逸れた別の存在なのだから。
彼に従う必要は無い。
……最初はそんなものだった。
しかし、私の中にわずかに残った魔王の残滓を感じとった魔王軍幹部の生き残りが勝手に私を祀り上げ、新生魔王として据えようとした。初代魔王であるイヴリンを内に秘めていた事もそれに繋がったのかもしれない。
私は正直魔王軍を率いて世界を我が手に、なんてのはどうでも良かったのだ。
何をすればいいか分からないから一時的に望まれた仕事をしていただけに過ぎない。
だから異世界から勇者であり魔王だと名乗るキララが現れた時は喜んで魔王の座を明け渡した。
イヴリンはごねていたが器が見つかるまではイヴリンも本領を発揮する事が出来ないのだから仕方ない。
キララは魔王に相応しい力を持っていたし、上に立つ者として最適な非情さを持ち合わせていた。
しかし、そこに余計な感情も紛れていたと知ったのは後になってからだ。
彼女は【ミナト】という人物にご執心だった。
ミナトがキララの前に現れたあの日、私の中の何かが狂い始めた。
その場にいたミナトは、イルヴァリースだった。
カオスリーヴァの分体である私には分かってしまった。
そして激しい憎悪に身を焼かれる事になる。
魔王キララが求めるミナトは私が憎む相手だったのだ。
しかし、私は魔王キララを復活させる道を選んだ。
イルヴァリースは既にミナトであり、ミナトはキララを拒んでいる。
なら精神をズタズタに切り裂いて屈服させた上でキララの所有物とする事で私の溜飲も下がると思った。
そして私は損傷の激しいキララを修復する為にアルマを求める。
そこで思いのほか早くミナトに再会してしまった。
ゲオルも居たがそんな事はどうでもいい。
ミナトと出会ってしまったからには手を出さずにはいられなかった。
しかしミナトは想像以上に手強く、そしてその娘イリスは幼いながらもとてつもない力を有していた。
直接的に勝負を挑んだ所で勝てないのは分かっていたので私はどうにかしてミナトを絶望させてやりたかった。
そこで妙案を思いつく。
キララが神という存在から聞いた話。魂は輪廻転生を経て新たな命に生まれ変わる。
そして、キララの前世にはこの世界の初代魔王を倒した勇者がいた。
そいつを飼いならし、ミナトに接触させよう。
キララの精神体は一度眠らせ、休眠を取らせる事で体の修復へと力を回す。
そしてその身体にキララの前世の記憶の中からティリスティアを呼び出す事に成功した。
難しい術式が必要ではあったがイヴリンの知識により思ったよりも簡単に成功した。
それを幹部の一人に預け、好きなように扱わせる。
奴は無能だったのでいい具合に失敗してくれるだろうと想定しての事だ。
案の定ティリスティアとミナトは結託し、リリア帝国での問題を解決する。
想定外だったのはティリスティアが思った以上にミナトに惹かれた事だった。
だがそれすら私には好都合。
お互いが大切な存在になればなるほど、絶望は大きくなるのだから。
タチバナという技師の技術と私の魔術の知恵を融合する事により私の唯一の願いを叶えられないかと思ったのだが、さすがに難しいようだった。
その代わり、カオスリーヴァが姿を隠した異次元を発見するに至る。
これは僥倖だった。
キララの特別な魔力を移植した種もとても重宝した。タチバナが私に一番貢献した部分でもあるだろう。
そのおかげでミナトからイリスを奪う事に成功した。あの時のミナトの顔は忘れられない。
しかし、私の術や種の魔力だけで洗脳し続けるのが難しかったためイリスにイヴリンを移したのはある意味で大正解だった。
まさかティリスティアがイヴリンを始末してしまうとは。
魔王キララの復活も順調に進んでいたのでいい加減イヴリンの存在が疎ましくなってきていた所だった。
本来ならイヴリンの器からアルマを追い出す方法を考えてからイヴリンを器に入れ、身体に馴染む前に器ごと封印でもしてやる予定だったのだ。
予定外ではあったがイヴリンの力をティアに取り込ませる事でキララの復活は成った。
ティリスティアの中で十分に力を回復させたキララが復活し、準備が整ったのでついにカオスリーヴァの元へ向かい、キララにカオスリーヴァの中の前魔王を吸わせる。
途中邪魔が入ったが、無事にキララは前魔王の力を取り出しその身に吸収した。
私にとってはどちらが残っても構わなかった。
前魔王が自我を持ったとしても、私はその一部を受けついでいるのだから取り入るのは容易いだろうし、キララが力を増したのならそれはそれでいい。
そう思っていたのに。
前魔王の魔力に縛られキララは自我を封じられてしまった。
しばらくあがいてはいたが、やがて動かぬ人形のようになる。
ならばしばらくの間は保護する意味も含めて私が管理しようとその身体に入り込むと……。
キララの記憶を垣間見る事が出来るようになった。
その中にあった六竜とヴァルゴノヴァの話。神から伝えられていたその事実。
私は戦慄した。
私はこの時やっと、自分がやりたい事を見つけたような気持ちになったのだ。
ヴァルゴノヴァを復活させる。
私が魔王キララの身体を使えばそれが可能だ。
全ての六竜を取り込み、この身を使ってヴァルゴノヴァを顕現させる。
あわよくばその力を我が物に。そうすれば神の知識が手に入るかもしれない。
そしてその力を利用する事ができるのならば……とっくの昔に諦めた望みを叶える事が出来るかもしれない。
しかしその私の願いは砕け散る事になった。
キララの身体から追い出されてしまっては六竜の力など扱い切れない。
無理をすれば私自身崩壊してしまうだろう。
ならば他の者をベースにして復活させればいい。
おあつらえ向きな事にミナトにはイルヴァリースとカオスリーヴァ両名が溶け込んでいるのだから。
そのまま使わせてもらおう。
ヴァルゴノヴァが顕現し、私を殺すのならばそれは私に運が無かったと受け入れよう。
ヴァルゴノヴァが暴走してしまったのならばそれを上手く操り世界を火の海に沈めてやろう。
ヴァルゴノヴァがどうなるのか。
私の興味はその一点にのみ集約されていた。
神に至る事が出来ないのであれば神を呼び出せばいい。
私はただ神をこの目に焼き付けたいのだ。
世界に神が降臨した時、神はどのような決断を下すのか。
私をどのような存在だと認識するのか。
望み叶わぬ今、私はただ、神に自分が何者なのかを問いたいだけなのかもしれない。
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