蝗帷卆莠泌香莠檎せ5縺ョ2話:神竜ヴァルゴノヴァ。(ギャルン視点)


「ミナト氏……私は本当に感謝しているのです」


 ミナトの意識が消えてしまう前に伝えておきたかった。


「な、にを……」


「私の計画は勿論神に至る事です。ですが……それが叶わないのならば神に仕える事……それすらも無理であれば神をこの目に焼き付けたい。今私が望むのはそれだけなのです」


 ミナトへの感謝の気持ちは本心からだった。

 心からそう思える。


「……」


 そろそろ限界が違いようだが、ミナトはまだこちらを睨んでいる。


「勿論キララの身体を使わなければ神に至る事はできません。だからもうそれはいいのです。こうなってしまっては貴女に頼るしか私が神に会う事は出来ない。貴女が今ここに居てくれて本当に感謝致します。そのお礼に……彼女らは無事にあちらへ送り届けますよ」


 ティララやイリス、そしてユイシスは私など完全に無視してミナトへ駆け寄り回復魔法をかけたり他の手段を探す為に必死になっているが、もう遅い。


 余計な茶々が入るのは迷惑だ。


「ここから先は二人だけの時間です」


 私は念には念を入れる主義だ。

 この部屋には緊急脱出用の術式を施してある。


 最後の最期まで希望を捨てずにいて良かった。

 ついにこの日が来たのだ。


「ギャルン! ミナト君を早く元に戻しなさい!」


「私達の時間を邪魔しないで下さい」


 術式を起動させ、私とミナト以外の邪魔者を全てイシュタリアへ転送する。

 これで諦める彼女らでは無いでしょうが、急いで戻ろうとした所でそれなりに時間がかかる。


 その間に私は神との邂逅を果たすのだ。


 そして……そして、私の問いに答えてもらう。


 もし神に殺されてもそれはそれでいい。

 私は、この瞬間ここに居られる幸せで十分に満足だった。


「う、が……ぁっ……」


 ずっと自分の中に押さえつけようとしていたミナトも限界が訪れ、その身体が変質していく。


 ぼごり、ばごり、がぎぎ、めぎぃ。

 そんな音が一定のリズムで響き、ミナトは別の何かに変貌していった。


 やがて部屋に収まらなくなり天井を突き破り、床は砕け、私とミナトは異次元空間に放り出される。


 最初はただ大きくボコボコと膨れていただけだったが、段々と一つの形に整えられていく。


 あまりにも巨大。

 私など米粒に等しいそれは、白銀と漆黒の二色の羽根を持った竜だった。


「お、おぉぉ……なんと美しい……」


 私はヴァルゴノヴァの正面へと回り込む。

 初めてだ。


 初めてこの胸が高鳴る。

 明らかにこの世の理を越えたその存在を前に、最早私など虚ろな塵芥で構わないとさえ思えた。


 所詮はただの人間であるミナトの意識などそこにはもう存在しないだろう。

 果たして目の前の神竜は、本来のヴァルゴノヴァなのか、それとも……。


 少なくとも力任せに暴れ狂う様子はないので暴走はしていないようだが、動く気配も無い。


 これはもしかしたら


「神よ! 神竜ヴァルゴノヴァよ! どうか私の問いに答えてほしい」


 眼前へと向かい、問うものの反応は無かった。

 神に私を定義してもらう事は叶わないらしい。


 だが、そういう事ならば……。

 自我が無い状態であれば私が入り込みその力を利用出来るかもしれない。

 私はこれでも六竜の欠片。現状唯一意識を持った六竜の欠片だ。

 ならばその力を我が物にする事も出来るかもしれない。

 無謀な賭けではあるが、物言わぬ神竜といつまでもここに居ては彼女らが再びやってきてしまう。


 ならば逆に取り込まれてしまう事になろうと試してみなければ勿体無い。

 こんな機会二度と無いのだから。


 私はヴァルゴノヴァの中へ侵入を試みる。

 何の抵抗も無く、私は中へと入りこむ事に成功した。


 身体の主導権を手に入れる事が出来れば私が神に成り得る。

 神に至る事が、私が、神に……!


 私の精神をヴァルゴノヴァと繋げたその時、変化が起きた。


「ウ゛ォォォォォ……」


 目覚めた? ヴァルゴノヴァが目覚めてしまった。私がその精神へ干渉したから?


 ならばこの身体を操る事などできるはずが無い。

 すぐに外に出なければ……!


 しかし、私はその場に縛られたように身動きが取れなくなってしまった。


 このまま取り込まれてしまう。

 しかしそれなら私も神の一部になれる。


 ならば、構わない。


 そう諦めかけたその時、神竜は大きな咆哮をあげた。


 異次元に穴が空く。

 次元を超越する力。


 時空も、時間も、世界すらも超越するというその力を、目の当たりにする事が出来る喜びに打ち震えた。


 不思議と私は取り込まれず、意識を保ったまま神竜ヴァルゴノヴァの目を通して外を見る事が出来た。


 神竜は咆哮により発生した時空の歪みにその身を投じる。


 その中はまるで異世界博物館とでも言いたくなるような空間だった。


 私達の居たイシュタリアでは無い幾つもの世界が揺らいでその場に存在している。


「素晴らしい……!」


 神竜はいったいどこへ向かおうとしているのだろう。

 私の知らない新たな世界へ? それともこのまま神域まで……?


 なんでもいい。

 私は知りたい。その先を、未知を……!


 やがて神竜が一つの世界へ繋がる揺らぎへ飛び込む。


 そこは……お世辞にも美しいとは言えない世界だった。


 夜空に輝く星々は美しく感じたものの、ひとたび雲の下まで下降するとそこは汚れた空気、所狭しと立ち並ぶ建造物。

 そして地を這う幾つもの光を発する何か。


 なんだここは……どうしてこんな世界に……?


 ヴァルゴノヴァにはまだ明確な意識は無いようだった。

 ただ無意識化でここに吸い寄せられ、ただ空を徘徊する。


 神竜が求める何かがここにあると……?


 確かにタチバナが作る物にも通じる高度な文明を感じる事は出来るが……。


 そこで一つの予感が頭をよぎる。


 ……まさか、ここはミナトの?


 ミナトやキララは高度な文明を持ち魔法などの存在しない世界から転生してきた。

 キララの記憶にあった地球という世界にここは酷似している。


 ミナトの意識が無意識に神竜をここへ導いたと……?


 そんな事があるだろうか?

 矮小なただの人間の意識が神に飲まれてなお影響を及ぼすなどと……。


 やがて神竜は一つの島国へと降り立った。

 辺りは騒然としてあの光を放つ物体が逃げるように散っていく。

 その中から人間が飛び出してくるのを見る限り移動用の乗り物なのだろう。

 空を飛ぶ何かが神竜の周りを飛び回り、様子を窺っている。

 何やら知らぬ言語で問いかける声も聞こえた。


 何の苦労も無く神を目にする事が出来るとはなんという幸運か。

 そして平然とその偶然を利用して神との会話を試みるとはなんと傲慢な。


 私がどれだけこの日の為に苦労を重ねてきたと思っているのだ。


 汚らしい人間共、こいつらが汚らしい世界にしてしまったのだろう。


 駆逐せねばならない。

 こんな世界のゴミなど消してしまわねば。


 そして一度まっさらにして一から世界を創造するのだ。

 私が、いや、神が居るのだからここを新たな世界に生まれ変わらせる事も可能なはず……!


 我が呼び声に答えよヴァルゴノヴァ!

 目覚めてこの世界を焼き払うのです!


 それが出来ぬのならその力を私に!

 正しく活用してみせる!

 私ならその力を誰よりも上手く扱ってみせる!


 神よ! 神竜ヴァルゴノヴァよ!

 我が声に応えよ!!


「やかましい。勝手な事を抜かすな」


「……えっ」


 その声が聞こえた瞬間、私はヴァルゴノヴァから放り出されてしまう。


「な、何故ですか! 神よ! 私がその力を望んだからですか!? 見て下さいこの汚れ切った世界を……! このような世界に、何の意味があると……!」


「それは……確かにそうかもなぁ」


「ならば……!」


「だとしてもお前の一存でどうにかしていいもんじゃないんだよ。世界ってのはさ」


 ヴァルゴノヴァの複雑な音波のような声が、次第に聞き取りやすい耳馴染みのいい声に変わっていく。


「そ、そんな……何故だ、どうして……」


「どうしてと言われても」


 そんな馬鹿な事があってたまるか。

 どうして、どうして、どうして?


「どうして貴女がヴァルゴノヴァなのですかミナト!!」



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