第453話:神の領域。


「だからどうしてとか言われても……お前が俺をヴァルゴノヴァにしたんじゃないか」


 好き勝手やっておいて今更どうしてとか言われても困るんだが。


「そ、それはそうですが……しかし、貴女は六竜と同化していたとしても本来はただの人間でしょう!? 神竜と一つになって人間ごときが精神を保っていられるはずが……!」


 んー、どう説明したものかな。


「その前にさ、一つだけ聞かせろよ」


「……なんです?」


「そんな不満そうな声出すなよ。俺だって今いろいろ頭パンクしそうなんだからさ」


「いいから早く言いなさい」


 なんだよこいつ……さっきまでは神神神神騒いでた癖にそれが俺だってなった途端に不機嫌になりやがって……。


「お前まだ俺とやりあう気があるのか?」


「……何を馬鹿な。今の貴女に私などが歯向かった所で瞬き一つで抹消できるでしょう? 腹立たしい事です」


「いちいち癇に障る奴だな……まぁいい。もう諦めたってのが本当なら話が早い。説明するの面倒だからちょっと付き合え」


「……どこかへ行くのですか?」


 ギャルンはまだ声にイラつきを残しながらも、俺の次の句が気になるようだ。


「信じられません! 日本語です! この巨大な爬虫類は日本語を喋っています! これから私が対話を試みてみます! この歴史に残る遭遇に感謝を込めて……あの、大きなトカゲさん、この言葉が分かりますかーっ!?」


 俺達の周りをぶんぶん飛び回るヘリから拡声器越しの音割れした声が飛んで来る。非常にうるさい。


「やかましい。俺達はすぐに消えるから今日見た事は忘れろ。俺は今日ここに来なかった。いいな?」


 今の俺から見たらまるで一粒の胡麻みたいなヘリを無視してギャルンを連れ、懐かしい世界を後にする。


 いまいち来た時の事はボヤっとしているが、先ほども通ってきた筈の世界の境界空間へ戻った。


「……最後、何をしたのです?」


 お、意外と鋭いな……。さすがというか目ざといというか。


「あれは言霊ってやつだよ。俺が忘れろと言ったら忘れる。あの世界では俺達は現れてない事になったんだ」


「あの場に居た人間、ではなく世界その物の事実を捻じ曲げたのですか? ……重ね重ねどうして貴女がその力を手に入れてしまったのでしょう……口惜しいですね」


「お前俺の事馬鹿にしすぎじゃないか? 神に仕えたいとか言ってたくせに……」


 急にこんな訳の分からない体にされたこっちの身にもなってみろっての。


「それで……? この妙な空間を通ってどこへ行くのです?」


「ん? 神域だよ」


「なっ……」


「お、いい反応だな。とりあえずすぐに着くから説明はそこでな。ちゃんと掴まってろよここで落ちたら永遠にここで彷徨う事になるぞ」


 周りに広がる数々の世界への入り口をスルーしてその奥の奥の奥の方へ進み、一つの世界へ飛び込む。


 そして真っ白な世界へ到着した。

 空も雲も地面も建物もそこに居る人物すらも全てが白い。

 相変わらず味気ない世界だ。


「……なんで誰も出迎えにこねぇんだよ」


「出迎え……?」


 ギャルンは不思議そうに真っ白な世界を見渡し、小さく「美しい」などと呟いていた。


 何が美しい物か。全てを白に染めそれ以外を認めない世界なんて糞くらえだ。


「うぉぉぉぉぉい!! ヴァルゴノヴァのお帰りだぞぉぉぉぉぉっ!! 今すぐ出てこねぇと地獄の業火でインフェルノってやんぞコルぁーっ!!」


「……なんと品の無い……これが神とは……私はやはり認めません」


「うっせぇなぁ……こう言ってやりゃすぐに迎えが……ほら、噂をすればなんとやらだ」


 随分と控えめな速度で真っ白な連中がぞろぞろと姿を現した。


「お、御久しぶり……です。まさか貴方様が復活なされるとは……ご健勝そうでなにより……」


「そういう心にも無い堅苦しい挨拶はいいからさ、とりあえずリュカっち呼んでくれよ」


「リュカリオン様の事をリュカっちなどと呼ぶのは貴方くらいですよ……とにかく、すぐに呼んで参ります」


 あまりの事に状況を理解できないギャルンは俺の掌の上できょろきょろとあちこちを見回していた。


「その必要は無いよ。まったく……自分でここを出て行って勝手にバラバラになった癖に今更何をしに戻ってきたのさ」


 目の前にふわっと、これまた真っ白な糞神野郎が現れる。


「おーリュカっち久しぶりだな。てめぇ俺に何か言う事あるだろ」


「……はぁ。こうなるのが嫌だったからさっさと貴方をぶち殺してしまいたかったんですよ……。上手く言いくるめたと思ったんですが」


 リュカっちは悪びれる事もなくそんな事をのたまう。


「皆は持ち場に戻って。この人は私が相手をするから」


 リュカっちの言葉でぞろぞろと集まっていた白い連中が帰っていく。


「み、ミナ……いえ、ヴァルゴノヴァ。これはいったいどういう事なのですか」


 ギャルンが痺れを切らせて直接俺に問いかけてきたけど俺は説明が面倒なので「リュカっち、説明してやって」と丸投げした。


「……仕方ないなぁ。こうなってしまったからには私にはどうする事も出来ないからねぇ。一から説明して差し上げますよ。それはそうと貴方、ギャルンとかいったよね。本当に余計な事をしてくれたよまったく……」


「リュカっち?」


「はいはい分かりましたよヴァル様」


 正直俺としてもこんな事になるとは思って無かった。


 リュカっち的にはギャルンのせいでヴァルゴノヴァが復活してしまい、いい迷惑だろうが……そんなの俺のせいじゃないもんね。




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