第450話:ぶっころ。


「行くぞティ……えっと……ティララ」


 くそっ、慣れねぇなぁ。


「照れちゃってかーわいーっ♪ 食べちゃいたいっ!」


「やかましいっ! お前が言うとどっちの意味なのか分からねぇんだよ!」


 キララに至っては一度俺の内臓の味見してやがるからな……。


「大丈夫だから不安がらないで。私達はミナト君を守る為にここに居るんだから。絶対に君を殺させたりしない。勿論、私にもね」


 私にもってなんだよ……。


「これは……どうにも分が悪いですねぇ……どうしたものか」


「教えてやろうか? おとなしく諦めなっ!」


 まずは俺が先行してディーヴァを振り下ろす。

 ギャルンは障壁を張り俺の攻撃を受け止めるが、すぐさま右腕を竜化させカオスリーヴァの力を全力で叩き込む。


 直撃すれば塵も残らない程の威力だっただろうが、障壁をぶち抜く一瞬のタイムラグでギャルンは体をにょろりと細長く変化させてその場を逃れる。


 気持わりぃ避け方しやがって……!


 逃げた先には既にティララが回り込んでいて、巨大なダンテヴィエルを軽々と振り回しギャルンを切りつける。


 あっさりとギャルンは三つに切り裂かれるも、それぞれが地面に落ちると同時に物凄い速さで駆け回り、俺達から距離をとって再び一つに結合する。


「うげげ……あいつの戦い方気持ち悪いんだゾ」


 それは同感だ。

 器用に逃げ回っているが、弱体化したギャルンが俺達に勝てる筈がないだろ。


 俺はギャルンに対して風魔法を放つ。

 それに合わせるようにティララが炎魔法を重ね、炎の渦がギャルンへと襲い掛かった。


「今更私に魔法なんて効くと思っているのですか!?」


 ギャルンが自分の目の前に鏡のような物を生み出す。

 また魔力を吸収するつもりなのかと思ったが、どうやら別の魔法らしい。

 その鏡に炎の渦が映った瞬間、まるで奴が操っているかのように炎の渦が向きを変えてこちらに襲い掛かってきた。

 しかも二つに増えて。


 複製と反射……おそらくアルマの館でグリゴーレ・デュファンとの戦いから発想を得ているんだろう。


 だとしたらこちらも同じようにしてやればいい。


 ティララに向かった魔法はダンテヴィエルによって一刀両断されているので心配は要らない。

 こちらに飛んできた魔法は……。


「カット! コピー! ペースト! コピー! ペースト! コピー! ペースト! 食らいやがれ!!」


 大量の炎の渦を発生させ、それら全てをギャルンに向けて放つ。


「ちっ……!」


 ギャルンはそれぞれに対応させる為の鏡を大量に生み出した。


 さらに倍にしてこちらへけしかけるつもりだろうがそんなもの一時しのぎにしかならねぇぞ!


 炎の渦への対処で手一杯になっている間に俺とティララはギャルンの背後へ転移し、それぞれダンテヴィエルとディーヴァを構え、無防備なギャルンの背中を同時に切りつけた。


 ガイィィィン!!


 器用な事にギャルンはこの状況も予測して背後にも障壁を張っていた。

 しかし、ダンテヴィエルとディーヴァが同時に障壁にぶつかったその時、二つの剣が共鳴するかのように光り輝き、その威力を増した。


「私達の初めての共同作業だゾっ! ギャルン入刀っ!!」


「気持悪い事を……言うなっ!!」


 そして力づくで無理矢理障壁を破壊。

 刃はギャルンまで届かなかったが、衝撃で奴を吹き飛ばす。


「はぁ……はぁ……っ」


「おいおい肩で息してるじゃねぇかギャルンらしくもねぇ」


「……っ」


 とうとう言い返す余裕も無くなったか。


「ふ、ふふふ……なぁに、まだ、まだ……です」


 本当にしぶとい野郎だな……。


「なぁギャルン……お前には今まで幾度も絡まれてその度に本当に俺はムカついたし嫌な思いも沢山したしお前の事をぶっ殺してやりたかったよ」


「……貴女にそこまで想われていたとは、しりません、でしたね……」


「けっ、言ってろ。……でもな、お前との因縁も終わりにしようぜ。もうお前の面は見飽きたよ」


 俺が見てきたのはほとんど能面みたいな仮面だけどな。



 俺はゆっくりと腕をギャルンに突き出し、親指を下に向けてギャルンに最終通告。


「そろそろ死んどけ」


 その合図はギャルンに対しての死刑宣告と同時に、その背後に迫っていたイリスへのGOサインでもある。


「やっちまえ!」


「ぶっ……ころっ!!」


 ギャルンにかなりの力を奪われたイリスだったが、その失われた部分をネコの身体に入っている謎の少女のバフで補い、遜色ない程のオーラを身に纏っていた。


『イリスの力をあそこまで補うほどの強化なんてそう長続きするもんじゃないわ。使用者にもそれなりの負担がかかっているはずよ』


 だとしても問題は無い。

 この一撃で終わらせろ。


「ぐっ、ぬぅぅぅぅ……っ!!」


 ギャルンはギリギリで身体を捻り、必死に避けようとするがイリスの一撃はあまりにも強力だった。


 中心からはズレたものの、ギャルンの身体のほとんどがその一撃で吹き飛び、左腕だけがびちびちと痙攣しながらその場に残り……やがて動かなくなった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る