第449話:もちコース。
動け……動け!
必死に重力に抗っていると、ふいに身体が自由になった。
目の前には蹲って苦しむギャルン。
取り込んだ力に耐え切れなかったのか? 何が起きたのかは全く分からないが、とにかく今がチャンスだ。
飛び起き、ディーヴァを掲げた瞬間目の前が真っ黒になった。
あまりに突然の事で対応できず、俺は何かにぶつかって転がる。
なんだ、何が起きた!? 一瞬早くギャルンが回復して俺に攻撃をしかけてきた……?
しかしその割にはダメージが無い。
ただ何か黒い物をぶつけられただけだ。
すぐに体勢を整え状況を確認するが、そこには……。
「がはっ……な、何が……?」
困惑するギャルンが居た。
先程俺にぶつかったのはギャルンだったらしい。
本体が新たな分体を生み出して俺にぶつけた? 何のために?
しかし、それはどうやら違うらしく黒尽くめの方のギャルンは困惑し、キララを睨みつけていた。
「無様ねぇギャルン。私の身体を勝手に使っておいてただで済むと思わない事ね」
つかつかとキララがギャルンに近寄る。
キララの自我が目覚めてギャルンを身体から追い出したのか……?
迂闊に動けない。
俺はイリスを掌で制止し、様子を見る。
このままこいつらが潰し合ってくれるのなら残った方と戦えばいい。
どちらが残ったとしても先ほどまでのギャルンよりは弱体化しているはずだ。
「く、くくく……そうですか。私の計画は破綻しましたか」
「へぇ、その割には随分楽しそうじゃない」
「いえいえ、私の計画が崩れ去り、魔王キララ様が復活したのであれば私は再びその軍門に下るのみ、ですよ。貴女様が戻られないのであればと思い少々野心を出してしまいましたが……どうやらキララ様は前魔王の力すらねじ伏せられたご様子。私が仕えるに相応しい」
ギャルンはゆっくりと立ち上がり、ふらつきながらもキララに頭を下げた。
こいつはまだキララに取り入ろうってのか? 諦めが悪いにも程がある。
さすがにここまで好き勝手やられてキララが許すとは思えない。
だが、キララは別の意味でギャルンを許す気がなかったのだと、この後知る事になる。
「……ミナト君」
「えっ、な……なんだよ」
キララはこちらを見つめてにっこりとほほ笑む。
「そんなに警戒しないで。今はどう説明したらいいか分からないけど……私はもう、敵じゃないんだゾ♪」
頭を思い切りぶん殴られたような衝撃が走った。不意打ち過ぎる。
「お、お前ティアなのか!? い、いや、もう騙されねぇぞ!!」
「あはは、疑り深いなぁ。今の私はね、このクソ野郎をぶっ潰してミナト君を助ける為に協力したんだゾ。つまり……ティリスティアでもキララでもあるのよ」
そんな馬鹿な。
と、俺が言うよりも先に反応したのはギャルンだった。
「そんな馬鹿な……! 魔王キララともあろうお方が勇者の小娘と一つになっただと!?」
「ほーんと、嫌だったんだけどねぇ……あんたの奴隷として一生付き合わされるよりはよっぽどマシよ」
キララが、いや、ティアか? 分からん。
どちらにせよ彼女が腕を一振りするとギャルンは大きく弾き飛ばされ壁に打ち付けられる。
「な、なんという……事だ」
ギャルンは最早満身創痍と言った状態で、壁にめり込んだ自らの身体をメキメキと引き抜く。
「それもこれもあんたが余計な事をしたせいでしょう? 自業自得ってやつだゾ? 自分の愚かさを呪いなさい」
「ふ、ふふ……そうですか。なるほど……では私が仕えるべき相手は他に考えなくてはいけませんね」
こいつまだそんな事言ってやがるのか?
俺はいい加減腹が立って二人の会話に割って入る。
「お前はもう絶望的な状況だろうが。いい加減諦めて死ねよ」
「つれない事を言わないで下さいよ。私達の仲ではありませんか」
うぇ気持ち悪っ。
「うっせぇバーカ。てめぇはここで死ね!」
こんな奴との腐れ縁なんぞ今日ここで終わりにしてやる。
『気をつけてミナト君、きっと何か企んでるわよ。それに、まだ……』
分かってるよ。あいつはそういうしたたかでムカつくくらい陰湿な奴だからな。
「ごめんミナト君、追い出す時に六竜の核持っていかれちゃった」
ママドラが言おうとしてたのはそれだ。
感覚が鋭くなっているせいか俺にもそれは分かっていた。
「キララ……いや、ティアか? お前らの事信じてもいいんだな?」
正直言うとまだ不安はある。だって、目の前の彼女が半分ティアだったとしても、もう半分はキララなんだから。
「もちだゾ♪ 私の事は遠慮なくティララって呼んでね」
ティララだぁ? ティアとキララでティララかよフュージョンでもしたのかお前ら。
……いや、したのか。
『何の話?』
ママドラは知らんでよろしい。
ティララの様子を見る限り、外見はほぼキララのままだが言動はかなりキララに近いように感じる。
ただ、ギャルンに対する言葉にはキララらしい冷ややかで突き刺すような圧を感じる事もある。
本当に二人が混ざり合ってしまっているような感じだ。
「まぁいい、ティララ。お前のおかげで形勢逆転だ。一気に片を付けるぞ!」
「もちコースだぞ♪」
『もちこーすとは……?』
ママドラは知らんでよろしい。
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