第448.5話:愛しています。(???視点)


「君はこのままでいいの?」


「……」


「はぁ、もう意識も無いって? 役に立たないなぁ」


「……」


 これで彼女が目覚めないなら打つ手が無い。

 彼女が私と同じ気持ちであると信じてその言葉を放つ。


「君のミナト君がギャルンに殺されるゾ?」


「……!!」


 反応有り。


「ミナト君が殺されそうだっていうのに君は何をやってるの? そこでただ眺めてるつもり? はーざっこ」


「ふ、ざけ、るんじゃ……ないわ、よ……」


 今度こそ確かに反応があった。

 やはり消えたわけではない。


「だったらやるべき事は分かるでしょ? 君は私なんだから」


「あんたなんかと、同じだなんて……反吐が出るわ」


 彼女は前魔王の怨念に絡めとられながらも、意識を取り戻した。


「でも……それでも、だとしても……私以外の奴にミナト君が殺されるのを見てるしかないなんて……許せない」


 はぁ……本当にこの狂った子が私とはね……。


「なら手伝って。私達は元々一つ……元の形に戻るんだゾ。君だってこのままいいように使われるくらいならミナト君の役に立ちたいでしょ?」


「……ふん、勝手に私の中から居なくなったと思えば急に帰ってきて今度は一つになれ? ふざけんじゃないわよ」


 そう、私は一度彼女の中から抜け出している。

 リリィがカオスリーヴァの背で魔王キララと対峙したその時、キララの身体から私の精神体だけを抜き取りその体内に吸い込んだ。

 リリィとシヴァルド様はどうにか私の身体の再構成、或いは別の器を、と考えてくれていたみたいだけどそれは間に合わなかった。


 リリィの身体を私が使う事も難しい。なにせ彼女は既にマリウスだったから。

 弱った私の精神なんかじゃマリウスと化した彼女を押しのける事は出来なかった。それに、リリィ側が意図的に交代しようとすれば私が食われてしまうかもしれない。


 それは私の消滅を意味する。

 リリィはともかく、シヴァルド様がそんな危険を許さなかった。

 どうなるか分からない状況だったからミナト君にも話すべきか迷っていたみたい。


 これは多分だけど、復讐スキルの発動条件を崩さない為、という打算も含めてだったんじゃないかな。


 そして、ギャルンと対決したあの時、リリィは最後に自分の中からマリウスを切り離し核を形成した。

 その中に私を隠し、再びキララの中へ戻す為に。


 ギャルンは手に入れた核をキララに渡すだろうと見越して。

 実際はそのキララすらギャルンに乗っ取られていたわけだけれど。


 リリィは私に賭けてくれたのだ。

 それは今の自分の状態を考えれば分かる。

 ぼんやりとした意識しかなかった精神体の私が確固たる意志を持ち、存在としての力が強化されている。


 ギャルンの中でも飲み込まれてしまわぬように、リリィが保護してくれたのだろう。


 ギャルンに乗っ取られたりしておらず、前魔王の力なんかに縛られていなければあっさりとこの身体を取り戻せたんだろうと感じられる程に、リリィの加護を感じる。


 一か八かだったと思うけれど、それでも彼女は私に託してくれた。

 だから私は……仮に私がティリスティアじゃなくなったとしても、彼の為に、ミナト君の為に出来る事をする。


「あっそ、じゃあ君は一生ギャルンの奴隷だしミナト君は死んじゃうね。彼は今回が最後の命だからもう転生も出来ないし、これで永遠のお別れだゾ」


「待ちなさい。ミナト君が、最後の命……? どういう意味?」


「シヴァルド様に聞いたんだゾ。彼はミナト君の記憶にアクセスした事があるからね。ミナト君は仲間に裏切られて死んだ時、神様に無理を言って転生ではなく生き返りを選択してるんだゾ。その代償として、次に死んだらもう終わり。魂のエネルギーを神に明け渡す事になってる」


「そ、そんなの嘘よ……」


「いいじゃん。ミナト君がもしまだ転生できたとしても君はずーっとギャルンの奴隷なんだから。永遠の別れなのは変わらないでしょ?」


「ふざけるなッ!!」


 ひぇぇ……物凄い殺気だ。

 お互い魂という曖昧な存在になっているのは変わらないのに、圧力が半端ない。

 でも、それだけ彼女が目覚めつつあるという事だ。


「私は……私はミナト君が好き。愛してるの。誰よりも、何よりも……だからこの手に、私の物にしたかった……」


 魔王の呪いである黒紫の靄に自由を奪われている魔王キララは、この瞬間ただの乙女だった。


 そして、勿論いつまでもただの乙女では無い。


「だけど……彼という存在が消えてなくなるなんて、私の光が、ヒーローが、この先永遠に失われてしまうなんて許せない認められない許すわけない認めない!」


「……そ。じゃあどうする? 決めるのは君だゾ」


「……りなさい」


「え?」


「早くやりなさい! 力を貸すって言ってるのよ!!」


 やっぱりこの子も私の一部なんだ。そして私は、この子の一部。


「おっけ♪ じゃあ私達でミナト君を救っちゃおう!」


 私は靄に包まれた彼女へ近付、その靄へ手を突っ込み彼女の手を取る。


 勇者であるこの私ティリスティアと、魔王であるキララ。二人の存在が一つに溶け合って、本当の意味で私達は勇者で、魔王な存在になった。


 私達ならこんな前魔王の残滓なんて抑え込める。


 記憶も感情も性格も存在自体が何もかも混ざり合い一つになっていく。


 共通点の少ない私達だけど、それでも一つだけ。


 一番強い感情だけは全く同じ物だった。




 私は……。


 ミナト君を、愛しています。



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