第448話:何かが起きている。
「まぱまぱ! 助けに来たよ!」
「なっ、イリス!? なんでここに!?」
『私はさっき言おうとしたんだけどね……』
ギャルンはイリスの力も狙っている。
戦力が増えるのは非常にありがたいがその分危険も増していく。
出来ればイリスにはこんな場所へ来てほしくなかった。
「遅い到着ですね。もっと早く来るかと思いましたが……出来ればミナト氏が身動き取れなくなっている時に来てほしかったものですよ」
「まぱまぱを虐めたの?」
イリスは俺すらも震えあがるほどの殺意を剥き出しにしてギャルンを睨みつける。
「ふ、ふふ……これだけの力を有してもまだ軽く震えがきますよ。その力、必ず私が手に入れてみせましょう!」
「イリス気をつけろ! こいつの攻撃は……」
パァン!!
「……あ?」
呆然としたのはギャルンだった。
奴は俺に仕掛けていたようにイリスにも同じ攻撃を繰り出した。
超至近距離から突然の魔力衝撃。
しかしイリスは、何の情報も無い状況で、完全に初見だったにも関わらずギャルンの生み出した魔法を叩き落した。
後頭部を狙ったそれを、超スピードでただ単に平手で地面に叩きつけた。
「ふ、ふふふ、ふはははは……これほどとは驚きました。また力を増したのではありませんか?」
「知らないよそんなの。ただあたしはまぱまぱを虐める奴は絶対にぶっころって決めてるの」
そうか、俺はギャルンに虐められていたのか。
「ははは、流石俺の娘だ! イリス、一緒にこいつぶっころだ!」
「うん!」
「その力、必ず私が手に入れてみせますよ!」
ギャルンは目にも止まらぬ速さの攻撃を再び、そして執拗にイリスへと繰り返す。
しかしその全てをイリスはかわし、時に叩き落していった。
その頭部からは角が二本。そして、光り輝く角がもう二本。
どうなってんだ? イリスの角は二本俺が折った筈だが。
『イリスの中に溢れる力が失われた角を補うように……』
そう、まるで行き場を求めた力が溢れ出し、疑似的にその角を再生させているかのような……。
勿論イリスの角は二本折れている。
しかし、イリスの力は角二本では制御しきれず、自ら代替品を形作る事で最大限発揮できるようにしている。
それはイリスの本能からなのか、その潜在能力の大きさ故の現象なのかは分からないが、どちらにせよギャルンのあの攻撃はイリスには通用しない。
「まったく、こうも想像を超えてくるとは……忌々しいがその分興味深いですね!」
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すっ!!」
イリスの動きは鋭さを更に増し、ギャルンの攻撃を潰しながらその距離をどんどん詰めていく。
だがギャルンも大したもので、イリス相手程ではないにせよ俺に対しても同時に攻撃を仕掛けてくるのでたまらない。
俺はイリス程感覚的に動けない。
集中を崩せば一気に持っていかれるので一撃一撃ヒヤヒヤしながら対処していた。
「ギャルン、覚悟してっ!!」
イリスが一気に距離を詰め、身体から溢れ出す力を一点に集中させた拳をギャルンへと打ち込んだ。
「それを……待っていましたよ!!」
ギャルンはイリスの拳と自分との間に鏡のような何かを生み出していた。
イリスの拳がその鏡に触れたその瞬間、力が形を持った奔流となり辺りを駆け巡る。
まるで暴れ狂う雷のようなそれは部屋中を駆け巡り、触れた物を塵と化していく。
それが脇腹を掠めただけで服が一瞬にして炭に変わった。
肌に触れていたらどうなっていた事か。
「イリス、無事か!?」
イリスは慌てて手を引っ込め、ギャルンから距離を取る。
ネコも心配だったが、どうやら自分の周りに強力な障壁を張っているらしいく無事なのを確認できた。
イリスも無事なようだが……様子がおかしい。
まだバリバリと部屋を駆け巡る力の奔流を避けながらイリスの元へ駆けつけると、彼女は地面にへたり込んで俺を見上げた。
「ご、ごめんなさい……あたし……」
「そんな事はいい。それより無事でよかった」
イリスの頭を撫で、手を取って立ち上がらせる。
「くっ……なんと強大な力か……この力、明らかに他の六竜よりも……吸いきれないとは計算外です」
ギャルンが手を翳し天井に穴をあけると、暴れ回る雷のようなそれはその穴に吸い込まれるようにして外へ放出された。
「……ふふふ、しかしイリス、貴女の力……半分ほどは確かに頂きましたよ!」
ギャルンが生み出したあの鏡のような物は、おそらく魔力を吸い上げる為の創作魔法だろう。
キララの身体には既に六竜の核が幾つも取り込まれている為、イリスの力を全吸い尽くす事は出来なかったようだ。
『多分だけどもうあの鏡の心配はしなくてもいい。その代わり……今のギャルンは』
分かってる。
キララのチートボディをパンパンにするほどの力を得たフルパワー状態だってんだろ?
……まずいな。
イリスが想像以上の力を発揮した時が俺達の勝機だったはずだ。
俺がもう少しうまくイリスのカバーを出来ていれば。
『あの鏡はギャルンにとっても一か八かだったはずよ。あれは予測できない……ミナト君のせいじゃないわ』
そう言ってくれるのはありがたいけどよ……誰のせいとかいう問題以前にこりゃあ本格的にヤバいぜ。
「ふふふ……力が溢れる……上手く制御が効かないかもしれません。死なないで下さいよ?」
ギャルンが顔の前で腕をクロスさせ、それを一気に外へ開く。身体が仰け反る程大袈裟に。
それは新たな攻撃の合図だった。
そんな事は見れば分かる。
だけど何をされたのかはやはり俺には全く見えなかったし、力が半減したイリスも同じだった。
突然身体を圧し潰された。
対応不可能な重力波とでも言うのだろうか。
気が付いた時には体を横たえ地面にめり込んで動けない状態。
身動き一つ取れない。
いつまでも続く重力波の中を、ギャルンは悠々と歩いてこちらへ近付いてくる。
「やはり加減が上手くできませんね……しかしさすがお二人とも死なないでくれて助かりますよ。安心してその力を我が物に出来る」
こいつ、キララの身体は既に力でパンパンに膨れてるってのにそれでも尚、当初の予定通りイルヴァリースとカオスリーヴァ、そしてイシュタリスの力を求めるというのか。
声一つ絞り出す事が出来ない。
そしてギャルンが、俺のすぐ前までやってきてその手を俺に……。
俺に……触れない。
……なんだ? てっきりマリウスの力でママドラやカオスリーヴァの核に形を持たせて引き抜くつもりかと思ったんだが。
何かが起きている。
「ぐぅっ……うぐっ、がぁぁぁぁっ!!」
その場に蹲り、突然ギャルンが苦しみだす。
分からない事ばかりだが、今のうちに早くこの状況から脱してしまわないと。
最大のピンチであると同時に最大のチャンスなのだから。
動け。俺の身体、動いてくれ。
いっそ俺じゃなくたっていい。
イリスでも、ネコの身体に入った謎の少女でも構わない。
動け……!
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