第447話:研ぎ澄ませ。集中しろ。



 ネコ……では無い何者かの力はとても強力で、俺に対しての強化効果、障壁、回復等、完全にサポート特化ではあるもののこの戦いにとってはとても優位に働いた。


 俺が気が付かない角度からのギャルンの襲撃すらその力で軌道を逸らして守ってくれるし、こちらがバランスを崩した状態での攻撃も彼女のバフ効果で想像以上の破壊力を叩き出す。


 いくら使用しているのがアルマを宿しているネコの身体とはいえ、サポートにおいてこれだけの効果を発揮できるのはとても人間業とは思えない。


 ギャルンの奴を始末したらその正体について問いたださなければならないが、今はとても頼りになる仲間だ。


 彼女の助けもある上、魔力特化のママドラ、火力特化のカオスリーヴァという二大六竜の力をフル活用している俺には最早ギャルンの分体など全く相手にならない。


 ギャルンはみるみるうちにその数を減らし、残り三体。


 しかし不気味な事に未だに本体は動かない。


「ギャルン、お前の本体はこいつらより歯ごたえがあるんだろうな?」


「……ふふ、安心して下さいミナト氏。心配は無用ですよ」


 何故か余裕に満ちた表情でギャルンがほくそ笑む。


「随分余裕じゃねぇか。この状況が見えてねぇのか?」


「いえいえ、私の分体と戦ってもらったのは単なる時間稼ぎですよ。そしてもうその必要もありません。時は満ちた」


 ……ギャルンの様子を見る限りハッタリの類ではなさそうだ。


『やっぱりあいつ何か企んでるわ。それに……』


 分かってる。

 感覚が鋭くなっている今の俺にはママドラの言いたい事が分っていた。


 キララの身体を使っているギャルン本体から放たれる異常な波動。

 奴の中で何かがおきている。


「ではそろそろ私自らお相手いたしましょうか。……とはいえその分体達も全て私なのですが。……ではこうしましょう、数々の私の分体を殺してくれた怨みを晴らして差し上げますよ」


 そう言うとギャルンは自分の分体達を本体の周りに集め、それぞれに軽く手を触れていく。

 すると、どろりとした黒い液状に戻った分体が本体のキララの身体に吸い込まれていった。


 吸収? いや、今更分体三体程度の力を取り込んだ所で……。


『違うわ。それはどうでもいいのよ。邪魔だから消しただけだわ』


「ふふふ、さて……試してみるとしましょうか」


 ギャルンがそう呟いた瞬間、俺は激しく吹き飛ばされ天井に叩きつけられていた。


 目の前が真っ白になる。

 何が起きた!?


『ギャルンの攻撃よ! 君の足元から!』


 ママドラも焦りを隠せない。

 俺は空中で回転しながら態勢を整え着地。


「ふむ……なるほどなるほど、これはいい」


 ギャルンがこちらに掌を向け、何か来ると警戒したのだが、突如後頭部を激しく叩きつけられ地面を転がる。


「ぐあっ!? て、テメェ何しやがった!?」


「なぁに、やっと自分に馴染んできた力を行使しているだけですよ」


 まずい。何をされているのかさっぱり見当がつかない。


「蒼君大丈夫!?」


「こっちの事はいい! お前は自分の身を守る事に専念しろ!!」


 彼女のバフ効果はまだ生きている。

 ならこれ以上こちらに構う必要はない。

 彼女に、ネコに何かあったら俺の気が狂うかもしれんしとにかくその身体をしっかり守ってもらわないと困る。


『君は……やっとネコちゃんの重要性に気が付いたみたいね』


 うるせぇそんな事はとっくに分かってんだよ!

 照れ隠しで否定してただけだ。

 とっくに、とっくのとっくにネコは俺にとって一番大事な存在になってんだ。

 そう、イリスと同じくらいにな!


『そこでイリスと同じくらいって言葉を付け足すあたりまだ照れが抜けてないのよね』


 やかましい!

 そんな事より……ネコやイリス、そして俺達の世界イシュタリアの為にも……こいつをぶっ潰すぞ!


『ええ。集中して!』


 ママドラがそう言うと、俺の身体に更なる力が漲っていくのを感じる。

 今までの漠然と全力を垂れ流すのとは違い、もっと洗練された力がゆっくりと全身に駆け巡っていく感覚。

 俺の身体がさらに、完全に人間をやめた瞬間だった。


 神経を研ぎ澄ます。

 感じろ。

 ギャルンの攻撃を見切れ。


「ここだっ!!」


 俺は瞬間的に頭を右に振る。

 すると、俺の頭があった場所を何か白い光が駆け抜けていった。


「ほう……これをかわしますか」


 無駄話に付き合ってる余裕は無い。

 こっちは常に集中していないと奴の攻撃を見切る事が出来ない。


 その場を後ろに飛びのくと、地面から真っ白い光の柱があがる。


「どうやらまぐれでは無いようですね……」


 ギャルンから表情が消える。

 奴もマジになったという事だろう。


 今ギャルンがやっているのはただ魔力の塊をリリィ……いや、マリウスの力で新たな魔法としてぶつけているだけだ。


 標的に突然襲い掛かる魔力の衝撃。

 それこそ発生源は俺の身体から数ミリ程度の場所だろう。


 発動した瞬間にはもう遅い。

 気が付いてからでは既に吹き飛ばされている。

 今は謎の少女の力である程度守られているがそれが切れたら一発くらっただけで身体をごっそり持っていかれる可能性すらある。


 落ち着け。

 リリィ程使いこなせてはいない。

 あの女のように途方もない訳の分からない効果は飛んでこない。


 ギャルンの考えうる限りの【常識】の範疇だ。

 なら対処法はある。


 神経を研ぎ澄まし魔力が発生する瞬間を、その予兆を見極めろ。


 出来なければ死ぬ。


 そして防戦一方ではダメだ。

 何か起死回生の方法を……それも出来れば一撃で奴をキララの身体ごと消し飛ばせるほど何かを。


『……あっ!?』

 うるさい、集中させろ!


『で、でも……いえ、分かったわ』


 ママドラの声ですら今は集中力の妨げになる。

 それほどにギャルンの攻撃をかわすのは命がけだった。



 考えろ。

 そして動く時には時間を与えるな。

 全てを一瞬で終わらせる為に必要な事を。


 しかし、そんな俺の集中はギャルンの背後の壁が突然爆発した事で霧散した。


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