第456話:イルヴァリースの願い。
「……この姿に戻るのは久しぶりですわね」
「アルマにも苦労かけたな。ネコの中は大変だっただろう?」
「……そうでもありませんわ。むしろ少し寂しいくらい」
イシュタリアへと帰ってきて真っ先にやった事はアルマの分離だった。
彼女はずっとネコの中に閉じ込められていたような状態だったし、長い事世話にもなったので最初に解放しようと思っていた。
「あの子は思考がちょっと偏っていて少しばかりおバカさんだけれど、慈悲に溢れたとても可愛らしい子よ?」
「……ああ、知ってるよ」
彼女との話も程々に、次はマリウス。
「なんだか不思議な気分ですよ。先ほどまで私達はヴァルゴノヴァだったというのに」
「こうやって顔を合わせるのは初めてだってのにこっちこそ不思議な気分だよ。全部思い出しちまった以上結局みんな俺の一部なんだもんな」
「確かにそれはそうですね。どちらにせよ私は感謝していますよ。あの女性に食われた時はどうなる事かと思いましたからね」
マリウスは、偶然にもリリィと同じ赤髪だった。
以前は俺が適当に自分を分割しただけだったからそれぞれがどんな風になるかなんて考えもしなかったが、思いのほか整った顔立ちをしている。
性別はよく分からんけど。中性的……というかどちらかというと男装の麗人、って感覚の方が近い。
「結果的にこうやってまた自分の生を得られた事が夢のようです」
「これからはまたそれが当たり前になるんだよ」
さて次は……ゲオルにしておくか。
「ギャハハハ! まさかミナトが俺だったとは!」
「その言い方は語弊があるだろ。どっちかっていうとゲオルが俺だったんだぞ?」
「なんだっていいぜ! 俺達は人間の考えた宗教の神なんかじゃなく本当に神だったんだな! さすが俺!!」
……こいつと話してると疲れてるので次だ次。
「ふぅ……上手くいったからいいものの……これはさすがに些か運に頼りすぎではないか?」
復活したシルヴァはしかめっ面で俺を睨んだ。
「いいじゃねぇかよ結果良ければなんとやらって言うだろ?」
「そもそもミナトがいきなり捕まったりしなければあんな面倒な事には……」
「はいはい分かった分かったすいませんでしたねー」
「おい真面目に聞け」
シルヴァはまだ何か言いたそうだが説教に付き合うつもりはない。
そんなお小言はリュカっちだけでお腹いっぱいだぜ。
「お前こそティアの事黙ってやがったな? 既に救出してたなら早く言えっての」
「救出などと呼べる状態ではなかったのだ。いつ存在が消えてしまってもおかしくない程精神体が衰弱していたのでね。あの状態でミナトに伝えたら余計な迷いを増やすだけだろう」
いや、そもそもティアが既に抜き取られてるの知ってたらギャルン戦で騙される事も無かったんだが……。
一応シルヴァも俺に気を使っての事だったみたいだしそれを言うのはやめておこう。
さて……次はとうとう彼女の番だ。
「……なんだか変な気分ね?」
「奇遇だな、俺もだよ」
俺とママドラは見つめ合って、それ以上何を言っていいか分からなくなってしまった。
「えっ……と……久しぶり。で、いいのかしら?」
「え? ……ああ、そうだった。確かに久しぶりだ」
ママドラとこうして顔を合わせるのは俺が生き返りを選択したあの時以来。
ずっと共に生きて、誰よりも俺の事を一番近くで支えていてくれたママドラと、改めてこうして会うとなるとなんだか照れ臭い。
だってママドラは俺の何もかもを知ってるんだから。
「しかしまさか神様になっちゃうとはね……いえ、神様だったとは、かしら?」
「それはママドラだって一緒だろ? 俺達はみんな元は一つだったんだから」
「君を通して大体の事情は分かったけど……今考えるとあの時君が私の巣に現れたのは本当に運命だったのかもしれないわね」
運命……か。
俺はあまり運命という言葉が好きじゃない。
なんだかそれが決められた物、というような気がしてしまって。
「運命なんて言葉は嫌いだ……って顔してるわ」
「さすがママドラ。俺の事は誰よりよく分かってるじゃないか」
「君は神様になってもミナト君なのねぇ」
「俺はいつだって俺だよ。良くも悪くもな」
今までいろんな人生の記憶を引き出してきたし、そのせいでちょっとおかしくなった事もあったけれどそのどれもが俺だったんだから。
結局いつまでたってもどこまでいっても何度転生した所で俺は俺なんだ。
そしてそんな輪廻もこの命で最後。
名残惜しい気もするが、それでいい。
「君も久しぶりの男の姿はどう? やっと元に戻れたわね」
ママドラを分離したら俺の身体は懐かしい元々の外見に戻っていた。
でもなぁ。
「今更過ぎて違和感がすげぇよ。まったく落ち着かん」
「あははっ♪ 君ももう立派な女の子って事よ」
「この身体で立派な女……はまずいなぁ。完全に変態になっちまうじゃないか」
「大丈夫よ。男でも女でも変態なのは最初からだもの」
「うっせー!」
俺達は再び真っ直ぐ見つめ合い、どちらからともなく笑いだす。腹がよじれるくらいに。
「はぁ、こうやってママドラと話せる日がきて嬉しいよ。……ただ、一つ言っておかないといけない事がある」
「……分かってる。リーヴァの事でしょう?」
そう、カオスリーヴァは復活できない。
ママドラは悟っていたのか、力なく微笑む。
「まぁそんなに心配しなくていいよ。自我を目覚めさせるのにまだ時間がかかるってだけだ。全部思い出した俺と一緒に居りゃ二十年もあれば元通りさ」
「二十年……」
「待たせちまうけどな、こればかりは仕方ないんだ。前魔王の力の影響でカオスリーヴァとしての自我が消えかかっていたから」
「ううん、二十年なんてドラゴンからしたらあっという間よ」
そう言う割にはなんだかママドラは悩んでいるようだった。
「だったらそんな顔すんなよ。またすぐに会わせてやるから。そうすりゃ親子の感動の対面だって……」
イルヴァリースとカオスリーヴァ、そしてイリス。
そんな親子が笑いあう光景を想像すると微笑ましくもあり、少し寂しくもある。
でも仕方ないさ。それが本来のあるべき姿なんだから。
「ねぇミナト君、一つお願いがあるんだけど」
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