第455話:神様。
「あのー、うまく纏まった所恐縮なんだけど、結局これからどうする気なの?」
リュカっちが空気を読まずに割り込んできた。
こいつ昔からこういう所あるんだよなぁ。
そのくせ仕事は出来るし優秀だから俺は安心してここを飛び出す事ができたわけだけど。
「どうするもこうするもねぇよ。元通りだ。俺は再び六竜を分離する。ヴァルゴノヴァは廃業だ」
「はぁ……別にこっちとしては全然構わないしそれでいいならむしろ都合がいいけど……ヴァル様はちょっとデカすぎるし、ここに居られるとみんなが恐縮しちゃうというか怖がるんで出てってくれた方が助かるかな」
「お前もう少し言葉をオブラートに包めよな。部下から嫌われるぞ?」
「貴方よりは人望ありますけどね!」
生意気な奴め……。
「で、六つに分かれて、貴方自身はどうする気? また転生を繰り返すの?」
「いやぁ……なんというか、もうヴァルゴノヴァの事は忘れてくれや」
「いや、忘れろと言われても貴方死んだらまたここに来るじゃないか。それとも本当に死んだらエネルギー源になるつもり? こっちは助かるけど」
「いやいや。俺はあの世界で人として生き、生を全うして終わる。それでいいんじゃねぇかな。これを本当に最後の人生にするつもりだよ」
「……あっそ。それならもう二度と戻ってこないでね。皆が怖がるし私も迷惑するから」
リュカっちは腕組みしてふんぞり返り、俺に背を向ける。
まったく……どうしてギャルンといいリュカリオンといいこいつらみんなツンデレなんだろうなぁ。
「言われなくてももう戻らねぇよ。寂しくなったからって妙な刺客送り込むんじゃねぇぞ? 次妙な真似したら本気で神域潰しにくるからな?」
「はいはい、分かりましたよヴァルゴノヴァ様」
「うむ、よろしい! って訳だから俺はもうそろそろ行くわ。ギャルン、お前はどうする?」
「私は……あの世界にとっては害悪過ぎました。戻る訳にはいきませんよ。戻った所で貴方のお仲間に殺されるでしょうしね。どうしたものか……」
俺がジロリとリュカっちを睨むと、両掌を上に向けたやれやれポーズを取る。
「じゃあギャルンの身柄は私が預かろうか? ヴァル様が認めるくらい優秀なんでしょ?」
「いや、私は……」
ギャルンは困ったようにこちらを見上げてくる。
本当に随分と毒気が抜けちまったなぁ。
「いいんじゃねぇの? ここでこき使われてみろよ。今までの人生よりは楽しいかもしれんぞ? 俺は嫌になって飛び出したけどな!」
「それは偉そうに言う事じゃないでしょ……でもそういう事ならギャルンは責任をもってこき使う事にするから覚悟してね」
この真っ白な世界に真っ黒なギャルンが入り込む事で何か新たな風が吹くかもしれないな、なんて事を考えつつ、俺の判断が正しかったのだと再確認した。
本当はギャルンの本当の望みを叶えてやろうかとも思っていたのだ。
ギャルンは、前魔王とカオスリーヴァが戦ったあの時に戻って自らを生み出すのを止めたかった。
つまり、自分の存在を消したかったのだ。
なんでこいつがそんなこじらせちまったのかは分からないが、ギャルンは自分の存在自体にずっと疑問を抱いて生きてきた。
いっそ生まれてこなければよかったと悩み抜いて今に至る。
ヴァルゴノヴァとしての力ならばこいつをあの時間に戻し、カオスリーヴァが分体を生み出すという事象自体を無かった事にも出来る。
しかしそれでは……ギャルンは満足するかもしれないが、それで終わりだ。
それじゃあ俺の気が済まない。
こいつには出来るだけ苦労させてやる。それこそ当時の俺のように逃げ出したくなるような気持ちになればいいんだ。
追い込まれて追い込まれて辛い思いをしてみやがれ。
そうすれば自分が何者なのかなんて悩んでる暇なんて無くなるぜ。
これはある意味でギャルンに対しての復讐だ。
せいぜいこき使われて喚き散らせばいいんだザマぁみやがれ。
「じゃあギャルンの事は頼んだぞ。俺はもう帰る。これが最後だ……じゃあな」
「さっさと行ってよ。もう来るなよーっ!」
「待って下さいミナト氏……!」
リュカっちにいい具合に罵倒されたので気持ちよくここを去ろうと思ったのにギャルンが引き留めてきた。
「なんだよまだ何かあるのか?」
「……その、今まで……」
「おっと、その先は言うな。俺達は敵同士だ。俺はお前の事を理解し、お前も俺の事を理解した。だからと言ってわだかまりが消えたわけでもお前を許した訳でもない」
ギャルンはハッと顔をあげ、俺を睨む。
「……ふふ、そうでしたね。私達はそういう関係でした」
「分かりゃいいんだよ。俺はお前を敵としてすげぇ奴だと認めたんだから。ここから逃げ出した俺よりもすげぇ事を証明してみせろよ神様」
「神様……私が、ですか?」
「そりゃそうだろ。最高神の欠片だぞ? それが神域で働くんだ神様以外のなんだってんだ。ビシバシしごかれてこの真っ白のつまんねぇ神域を改革してみな」
ギャルンは顔に手を当て、俯き加減にほんの少し笑った。
「お? 泣いたか?」
「泣いてません! 今に見ていなさい。私がこの神域を真っ黒に染めて差し上げますよ!」
「おう、楽しみにしてるぜ」
「いや、それは普通に困るんだけどなー」
リュカっちは本当に空気の読めない奴だな。
勿論俺もギャルンもリュカっちの事はフルシカトである。
「じゃあな。二度と会わねぇ事を祈ってるよ」
二人に背を向け、帰ろうとした所で一つ大事な事を思い出した。
「あ、そうだリュカっち」
「なんですかまだ何か?」
「最後にあいつを寄越したのは罪滅ぼしのつもりか? どっちにしても助かったよ。サンキュな」
「さて、何の事だか」
「すっとぼけやがって……まぁいいさ。じゃあな」
帰ろう。
俺の、俺達の世界へ。
待ってる人達が居る。
大切な人達、そして娘の元へ、帰ろう。
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