第443話:六竜の欠片。


 シルヴァの身体は核を取り出された事により消えてしまった。


 最悪だ……!

 これでこの世界を守れる奴は誰も居なくなった。


 勿論向こうにはイリスや英傑達、ラムちゃんなどが残っているが、六竜が全てやられてしまうような相手をどうにか出来るとは思えない。


 エクスなら或いは……と思わなくも無いが、少なくとも現状キララを引きずり出す事すらできていない。


 俺は直接キララと戦って見事にしてやられてしまったが、それ以外戦っていたのはずっとギャルンだけだ。


「くくく、ふふ、くふふふふ……」


 突然キララが妙な笑い方を始めた。


「やっと、やっとだ……これで六竜全てが揃ったぞ」


 キララは何故か話し方も変わっていた。

 というか……。


「誰だお前……?」


 ふいに言葉が出た。

 ママドラが何かしたのか?


『私はまだ何も……』


「不思議そうな顔ですね? あまりに何か言いたそうにしていたので少し話し相手にでもと思いまして」


 そう言ってこちらに近付いてきたのはギャルンだった。


「……俺はお前と話す事なんてねぇよ」


「まぁまぁ、そうつれない事を言わないで下さいよ。それとも……」


「こちらとなら話をしてくれますか?」


 ニタリと、キララが笑ってそう言った。


「なん、だと……? お前、キララをどうしやがった!?」


「私が彼女の意識を封じ込めたとでも思っているんでしょうか? だとしたらそれは大きな誤解ですよ」


 明らかに今、キララの身体を操っているのはギャルンだった。


「いつからだ……?」


「ミナト氏と戦ったのは私ですよ。女性のフリをするというのもなかなか骨が折れますねぇ。ミナト氏の苦労が身に染みた思いです」


「俺は体が女になっても女のフリなんてした事ねぇよ」


「そうでしたか、それは失礼。……ところでミナト氏、貴女は私の目的がなんなのか分かりますか?」


 分かるかそんなもん。こんな奴の考える事が俺に分る訳がない。


「少しは考えてみてくださいよ……わざわざ六竜全てをここに集めた理由をね」


 キララの顔でムカつく喋り方しやがって……。


『君って意外と魔王キララに執着してるところあるわよね』


 そんな事言ってる場合か。どうするんだよこれ……。


『……正直打つ手なしよ。どうする事も出来ないわ』


 諦めてんじゃねぇよ……。

 俺はまだ諦めないぞ。最後の最後までな。


 六竜を集めただけじゃなくその核を回収していく事になんの意味が?


「お前……六竜の力まで取り込むつもりなのか?」


「半分正解、半分はずれ、といった所ですね」


「そもそもどうやってキララの身体を乗っ取ったんだ」


 ギャルンはキララの顔でくすりと笑い、「これは幸運でした」と呟き天井を仰ぐ。


 幸運……?


「魔王キララ様は前魔王の力を取り込みました。私としてはどちらの自我が打ち勝ってもよかったんですよ。相応しい力を持つ者に仕えるのみ、と……そう思っていました」


「それがどうしてこんな事になってるんだよ」


「魔王キララ様は前魔王の力を取り込んだ際自らの中で主導権の奪い合いがおこる……と私は思っていました」


「それが違ったとでも言いたげだな」


「そうなのです。既に前魔王に自我などは存在しなかった。主導権を握るも何も無かったんですよ」


 ……こいつの言う事が正しいのならおかしい。


「だったらキララはどうした」


「前魔王の力に飲まれて彼女の自我は沈みました」


「自我が、沈む……?」


「ええ、しばらくは大暴れしておりましたがね、やがて耐え切れなくなって自我が沈み、ただの抜け殻のようになってしまったのです。これは私にとって予想外で、大きな幸運でした」


 こいつはキララの精神が眠りについた隙をついてその身体を乗っ取ったのか。


 という事はやはりギャルンの本体はただの精神体……?


「私がこの身体を手にした事でいろんな事が分りましたよ。何せ前魔王と魔王キララ……その二人は反発し合い共倒れして眠りについている状態でしたからね。その全てを私がかっさらっていく事が可能でした。いや僥倖僥倖」


 俺は確かにキララに恨みがある。

 なにせ一度殺されているからな。

 それにあいつには嫌がらせも受けたし、とにかくクレイジーな奴だから出来る限り関わりたくなかった。


 だとしても、こんなくだらねぇ終わり方認められるかよ。

 死ぬなら死ぬで俺が殺してやらなきゃ気がすまん。


 こんなクソ野郎に全てを奪われるなんてなにやってやがるんだあの馬鹿……!


「さて……まずはこの脳まで筋肉で出来ている阿呆から頂くとしましょうか」


 キララの姿をしたギャルンは俺の前を通過し、吊られているゲオルの腹部に触れる。


「……む、そうですかそうですか……この身体を持ってしてもゲオルの装甲を貫くのは難しいのですね……硬さしか能が無いとはいえここまでとは思いませんでした」


 どうやらギャルンはゲオルから核を取り出す事が出来なかったらしい。

 どんだけ硬いんだよこいつ……。


「止むを得ませんね。ならば先にマリウスの核を取り込むまで。マリウスの特性を利用すればこの程度容易いでしょう」


 核を取り込んで自分の力にする、なんて可能なのか? リリィはあいつの妙なスキルで無理矢理取り込んでいたんだろう?


『……ギャルンは元々カオスリーヴァの分体だもの。あれでも六竜の欠片なのよ』


 今のキララを操っている精神体がそうだとしてもキララの身体は違うだろう?


『そう、彼女の身体は【特別】なのよ。それは君が誰よりも知っているんじゃないの?』


 ……俺を殺す為に神が送り込んだチート山盛りボディか。


 それを六竜の欠片でありどうしようも無い性格のギャルンが前魔王の力と共に使用している。


 ……最悪だ。


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