第444話:ギャルンの真なる企み。


「ふふふ、魔王キララの身体は素晴らしいですね。まさかこんなにもあっさりと六竜の力を受け入れる事が出来るとは」


 ギャルンはマリウスの核をキララの身体に取り込むと、何かを確かめるように手のひらを開いたり閉じたりしてから、ゆっくりとゲオルの腹部に手を当てた。


「この力は……使いこなすのは難しいですね。彼女は相当稀有な才能を持っていたようですねぇ……」


 やっぱりギャルンといえどマリウス本人すら扱い切れていなかったその力は上手く活用できないらしい。


 そう考えるとやっぱりリリィのあの適応力はどうかしてる。マリウスの力とは相性が完璧だったんだろう。


「しかし……ふむ、この程度なら私でも使用可能なようですね」


 そう言うとギャルンはゆっくりその掌をゲオルの腹部に当てる。

 そして、今度はその掌がゆっくりとゲオルの中に沈み込んでいった。


「ふむ、これはいい。時間をかけてでもいずれ完璧に使いこなしてみせましょう」


 まるで水の中に手を突っ込むくらいの感覚で差し込んだギャルンの手は、引き抜かれた時ゲオルの核が握られていた。


 そして、核を引き抜かれたゲオルの身体はサラサラと砂のように崩れて消える。


 ゲオルまで……。

 まずいぞ、本当にこいつを今すぐに止めないと誰も手が付けられなくなってしまう。


 いくらイリス達が強かろうと六竜全てを取り込んだこいつには敵わないだろう。


「ふふ、ではシヴァルドとゲオルの核を取り込ませていただくとしましょうか」


 先程シルヴァから抜き取った核、そして今ゲオルから抜き取った核を胸に当てると、それらはギャルンの……キララの身体にスゥっと吸い込まれていった。


「くっ……これは……なんと、凄まじい力か。六竜三人分ともなると身体にも負担がかかりますね……しかし、それもこの身体だからこそ耐えられる。まさに器としてこれほど適した身体は他にありませんね」


「もしかしてお前の狙いは……」


 ギャルンが俺を見据えて笑う。


「やっと気付きましたか? 私はこの身体を依り代に、復活させたいのですよ」


 そこで一呼吸置き、ニタリと口角を吊り上げて続ける。


「神竜、ヴァルゴノヴァをね」


「ヴァルゴノヴァだって……?」


 確かヴァルゴノヴァってのは六竜の大元である巨竜だという話だ。

 神竜ってのは初耳だと思うが……。


『神竜……私も知らないわ。ギャルンは私達の知らない何かを知ってる……?』


「ミナト氏、神が貴女を殺す為にどうしてこんなに必死になっているか分かりますか?」


 なんだ? なんでいきなりそこで神が出てくる。


「貴女が強力な力を身に着けたから、ではありません」


「なんだと……?」


「魔王キララは興味が無かったのでどうでもいい情報だったようですがね、私にとってはとても貴重な話でしたよ」


 今のギャルンはキララの記憶すら自分の管理下に置いている。

 キララが神の元で見聞きした事がギャルンが知る。それがなんの意味を持つのだろう?


「神が貴女をどうしても早く始末したかった理由は、六竜イルヴァリースと同化してしまったからです」


「……さっき自分で違うと言わなかったか?」


 ギャルンは顔の前で「ちっちっちっ」と人差し指を左右に振る。

 キララの記憶を取り込んでるせいか妙に人間臭くて腹が立つ。


「私の話をよく聞いて下さいよ。いいですか? 貴女が強力な力を手に入れたからではなく、六竜であるイルヴァリースと同化したから。ですよ」


「それの何が違う」


「違うんですよ。少なくとも神と呼ばれる者達にとってはね」


 同じ力を手に入れる事はどうでもよくてママドラである事が問題……?

 ママドラ、心当たりは?


『えっ、無いわよ!? 神様の話なんて私が分かる筈ないじゃない』


 だったら尚更俺になんて分かる筈の無い話だ。


「ヴァルゴノヴァという我々の元になった竜は……この世界の神でした」


「……あ?」


 なんだそりゃ。聖竜教の神がイルヴァリースみたいなもんか?


「リアクションが薄いですね……何か勘違いでもしているのでしょうか。私が言っているのは言葉の通り、この世界を作り出したのはヴァルゴノヴァだと言っているのです」


「……なに? それはいったい……」


 どういう事だ?

 ヴァルゴノヴァが神様だったと?

 って事はママドラも神様?


『し、知らないわよ私そんなの』


「魔王キララは転生時に神にこの事を説明されています。ろくに聞いてませんでしたがね。まったく、その話を私にしてくれていれば私の計画は初期段階からこの方向で組み立てられたというのに」


「お前は……神を復活させてどうする気なんだ」


「知れた事。私がこの身体を用いて神に至るのです。全知全能の神に……! 神竜ヴァルゴノヴァ……それは時空も世界も時間さえも超越した完全なる存在。あまりの力の強さに他の神たちすら恐れをなし、それを憂いたヴァルゴノヴァはこの世界を創造した後自らその身を六つに砕いたのです。自らの墓標として」


 ちょっと頭が追い付かない。

 それはママドラも同じようで、絶句している。


「俺がその神の欠片と融合してしまった事に気付いたから俺に執着のあるキララにハイスペックな身体を与えて送り込んだと?」


「その通りですよ。よく分かっているじゃありませんか。しかしそのせいでこうして私が六竜全ての力を手にする事が出来るのです。神も愚かな連中ですねぇ……私が神に至った後は神界すら制してみせましょう。くふふふ、ふはははははははは!!」


 やべぇ。

 俺が想定していたより余程やばい。

 この世界だけではなく、このままでは全世界、文字通り全てが……それこそ地球や神の世界までもこいつに支配されてしまう。


 なんとしてもこいつを止めなければ。




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