第442話:交換条件。
「……何を考えてるんです?」
リリィが警戒するのも当然だ。
ギャルンが無条件にシルヴァを返すはずがない。
「いえ、貴女がたの連携や信頼が反吐が出るほど見事でしたのでね。ちょっとした気まぐれですよ」
シルヴァは囚われた檻の中でぐったりと倒れている。
このままではシルヴァは……。
しかし、だからといって条件をのむのは愚策だろう。
「貴女が私の出す条件をクリアできるのであればシルヴァを放しましょう」
ダメだ。受け入れるな……!
「……言って」
「ふふ、どうやら貴女の力はマリウスの可能性を最大限に活用している……そうでしょう? 驚くべき事ですがね」
「……わらわに難しい事はわかりません」
数回リリィと戦った事で、ギャルンは彼女の力がどういう物なのか把握しかけている。
マリウスの元々の力を理解しているからこそ見当をつける事ができるんだろう。
「そんな事より早く条件を言って下さい」
リリィはぴくりとも動かないシルヴァの事が心配で仕方ないらしくギャルンを急かす。
この時点でギャルン中心の流れが出来上がってしまっている。
「簡単な事です。貴女の中からマリウスの核を取り出しこちらに渡して頂きたい」
「そんな事……わらわ、どうやったらいいか……」
ダメだダメだ。仮にそんな事が出来たとして、リリィが戦力を失ってただの人間に戻るって事はギャルンにとっての脅威が何一つなくなってしまう事を意味する。
つまりあいつはただリリィを無力化したいだけだ。
ただの人間相手にギャルンが何をするか分からない。それに核を渡したとしてシルヴァが助かる保証は無いんだからここはリリィの力でシルヴァや俺達を解放する一手を考える方が……。
『無駄よ。そんな、少し考えれば誰でも分かるような事が分らなくなってしまうのが乙女心ってものなんだから』
妙に悟ったような事言ってんじゃねぇよ! そんな事になったらもう俺達は終わりだぞ!?
『だって私達はもう手も足も出せないのよ? 成り行きを見守るしかないんだもの……見ていましょうよ。彼女が選ぶこの世界の未来を』
あいつ一人の決断に世界の未来がかかってるとか重すぎるだろ……。
こんな時に俺は何をやっているんだ……畜生、畜生……!
「出来なければシルヴァを始末し、貴女から無理矢理核を引きずり出すだけです」
確かシルヴァの話ではリリィは完全にマリウスをその身に取り込んで融合してしまっている……という話だった筈だ。
『それでも……彼女の力ならば、自分の中にあるマリウスの力に形を持たせてそれだけを取り出す事も出来るかもしれないわ』
彼女自体がそれを望めば、確かに可能なのかもしれない。
「わ、分かりました……やってみます」
「や、めろ……」
意識を取り戻したシルヴァがリリィを制止する。
ギリギリでよく目覚めてくれた!
「シルヴァ様!」
「ダメ、だ……」
「まったくうるさいですねぇ。今は私と彼女が話している最中です。少し黙っていなさい」
もう一人のギャルンが氷の槍を生み出し、檻の隙間からシルヴァをくし刺しにした。
「ぐあっ……!」
「シルヴァ様!? 何をするんですか! 話がちが……」
「貴女がしっかりとこちらの要望に答えられるのであれば放して差し上げますよ。早くしないと……」
再び檻の傍らに居るギャルンが氷の槍を生み出す。
「分かりました! 分かりましたから……!」
リリィはぎゅっと目を瞑って自らの胸元に手を当て、集中。
シルヴァはなんとかリリィを止めようとするが、血を吐き言葉が出せずにいる。
そしてリリィは……いつの間にかその両手に、輝く球体を掴んでいた。
「おぉ……素晴らしい。さぁ、マリウスの核をこちらへ」
手を差し伸べるギャルンをリリィはキッと睨みつけ、「先にシルヴァ様を解放してください!」と叫ぶ。
「ふふ……いいでしょう」
パチリとギャルンがその節くれだった指を鳴らすとシルヴァを捕らえていた檻が砕け、シルヴァは地面に転がる。
「さぁ、こちらへ」
手を差し伸べるギャルンに、リリィは更に告げた。
「それではただ解放しただけじゃないですか! せめてシルヴァ様を回復……」
「調子に乗るなよ小娘。条件を出せる立場ではないでしょう? こちらは約束をまもりシルヴァを解放した。さぁ核を渡すのです」
「そんな……このままではシルヴァ様が死んでしまいます!」
「……まったく面倒な。まぁいいでしょう、どのみち貴女は既にただの人間。殺して奪い取ればいいだけの事」
「ひっ……」
ギャルンが片腕を巨大な鈎爪に変化させ、リリィに向け、振り下ろす。
腰が抜けてしまったのかリリィはその場にへたり込み、そのおかげでかろうじて鈎爪をかわす。
だが……。
「大人しく渡していればいい物を。しかしこれが手に入ればお前に用はありません。死になさい」
「シルヴァ様……シルヴァ様ごめんなさい……っ!! わらわは……」
リリィは空っぽになった手を見つめ、ガタガタと震える。
既にギャルンの手にはマリウスの核が握られており、もう片方の腕が今度こそリリィを捉えようとしたその時。
「させ、るか……ッ!」
リリィの身体はその場から消え失せた。
「……最後の力で彼女をあちらの世界へ強制的に転移させた……といった所でしょうかね」
「……」
シルヴァは答えない。
応える事も出来ない。
そして、もう一人のギャルンはシルヴァの傷口に手を突っ込み、光り輝くシヴァルドの核を取り出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます