第436.4話:イシュタリア防衛戦線2(ラム視点)


 さて、リリアの方はあれだけ優勢ならば問題なかろう。


 次はシュマルの方へ様子を見に行こう。

 エクサーの転移装置を使ってシュマルの首都ガリバンへ。


 少々時間をかけて魔力を練り、サーチをかけると強力な魔力反応がこちらに一体向かっている。


 幸いそれ以外に大きな反応は無いが……今までの幹部連中の中でもかなり大きな反応じゃ。


 こちらには確かリザインのとこのシャドウとシャイナ、そしてアリアが守備に当たっているはずじゃな。


『アリア、アリア聞こえるか? ラムじゃ』


 アリアに直接通信で連絡を入れた所、慣れてないのかかなり慌てておった。


『なっ、ななな、ラム殿か?』


『うむ、今お主の頭の中に直接……ってそんな事はいいのじゃ。ガリバンに強力な魔物が向かっておる。皆で対応にあたるのじゃ』


 儂はアリアに皆を集めるように伝え、魔物が来るであろうポイントに先回りをした。


「お主ちょっと来るのが早すぎるのじゃ」


「……む、そうだったか。じゃあそちらの準備が整うのを待たせてもらおう」


 筋骨隆々、といった風貌の狼のようなその魔物は、腕を組んでその場で胡坐をかいてしまった。


「なんじゃあ? お主ガリバンを落としに来たのではないのか?」


「確かにギャルンからはそう命じられているが、方法まで指定された覚えは無いからな。準備が出来たら教えてくれ」


 ……正々堂々闘う、とでも言いたいのじゃろうか?


 結局その魔物は胡坐をかいて目を瞑り、何も無防備に待ち続けた。

 そんな態度を取られてしまっては不意打ちで仕留めるなんて真似が出来ようはずもない。


「……む? あの馬鹿ども……すまん。他の連中がしびれを切らしちまったようだ」


 その魔物の背後から、おびただしい数の小型魔物が大挙してやってくるのが見える。


「まさかとは思うがアレが来るまでの時間稼ぎをしていたわけではあるまいな?」


「このキールドゥを見くびらないでもらおう。そんなつもりはないぜ」


「ふん、どちらにせよ問題無いのじゃ。こちらも準備が整った」


 既に儂の背後にはアリア、シャイナ、シャドウが駆けつけている。


「遅れてすまない! その魔物が……?」


 アリアの言葉に儂が頷くと、シャイナがその背後に迫りくる魔物に気が付いた。


「待ってくれ、あの後ろの大量の魔物は……」


「ひーっ、こりゃまた敵さんも本気だねぇ。おいちびっこ、そいつの相手に何人必要だ?」


「誰がちびっこじゃ誰が! ……出来ればアリアはこちらに回してほしい所じゃが……むしろお主等があの数の魔物相手にどれだけ耐えられる?」


 失礼な軽薄男シャドウに質問で返すと、彼は「ひひっ」と気持の悪い笑い方をして予想外の返事をしてきた。


「あんな雑魚ども俺にかかりゃ皆殺しだぜ。あ、でも時間かかるからそっちがいらねぇならシャイナは借りてこうかな」


「随分大きくでたのう? ならば任せるがよいな?」


「えっ、えっ? 私と、こいつであの数の魔物をなんとかするのか!?」


 当のシャイナは顔面蒼白だったが、シャドウはその肩をぽんと叩いて笑った。


「任せときなって。俺の能力はこういう時便利だぜ? 俺空間に引き擦り込んで一匹ずつ八つ裂きよ」


 俺空間とかいうクソダサいネーミングはともかく、確かに奴の力は強力だ。


「あれだけの数を取り込める空間を作れると?」


「余裕だぜ。むしろ俺にはそれしか出来ないからな。じゃあシャイナ、覚悟決めていっちょ行こうや」


「えっ、えーっ!? よ、よし……私も防衛隊の一員、ミナトに任された仕事をきっちりこなしてみせる!」


「そうこなくっちゃな。じゃあちょっくら行ってくるわ」


 そう言うやいなや、シャイナとシャドウの姿が消えた。

 いやそれだけではない。


 迫りくるおびただしい数の魔物が、全て消失した。


「……驚いたな。どんな手品だ? ……まぁいい、これで邪魔が入らずに戦えるというものよ」


 正直儂も驚いていた。

 あのシャドウの特殊空間はマジックストレージの応用か何かだと思っていた。

 だとしたらシャドウの魔力であれだけの魔物を取り込めるはずもない。

 アレはああいう空間を作り出し相手を内側に捕らえるという魔法なのだ。魔力量というよりも技術でカバーしているのだろう。


 どういう経緯で習得に至ったかは分らんがとても興味深い。


 ……と、そんな事を考えている暇は無いんじゃった。


「アリアよ、こいつは相当強いのじゃ。一気にいかないとやられてしまうぞ」


「承知。ダリル王国騎士団長、アリア・レイ

 ウェル、死ぬ気で挑ませてもらう!」


 死ぬ気はダメじゃろ……ミナトが悲しむでな。

 しかしこのキールドゥとかいう魔物、抑えていてもなんという禍々しい気じゃ。


「本当に二人だけでいいんだな?」


「くどい。こちらの準備は完了じゃよ」


「……分かった。では……勝負といこうか!」


 魔王軍幹部キールドゥはその狼のような大きな口でとても愉快そうに笑った。


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