第436.2話:イシュタリア防衛戦線1(ラム視点)
ミナトは無事じゃろうか。
儂が心配なぞせんでもあやつは上手くやるであろうが……。
早く帰ってくるのじゃぞ。
無事に帰ってきたらその時は……儂ももう少し……いや、何を考えとるんじゃ。
その時はその時考えればよい。
どうせすぐに帰ってくるのじゃから。
さて……ミナト達も向こうで頑張っておるのじゃろうし、儂も自分のやるべき事をやらねばな。
儂の担当はダリル全般じゃが、こちらに向かっている大きな魔力反応は一つだけ。
最初はアリアがダリルを担当したいと言っていたが、戦力の分散を考えてシュマルに向かってもらった。
儂はダリルを片付けてから各地を回って皆の補佐をする事になっている。
「という訳じゃからお主に構っている時間はないのじゃ」
「……貴女一人で私を相手にしようと? 自分に自信を持つのは良い事ですが少々気に障りますね」
なんじゃこいつ。
表れた魔物はほぼ人型で、細身、緑やらピンクやら混ざったカラフルな長髪。
そして中性的な服を身に纏ってやたらとジャラジャラアクセサリを身に着けている。
随分人間じみた奴である。
「まぁいいでしょう。この広いダリル王国を私一人が任されているという意味を思う存分味合わせてあげますよ。この魔王軍一美しいビシュアール様が」
「やかましいわ」
儂は左手でアイスランス、右手でファイアランスの魔法を同時に放つ。
それらは空中で螺旋状に絡まり、両側性を保ったまま威力を倍加させ突き進む。
「おお、なんと美しい魔法でしょう! 貴女の美的センスは素晴らしい! この私の相手に相応しいですね!」
ビシュアールとやらは急に掌を返したように儂をほめちぎり、眼前に迫った魔法を摘まんだ。
「しかし……私に魔法は通用しませんよ。相当な使い手のようですが相性が悪かったですねぇ。私以外の幹部相手なら貴女にも勝ち目があったでしょうが……え、ちょっと……? 待って下さいそれは卑怯では!?」
こいつに魔法が効かないのは理解した。
そしたら儂には攻撃方法が無い、と思われるかもしれんがそんな事は無い。
魔法が効かないのなら魔法で物理攻撃をすればいいだけの事じゃった。
奴がベラベラと喋っている間に魔力を練り、ここいら一体の地面から岩石を生み出す。
小さな街なら一撃で潰せるほどのサイズの岩石を。
「言ったじゃろ? 儂は忙しいんじゃお主に構ってる暇など無いんじゃよ」
「えっ、嘘でしょ? ちょ、ちょっとまっ……」
儂は空中に転移して、風魔法で巨大岩石を一気にビシュアールへと落とした。
激しい轟音と土煙が吹き上がり、魔力反応が消える。
「ふん、魔王軍幹部も他愛ないのう」
種の力さえ使われなければどうという事は無い。
それが分かっただけでも十分じゃな。
とはいえこいつが極端に弱かっただけの可能性もあるから早めに他の助っ人に行った方がよかろう。
万が一の時の為に王都の転移装置は消費したくないので一度デルドロまで自力で転移し、そこに設置してある転移装置を使ってリリア帝国の帝都エグゼスタへ向かう。
そこでは既に魔王軍の幹部と思わしき魔物と英傑達が交戦中だった。
「レナ、状況はどうなっておるのじゃ?」
「あ、ラムちゃん、そっちは終わったの?」
その言葉に無言で頷くと、レナも状況を説明してくれた。
「こっちも大丈夫。あちこちに分散して四体くらい来たけど英傑達がそれぞれ対処してるよ。ここにいる奴とエクサーに行ったので最後だと思う」
「うむ、流石英傑達じゃな」
いくら魔王軍幹部と言えどこの国の英傑が集結すればどうという事もない。
あの種の力を使えば状況がひっくり返る事もあるかもしれんが、どうやら今のところ種を使う奴はいないようじゃ。
アレを使うという事は自分を捨てるという事。
つまり自分の命と引き換えに魔王の命を守る。
そのくらいの忠誠心が無ければ使う事はあるまい。
「こちらは任せてよいな?」
「うん、大丈夫だよ。ラムちゃんは他の所見に行ってあげて」
「分かったのじゃ」
その場を後にしようとしたらレナに「ねぇ」と呼び留められる。
「なんじゃ?」
「ミナト……大丈夫だよね?」
「ふふ、当然じゃろ?」
レナは頷き、微笑む。
さて、シュマル方面に行く前にエクサーの様子も確認しておくか。
「な、なんじゃぁぁぁ!?」
エクサーへ移動すると、人を百人ほど上に積み上げたかのような巨大な魔物が暴れていた。
知性は低そうで、とても幹部には見えないが……魔王軍もこんな隠し玉を用意していたとは。
「ウゴォォァァァ!!」
……いや、違う。暴れているのではない。
あれは……苦しんでいる?
街の入り口から、魔物の方へもう少し近寄ってみると……。
「フフフ、フハハハ! ぬるいぬるいぬるいわっ! 図体だけの木偶の坊でエクサーを落とそうとは愚か者め!! 余に戦いを挑んだ事をあの世で後悔するがいい!」
エクスが何やら筒のような物を沢山宙に浮かべ、そこから高火力の砲撃を繰り出しつつ、恐ろしく長い光の剣を振り回して巨大な魔物を切り刻んでいた。
「……ここは問題なさそうじゃな」
むしろ魔王討伐にエクスを連れていけばよかったんじゃなかろうか?
そう思わせるほどに目の前の光景はエクスの一方的な蹂躙だった。
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