第436話:いつだって甘さは身を滅ぼす。
今にも崩れ落ちそうな城の中を進む。
リリィの言っていた事は本当だったようで、進む中で魔物に一回も遭遇しなかった。
ここに魔物は配置していないという事だろう。
そうするとギャルン意外の魔王軍幹部が残っていたとしたら、それらは全てあっちの世界に行っている事になる。
ラム達は上手くやってくれるだろうか?
いや、別に不安があるわけじゃない。
あっちにはイリスだって居るんだから。
城の中は魔王城、という名に相応しく、ダリルやリリアの城に比べて複雑な造りをしていたが、特に進行を妨害するような仕掛けも無く上層階へ向かう事が出来た。
一階層上がるごとに端から端まで移動しないと次の階段が現れないのは少々面倒ではあるが、邪魔が入らないのでスムーズに進む。
これまで誰にも遭遇しないし、誰かがここを通った形跡も無い……。
キララが既にこの先に居ないのか、或いは俺が一番乗りかそのどちらかだとは思うが。
まさか俺以外の連中はどこか別の空間とかあっちの世界とかに放り出されてるなんて事はないよな?
『それも確認のしようが無いわね……でもわざわざ六竜を全部連れてこいと言ってたんだから向こうに追い返してるのは考えにくいわね。バラバラに転移させたか、或いは私達意外隔離して閉じ込めてるか……』
他の連中が全員掴まってしまってるという可能性も考えなきゃいけないのはしんどいが、さすがにシルヴァあたりは無抵抗で捕まるような事もないだろう。
とにかく俺はまず玉座まで真っ直ぐ向かってそこに奴等が居るかどうかですぐに対応を考えよう。
進むスピードを上げ、更に階層を二つほど進むと目の前に禍々しい扉が現れた。
以前デュスノミアでキララと対峙した時のあの場所に似ている……。
これは……。
『居るわ』
ああ、ビンゴだぜ。後は他の連中が到着するまで俺がとにかく時間を稼ぐ!
勢いよく扉を蹴り破り、中へ突入すると玉座に余裕の笑みでふんぞり返っているキララの姿。
そして、そして。
「ネコ!?」
キララのすぐ脇の壁に、ネコが両腕を拘束されて吊るされていた。
「あら遅かったじゃない」
「キララてめぇ……」
「君にはこれが一番効果的でしょう? だからまず真っ先に抑えさせてもらったのよね」
キララは一切表情を変える事なく淡々とそう呟いた。
「で、どうする? 戦う? それでもいいけれどこの子の安全は保障できないわよ」
「俺が大人しくお前の言う事に従った所で同じ事だろうが……!」
こういう取引を持ち出す奴ってのは必ずこちらを裏切るものだ。
どちらに転んでも人質は危険なまま、被害者が一人から二人に増えるだけ。
分かってる。
分かってはいるんだ。
だからと言ってどうしろと?
「ふぅん……だったらいいわ。私はこの子に一切手を出さない。約束してあげる。だからやりましょう?」
いつになくキララが俺に対して好戦的なのが気になるが、どちらにせよ俺に拒否権は無い。
「私に勝ったらこの子を解放すればいい。その代わり……私が勝ったら……分かるわよね?」
その場合はネコは殺され俺は一生こいつの奴隷として生きていく事になるだろう。
だが俺は今までの俺とは違う。
キララがどれだけ力を増していようとも、逃げる訳にはいかない。
ママドラだけでなくカオスリーヴァの力をも受け継いだ今の俺なら、他の連中が来るまで戦いを長引かせるくらいはできるはずだ!
俺はストレージからディーヴァを取り出し、複数の属性魔力をこめる。
「……へぇ、そんな事も出来るようになったんだ?」
「余裕ぶっこいてられるのも今のうちだ……ぜっ!」
足に竜化の力を集中させ、爆発的な推進力を得る。
一気に間合いを詰めそのままキララの胸元を貫く……!
「あぶないあぶない」
キララは最低限の動きでさらりとかわしてしまうが、俺の目的は別にあった。
「ネコ!」
ネコを拘束している蔦のような物を一閃するも、何か固い物にぶち当たってはじき返されてしまった。
「うぉっ!?」
「分かりやすすぎるのよね。対策くらいしてるに決まってるのに」
そう言いながらもキララの顔は笑っていなかった。
いつもの奴ならもっと笑いながら俺をからかうような戦い方をするはずなんだが。
前魔王を取り込んだ影響で思考に変化が出てきてるのかもしれない。
『考察は後にしなさい!』
……ネコを先に確保するのは無理か。
それなら出来るだけ派手なのをぶちかまして他の連中に俺の居場所を伝えるしかないな。
ジュディア、お前の技を使わせてもらうぞ。
あの身体に放つのはお前は嫌がるかもしれないが許してくれ!
「行くぞ……! 聖光翔凰乱舞!!」
「忘れたの? その技は私には効かない」
高速の十六連撃は全てかわされていく。
しかしこいつがかわせるのは一度見切った事のある攻撃だけだ。
俺は連撃を十四で止め、そこからすぐに別の技に切り替える。
「……ッ!?」
「もう遅ぇよ!」
余裕かましてギリギリでかわしていたのが裏目に出たな。
一気に吹き飛ばしてやる!
「天楼斬魔……」
必殺の一撃を振りかぶり、ディーヴァを一気に振り下ろそうとした瞬間。
「……ミナト、助けて……」
キララの髪の色が、黒紫から鮮やかな青に変わっていた。
『ミナト君、ダメ!』
俺は思わず振り下ろす手を止めてしまった。
そして、俺の腹部にキララの指が、とん、と触れ……ずぶりとその手が入り込んで中をかき回す。
「相変わらず馬鹿ねぇ……ん……やっぱり同化しちゃってて取り出せないか。まぁいいわ、少し眠ってて」
『ミナト君、ミナト君! しっかりして!』
ああ、やっぱり甘さが身を滅ぼすんだよなぁ。
遠くなる意識の中そんな事を考え、情けなくてつい笑ってしまった。
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