第432話:最後の一人。


 さて、そろそろ全員終わっただろ。

 皆と顔を合わせるのもなんだか気まずいのでこのまま寝ちまおうかな。


 ベッドに横になってはみたものの、みんなとの話が頭を駆け巡ってなかなか落ち着かない。


『そんなムラムラするならネコちゃんでも呼べば?』


 お前さぁ……そういうんじゃないんだって。


『すっきりするには一番の方法だと思ったんだけどねぇ』

 お前が楽しいだけだろそれ。


 帰ったら問題が目白押しなんだから今はもうあれこれ考えるのやめだ。

 さっさと寝て戦いに備えよう。


 しばらくもやもやしながらもなんとか眠りについた頃、何かが身体にしがみ付いてくるのを感じてまたネコか……と部屋から叩き出そうとしたのだが……。


「あ、まぱまぱ起こしちゃった……? ごめんなさい」


「い、イリス!?」


 布団に潜り込んで俺にひっついていたのはイリスだった。


「えへへ……あたしはいいかなーって思ってたんだけど、やっぱりちょっと寂しくなっちゃって。だってまぱまぱ最近あたしに構ってくれないから」


 イリスが黒鎧になって、帰ってきてから……俺は今まで以上にイリスを大切にしようと思ってきた。


 だけど、その想いとは逆に、どう接していいかが分からなくなっていた。

 イリスはもう子供じゃない。自分でしっかり考えて行動が出来る立派な大人だ。


 あまり過保護になりすぎるのも可哀想だし嫌われるんじゃないかという不安もあった。


 何もかも言い訳にしかならないが、確かに俺はイリスと少し距離を置いていたように思う。


 それで寂しい思いをさせていたんだとしたら親失格だ。


「ごめんな」


 なんとかそれだけ口から捻り出してイリスの頭を撫でると、気持ちよさそうに目を閉じて俺の身体に回した腕に力がこもる。


「えへへ~♪ こうやって寝るのも久しぶりでしょ? いつからか一緒に寝てくれなくなっちゃったから」


 それはイリスが育っていろいろ立派になっちゃったからなんだけどとても本人には言えない。


『私に筒抜けなんだけど?』

 大目に見て下さい。


「まぱまぱはちゃんとあたしの事好きでいてくれてる?」


「あ、当たり前だろ……?」


「ならいいんだけど……今日はこのままここで寝てもいい?」


「……ああ、勿論いいに決まってるだろ?」


 ……ほんとはちょっと困るんだけど。

 何せイリスは本当に綺麗で可愛く育った。身体もあちこち育った。


 つまりあまり心臓に良くない。


『君はとうとう自分の娘にまで……』

 違う違う。そんなつもりはなくたってこんな美人が同じ布団で寝てたら誰だって頭おかしくなるって。間違いない。


『まぁイリスは母親の私から見ても完璧に育たけれど……確かにミナト君が欲情するのも仕方ないわね』

 嫌な言い方しないでくれる? 緊張するって言いたいだけだからね!?


「えへへ……やっとまぱまぱと一緒に寝られるね♪ まぱまぱあったかいなぁ~」


「ちょっ、イリス……あまりもぞもぞするなってくすぐったいよ」


「やーっ! まぱまぱ服脱いで。あたしも脱ぐから」


「なんでっ!? 何がどうしてそうなった!?」


「だって直接の方があったかいもん」


 ……いや、だからってそれはまずいだろ。いくら親子だからってそういうのはちょっと。


「えいっ!」


「うわっ、ちょ、ちょっと……! ひーっ!」


 まさに力尽くというやつだった。

 あっという間に俺は服をひん剥かれてベッドに転がされる。


「お、おい……!」

「あたしも脱ごうっと♪」


 イリスはすぽーん! と豪快にワンピースを脱ぎ棄てた。その下には何も身に着けていない。


「こ、こら! もう大人なんだから下着くらいつけなさい!」


「えー? 苦しいからやだなぁ」


「だめ! ぜったい!」


「うーん……じゃあ明日からつけるね?」


 ダメだ今下着をつける気は一切無いらしい。


 イリスはすっぱだかで俺に抱き着いてきて、「……ねよ?」と甘い声を出す。


 この子の場合はどこかの馬鹿ネコと違って本当に言葉通りの意味なのだが、さすがにこの状態で抱き着かれてたらどうにかなってしまいそうだった。


『……分かってるわよね?』

 わ、分かってる……分かってるって……。


「まぱまぱあったかいなぁ~♪ なんだか懐かしくて……気持ち、いいな……」


 俺の身体に抱き着いたままイリスはぐっすりと眠りに落ちていった。


 服を着ようかとも思ったが、イリスにがっちりホールドされていて身動きが取れない。

 それどころか俺の身体にイリスのあれやこれが押し付けられていて目のやり場に困る。


『見なきゃいいのよ』

 善処はするがこの場合どうにもこうにも……。


『君もさっさと寝なさい』


 心なしかママドラの声が冷たい。

 今までの俺をけしかけるような態度が嘘のようだ。


 まぁ相手が娘ともなればそれも当然だ。

 だから俺がこんな気分になるのもおかしいのだが、だからと言ってこれは普通しんどいって……。


 結局のところ、眠気が限界に来て眠りに落ちるまで、五時間かかった。



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