第418話:夫であり、妻であるという事。
……何やら声が聞こえる。
「それで、首尾の方はどうだった?」
「それがよく分からないです……ごめんなさい」
「いや、仕方ないさ。とりあえず何か分かったらすぐに……おや、起きたかね」
目を開けると俺の目の前にシルヴァ。
「……ん、さっきほかに誰か……いや、それより俺は……何が、一体どうなったんだ?」
「ミナトはカオスリーヴァを取り込んだ衝撃に耐えきれずに意識を失っていたのだ。君がもう人間をやめていたとしても精神体は人間だからね。そこに二体目の六竜が、しかも半身を無くし空洞の状態の六竜が紛れてきたんだ。その反動は相当な物だろう」
空洞だったら何が問題なんだ……?
「よく分かってないようだから説明してあげようじゃないか。いいか? リーヴァは半分の存在になっていた。それは分るだろう?」
俺が横になったままシルヴァの言葉に頷くと、彼は満足そうに微笑み、続けた。
「例えば半分だけ水の入ったコップをバケツに入った水の中に入れたらどうなる?」
「……? コップ分の水が増えるだけじゃないのか?」
「そうではない。半分水が入ったコップごとバケツに沈めるんだ」
……すると、バケツの水の中にコップが沈んでいって、コップが完全に沈む瞬間に……。
「コップには半分しか水が入っていないからね。コップが沈みきればバケツ内の水が一気にコップになだれ込む。つまりはそういう事が君の中で起きたんだよ」
分かりにくい例えだなぁ……。
「要するに俺の中に入ったカオスリーヴァの空洞部分に俺が引っ張られたって事か?」
バケツに入った水が俺。
カオスリーヴァの核が半分水の入ったコップ。
つまりはそういう事が言いたいのだろう。
「大体その認識で間違いない。言っただろう? リーヴァの空白を君が代わりに埋めるんだ、とね」
「結局のところ、リリィがマリウスを取り込んだのと同じような事になったのか?」
空白を埋めるとか言われても何かしたわけじゃないし勝手に引き擦り込まれて意識がふっとんだだけだから全く実感がわかない。
俺が既にイルヴァリース、カオスリーヴァと同化しているというのなら俺の中に六竜が二人いる状態なんだよな?
「リリィとは状況が少し違うな。彼女は人の身でありながらその素質、能力によってマリウスを吸収しその力を無理矢理自分の物にしてしまった。その点君は既に竜だからね。ただ六竜が六竜の核を引き継いだに過ぎない」
「……竜ってのはそんな事が当然のように出来るもんなのか?」
「普通の竜なら無論そのような事は出来ないさ。しかし我々は元々一つ。ヴァルゴノヴァから分かたれた存在だからな。一つに融合する事も容易い」
そんなもんなのか?
だったらやはり俺は今ミナトでイルヴァリースでカオスリーヴァって事であってるんだろう。
「実際ミナトの中のカオスリーヴァに自我が戻るような事があれば分離する事も出来るだろう」
「……待てよ? だったら俺とママドラが分離する事も出来るのか?」
「それは無理だ」
「いや、何でだよおかしいだろ」
俺とカオスリーヴァは切り離せるけどママドラは切り離せない?
「君は人として六竜イルヴァリースと同化した。本人同士の意思で、だ。この時点で経緯も方法も違うがリリィと同じ状態になったと思っていいだろう。そしてカオスリーヴァは既に六竜となった君と同化した。この意味が分かるかな?」
「……六竜になった俺と同化したカオスリーヴァは切り離す事が出来るが既に俺はイルヴァリースなんだから切り離すも糞もねぇってか?」
よく分からないがとにかく無理って事は理解した。
別に今更ママドラを分離したら困るのは俺だろうが、いつか平和な世界なんて日が来たら二人とも俺から切り離してやる事もできるかと思ったんだがな……。
『あら、そんな事を気遣ってくれてたの? ありがと。でも今からそんな先の事を考えても仕方ないわよ。それにね、私今幸せよ? なんだかリーヴァをすぐ近くに感じるの』
なんだろうなぁ。
ろくでもない元夫って話だったの実際はママドラやイリスの為に自分を犠牲にして戦った漢だった。
ママドラが惚れるのも分るってもんだ。
でもなぁ、なんていうかなぁ……。
『なになに? もしかして嫉妬してる?』
うるさいなぁ。そんなんじゃねぇよ……強いていうなら、自分の半分が誰か他の男に惚れてるって状況がなんというか複雑な気持ちなんだってば。
『うふふ、そういう事にしておいてあげるわ』
しておいてあげる、じゃなくてそうなんだってば。
別に深い意味は無いって。
『それにね、一つ忘れてるかもしれないけど、君は既にリーヴァでもあるのよ? つまり本当の意味で私の旦那様なんだけどその辺どう思ってるの?』
うっ……。
そう、なの? そういう扱いになるの?
ちょっとその辺はまだしっくりこないというか、考える時間が欲しいというか。
『あはは、やっぱり君はおもしろいわねぇ』
完全にからかわれてる。
『やだなぁそんなんじゃないってば』
そう言って笑う。
なんにせよママドラに元気が戻ったようでよかった。
たとえ旦那がいようとも、同じ娘を持つ親同士、一心同体なのだから元気が無いままでは張り合いが無い。
『……本当に、ありがとうね』
そんなママドラの素直な感謝に、俺は言葉に詰まる。
『ちなみに君は私なんだから君もリーヴァの奥さんだからね』
おいお前ふざけるなよ。
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