第400話:色ボケ行き遅れアホ女(天才)


 ずもももも……

 ずもももももも……

 ずもももも……


「お、おいリリィ……お前何しやがった?」


「わらわ必殺のドラゴニックスレイヴァーですーっ!」


 そう言いながらリリィは地面にゆっくりと降り立ち、自らが作り出した黒い球体の吸引力に引っ張られた。


「は、はわわわっ! ちょっと、わらわまで吸い込んでどーするんですかーっ!?」


『ミナト君、多分アレはヤバいわ』


 ちっ、しょうがねぇなぁ……。


 俺は空間魔法で球体の周囲を完全に隔離、その効力を無効化した。


「ひっ、ひーっ、助かりましたーっ!」


「自分でやった事くらい自分で責任持って処理しろよな……?」


「ご、ごめんなさいです……」


 リリィは地面にぺたんと座り込んで、珍しくちゃんと謝った。


「ちなみに今の技試した事は?」


「無いです今なんとなくでやりました……」


 ……は? どういう意味で言ってるんだこいつ。


「今なんとなくでやった……ってのは? やり方は知ってたけど試した事が無かったって意味か?」


 リリィは顔をこちらに向けて、きょとんとしている。


「いえ、そうじゃなくて今なんとなくでこんなのが出来たらいいなーと」


「……」


 絶句した。

 こいつは今この瞬間に、自分が求めている魔法を作り出したと?


「お前……天才かよ」


「えっ? ……わ、わかりますー? わらわの天才さってやっぱりにじみ出ちゃうものなんですねー!」


「ああ、たいしたもんだわ実際」


 自分で新たな魔法を生み出す力? どうかしてるだろ……。


「き、急になんです……? わらわそんなに褒められるとちょっと気まずいですー」


「ちなみに魔法精製についてはシルヴァは知ってるのか?」


「んー? それはどうですかねー?」


 なんでだよ。シルヴァに教わったから出来るようになったんじゃねぇのか?


 詳しく話を聞いてみたところ、シルヴァからはマリウスが出来た事の再現ばかりを要求されたらしく、魔物の索敵や障壁の張り方、最低限の魔法各種などの使い方を指南してもらっていたらしい。


「……じゃあなんでいきなり魔法を作り出そうとなんて思ったんだよ」


「いやぁ、なんだか出来る気がしましてー」


 アホだ。要するに俺が昔見たアニメで使ってた技とかがなんだか出せるような気分になって部屋でこっそり練習した事があるみたいなノリで本当に実現してしまった、という事だろう?


 やはりどうかしている。


「試しに今ここで何か新しい魔法を作ってみせてくれないか? 出来るだけ破壊とかそういうんじゃないやつを頼むわ」


「いきなり言われても困りますー。えっと……じゃあこういうのはどうですー?」


 リリィは掌を地面に当て、何やらまたよく分からない事を言いだした。


「びびるびるびるびびるびーっ!」


 途端に地面がぼこりと盛り上がり、目の前に十メートルはあろうかという山ができた。


「おいおいなんじゃこりゃ」


 地面を隆起させたのか? でもこれならラムとかにも出来そうな気がするな……。


「まだまだですよーっ! リャビパスリャビパスリュリュリュリュリューッ!!」


 だからそのよく分からん呪文はなんなんだ? 聞いた事も無いんだが。


 それについて質問しようとしたが、俺は言葉を失ってしまった。


 目の前に現れた山がバリバリと削れ……いや、違う。


「変形だと……ッ!?」


 山がべきばきと音を立て、圧縮されてだんだんと形が角ばっていく。


 そして、最終的に完成したのは四角を組み合わせて組み上げたようなロボット……?


「じゃじゃーん! ゴーレムのでっきあがりですーっ!」


「どうなってんだお前……! すっげー! すっげーなこれ!」


「えっ、そんな褒められると照れちゃいますー」


 思わず俺が絶賛してしまうのも無理はないのだ。

 ロボットは男のロマン。

 いや、これはゴーレムか。どっちでもいい。


「これってもっと見た目に拘る事は出来るのか!?」


「えっと……時間をかければできるとは思いますけどー?」


「マジか!? お前最高だなその魔法教えてくれよ!」


 この魔法極めて六体合体巨大ゴーレムとか作れたら……更に言えば中心に乗り込めるコックピットを作って……。


「あ、いえー、なんとなくの感覚でやってるので人に教えるのはちょっとー」


「えぇー?」


 俺の夢はあっさりと儚く散った。


 ……しかし、だ。

 これはかなり大きな前進じゃないか?


「なぁリリィ」


「な、なんです? プロポーズとかされてもこまっちゃいますよー?」


「頭わいてんのか」


「わいてん?」


 ダメだ、皮肉も伝わらん。


「今後の戦い、多分リリィ……お前がカギになる。正直な所ちょっと前まで一般人だったお前にこんな事頼むのは気が引けるんだが……どうか俺に力を貸してくれ」


『あら素直』

 こいつの力はどうしても必要だからな。


「えっと……何言ってるんですー?」


 リリィはスッと立ち上がり、両手を腰に当ててふんぞり返った。


「わらわが一般人だった、ですって? わらわは姫ですよー!? 国の姫たるもの世界の危機に動かなくてどーするんです!?」


「ぷっ」


「なに笑ってんですかーっ!?」


「いや、悪い悪い。リリィらしいなと思ってな。俺はお前の事誤解してたわ」


 てっきりただの色ボケ行き遅れアホ女だと思ってた。


「だって頑張ったらシルヴァ様が褒めて下さいますしーっ♪」


 急にだらしない顔になって身体をくねくねとくねらせ始めるリリィ。


 ……どうやら色ボケ行き遅れアホ女なのは正しかったらしい。


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