第401話:いつまでもアホであってほしい。


「ちなみにこのゴーレム動かせるのか?」


「やってみましょうか?」


 リリィは俺の問いにサラっと答えて手を翳す。


「えーっと、どうしよう……んー、オロバスオロバスルルルルルー!」


 何度か見ていて分かった事がある。

 というか今までの情報を俺の記憶の中のジャーロックホムホムの推理力で精査したところ、おそらくマリウスの力というのは空想を現実に変える事が出来る力。


 しかしマリウス本人はその力の何割かしか使用できなかった。

 それは何故か。


 常識。


 人には常識という物がある。

 そしてそれはドラゴンにも同じようにドラゴンとしての常識がある。


 誰しも人間として出来る事出来ない事、ドラゴンにとっての出来る事と出来ない事、そういう常識にとらわれてしまっている。


 マリウスは自分の空想を現実に変える能力を最大限引き出すには現実主義すぎた。

 ドラゴンにとって出来る事は、人間のそれよりもはるかに多いが、だとしてもマリウスには致命的な問題があった。


 まともすぎたのだ。


「まずはその辺に漂っている精霊を捕らえますーっ」


 精霊。


 そんなの居たの初耳なんだけど。


『居るといえば居るわよ。それを認知した所でなんの意味も無いけれど……』


 精霊なんてものがこの世に存在していたのか。

 というかこいつ捕らえるって言った? 精霊を?


『本来精霊ってのはただの概念的存在なのよ。どこにでも居るし、逆にどこにも居ないのと変わらないの。空気みたいなものね』


 居ても居なくても変わらないってなんだかかわいそうだな……。


「で、今度は捕まえた風の妖精さんをゴーレムの中にぶち込みますーっ!」


 妖精をゴーレムに……?


『ちなみに妖精って概念は他者から何々の妖精、って思われて初めてそういう存在が完成するのよ。つまり本当は何の妖精とか決まってないし、そもそもそこに居るのかもよく分からないっていう……』


 そのよく分からん講釈はいい。

 つまり居ると思えば居るし居ないと思えば居ないんだろ?

 風の妖精だと思えば風の妖精だし木の妖精だと思えば木の妖精なんだろ?


『大体そんな感じよ。理解が早いわね』


 ティアがやってたアレに近いもんがある。

 掴めると思うから掴める。掴めないと思うから掴めない。

 その認識、思い込みの強さで結果が変わってしまう。

 一般人の思い程度ではまったく効果が無くとも、本気でそうだと思い込める人種にとってはそれが事実に変わってしまう。


 つまり今リリィはその辺に風の妖精が居ると思い込む事でマリウスの力で実体化したそれを捕らえ、自分の作り上げたゴーレムに放り込んだって流れらしい。


「これでよーっし!」


 グゴゴゴ……!


 ゴーレムはまるで自分の意思を持ったように動き出した。


「うぉ……マジで動かしやがった」


「いっけーギガントゴーレム! ロケットパァァァンチ!!」


 バシュゥゥゥゥン!!


 ゴーレムはリリィの命令に従うように突如肘の辺りから片腕を射出した。


「すげぇぇぇぇぇぇっ!!」


 これはタチバナあたりが見たら間違いなくテンション爆上げ案件だぞ!


「すげぇすげぇ! お前マジですげぇよ!」


「な、なんです急に……なんだか今日のミナトは違和感凄いですねー。わらわちょっとミナトの事誤解していたかもしれません」


「俺こそお前の事を誤解してたわ。ただのアホだと思ってたけどめちゃくちゃ凄いアホだったんだな!」


「待って下さいそれって凄いけどアホなのか凄いアホなのかどっちですーっ!?」


 ……は? 何を言ってるんだこいつは。

『いや、どっちかっていうと何を言ってるのか分からないのは君の方よ……?』


「アホなのはどうでもいいだろ凄いんだから。リリィはすげぇ。俺は見直したよ」


 それに、こいつが居れば机上の空論が現実味を帯びてくる。

 むしろ俺にとっては救世主といえるほどに。


「なぁリリィ、お前の魔法精製技術はこの世界でお前にしか出来ない特別な力だ。誇っていい」


「へっ? そ、そうなんです? やはりわらわってさいきょーだったんですねーっ! おーっほほほほ!」


 あぁ、これだけ凄い奴だと分かるとこのドヤも可愛らしく見えてくるわ。


『君も現金な奴ねぇ……というか元々この子の事結構気に入ってたくせに』


 前は叩けば叩いただけいい音がするって意味で気に入ってただけだよ。

 今は純粋に必要な人物として、だ。


 それにこいつの事気に入ってたのはママドラもじゃないのか?


『まぁそれもそうねぇ』


「とにかく、俺はお前に対する態度を今後改める事にする。いくらアホな事を言ってようと許す」


「えっと……なんだかちょっと気になる発言もありましたがそれは嬉しいです」


「だからお前はいつまでもそのまま超ド級のアホでいてくれよな!」


 そうじゃ無いと困る。

 こいつに常識なんて手に入れられてしまうとこいつの力が半減してしまうのだから。


「あ、あの……なんだかわらわの事そこはかとなくばかにしてません?」


「馬鹿になどしてないぞ!」


 アホだとは思ってるけどな!


「そ、そうですかー? なら別にいいですけどー」


「お前の力も分かった事だしそろそろ帰ろうか。シルヴァとのデートの件は任せておけ!」


「ほんとですー!? わらわミナトの事ちょっと見直しましたーっ☆ これでシルヴァ様もわらわにもっと積極的になってくれるにちがいないですーっ♪ うふ、ぐふ、ぐふふふ♪」


 あぁ、本当になんてアホな女なんだ。

 いつまでもこいつがアホでありますように。




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