第399話:ドラゴニックスレイヴァー!
はぁ……。
本当に酷い誤解を受けてとてつもなく面倒だったけれど、そちらの対処に追われている間に自分の方はどうでもよくなってしまった。
結果オーライ、というべきなのかどうかはさておき、一応あいつらにも感謝はしておくべきだろうか?
ただ、悔しさが消えた事で俺の問題は解決したとしてもだ。
あいつらが騒がしすぎてそれどころじゃないというのはある。
いろいろ面倒が多すぎて自分の事まで手が回らないだけなんじゃないだろうか。
でも、それでももやもやしていた気持ちがどっかいっちまうくらいには奴等に救われている。
それは事実なんだよなぁ。
『君って本当に、【あの子達のおかげで楽になった】の一言に辿り着くまでが長いわよねぇ……。あれこれ自分の中で理屈と言い訳をこね回さないと本音を出せないとか……』
うるさいなぁ……。
言っておくけど俺は素直じゃないとかじゃないから!
『じゃあ何よ?』
ぶ、不器用なだけだからっ!
『ぷっ』
今笑ったな!?
ママドラはしばらく笑い転げたあと、『ごめんごめん、君らしくってさ』と謝ってきたが許さん。俺は傷付いたのだ。
「というかなんでそんなにアンニュイになってるんですー? こんな美少女と一緒だっていうのにー」
「美少女って歳かよ……」
「ムカーっ! 女の子はいつだって女の子なんですよ!? つまりわらわは美少女!」
はぁ、何が悲しゅうてリリィと二人で行動せにゃならんのだ。
俺は今シルヴァの頼みでリリィを連れて移動している。
転移魔法でちゃちゃっと移動できるようになったから別に構わないといえば構わないのだが、俺とこいつを組ませる理由が分からない。
「ひっ、アレなんですなんですーっ!? 変なのがぞろぞろーっ!」
ダリルとリリアの国境付近の、できるだけ人気の無い所に来たせいか魔物がうろうろと徘徊している。
「シルヴァはお前に実戦経験を積ませたいんだとさ。俺は手出ししないから一人でなんとかしてみろ」
「えっ、冗談ですよね? 高貴なわらわにあんなのを相手にさせる気なんですかー!? わらわ嫌ですーっ!」
うっわめんどくせぇ……。
「別にやらなくてもいいけど俺は空で待機してるからよ。本気出さねぇと死ぬぞ」
こいつはそれなりに仕上がってるって聞いてるからこの辺の魔物くらいは大丈夫だろう。
俺は完全に空に浮かぶのは苦手なので空間魔法で上空の空間を固定しその上に立つ。
さてあのアホがどの程度やれるのか見物といこうか。
「ちょっとーっ! 降りてきてくださーい! わらわあんな気持ち悪いのやだーっ!」
眼下ではいまだに大声でアホが騒いでいる。
……本当に大丈夫なんだろうな? 普段と変わらな過ぎて心配になるんだが……。
でもシルヴァは呑み込みがいいと言ってたし……。
仕方ない、少しその気になるようにしてやるか。
「お前がうまくやれたらシルヴァと丸一日二人っきりでデートできるようにセッティングしてやるよ」
「そういう事を早く言って下さいよこの愚民がーっ!」
急にやる気出しやがって……これだから色気づいたアホ猿女は……。
『彼女に対してだけ毒舌すぎじゃない?』
別にあいつにだけじゃないだろ。ネコにだって同じようなもんだ。
『昔はそうだったけど最近は全然じゃない。むしろメロメロなくせに』
待て待て、誰が誰にいつメロメロになったって? 事実誤認にも程があるだろ。
「うおーっ! やってやるですーっ!」
リリィは腕をぶんぶん振り回しながら魔物の群れの中へ突貫していった。
「おいほんとにあれ大丈夫か?」
『まぁまずは様子見してみましょうよ』
「ていっ! とりゃーっ! ぐえっ、ひーん! たすけてーっ!!」
リリィは闇雲に魔物に殴り掛かり……そして、激怒した魔物達に追いかけまわされている。
「……ほんとにあれ大丈夫か?」
『わ、わかんない……』
さすがリリィとでも言うべきか。
俺の予想のはるか斜め上の結果を出してくる。
シルヴァのあの口ぶりでまさかここまでポンコツだとは思わなかった。
「あっ、ちょっ、やめっ……ぎゃーっ!」
あっという間にリリィの姿は魔物の群れの中に消えてしまった。
「や、やばいんじゃないか? 助けに入った方が……」
『いえ、ちょっと待って。よく見てみなさい』
よく見ろって言ったってリリィがどこにいるかも分からなくなってるぞ。
ん?
今何か光る物が見えた気が……。
「きっ、キモーっ! ひーん!」
『無事みたいね?』
どうやらリリィは自分の身体に薄く障壁を張っているらしく、魔物の攻撃が一切通っていなかった。
へぇ、やるじゃないか。でもあれじゃ倒せないだろ。
「どうした? シルヴァとのデートは必要無いのか?」
「何を馬鹿な事言ってるんですー!? わらわやれば出来る子なんですからねーっ!?」
じゃあ早くその出来る所ってのを見せてもらいたいもんなんだがなぁ……。
「普段シルヴァといろいろ訓練してたんだろ? 魔物相手に使えるような物はなかったのか?」
「むー、むむむむーっ!? じゃあアレ試してみるです! そこでわらわの鬼神の如き活躍をとくと見ているといいですーっ!」
リリィはその場でぴょーんとあり得ない高さの跳躍。
そして……。
「わらわの前に立ちふさがる全ての愚かなる者にわらわがわらわの力もて、等しく滅びを与えてやるですーっ!!」
よく分からん詠唱を始めた。
「ドラゴニックスレイヴァーッ!!」
全ての光景がスローモーションのようになった感覚に包まれる。
リリィが放った黒い球体は、静かに魔物の群れの中に落ちていき、急激に巨大化した。
魔物達は必死に抗うが、その全ては問答無用でその黒い球体に吸い込まれてしまう。
そして誰も居なくなった。
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