第389話:ミナト・ザ・ブレイブストーリー。


「はっはっは! 愉快愉快!」


「笑い事じゃねーんだよ……」


 俺はレインが作ったお赤飯をもしゃもしゃと食べながら、なんとか誤解を解く事に成功。


 ノインは「そんな事だろうとは思ったが……いやはや情けない」とか「男の甲斐性は多少あった方がいいぞ」などと余計なお世話を連発して俺を精神的に追い詰めてくる。


 そしてレインはレインで……。


「お、おいレイン……そろそろ機嫌直してくれよ」


「嫌です。ミナト様がそこまでヘタレだとは思ってませんでした。お姉ちゃんがあれだけ身体を張ってアピールしてたのに気絶して夜明けを迎えるなんて最低です」


 レインは怒っているからなのか赤飯を詰めすぎているのか分からないほどほっぺたを膨らませ、行儀悪くもっちゃもっちゃしながら俺を睨み続けている。


「こらレイン、お行儀悪いですよ? 確かにミナト様は私に何もしてくれませんでしたけど……」


 うぐっ。


「それでも、それはミナト様の優しさだと思うんです。私の我儘に付き合わせてしまったのだからこれでいいんですよ」


「でもお姉ちゃん……お姉ちゃんは本気だったのに据え膳食べないとか男としてどうなの?」


 うぐぅぅぅぅっ!


 さっきからグサグサと物凄い鋭さの矢が俺に突き刺さっていく。


「こらこら、ミナト様に失礼ですよ? それにミナト様は何もしてくれませんでしたが私が何もしてないとは言ってませんよ?」


 ……えっ?


「れ、レイラ……今のはどういう?」


 にっこりと笑うレイラ。


「それは……秘密です♪」


 えっ。……えっ?


 ママドラ、頼むヘルプ助けて!

 ママドラなら全部見てただろ? 知ってるんだよな!?


『知らないわよ。私はさすがに君の情事を覗き見る趣味ないもの』


 マジかよ……。


 レイラの笑顔が怖すぎて、真実をしるのが恐ろしすぎて俺は何も聞けずに無言で赤飯を頬張った。


「そう言えばミナトが一人でここに来るなんて今回はどういった用向きだったのだ?」


「そ、そうだった!」


 俺が勢いよく立ち上がった事に驚いたのか、皆目を丸くしてこちらを見ている。


「こ、コホン……失礼。実はな、こういう物を用意してきたんだ」


 俺はノインに八卦炉を手渡し、使い方を説明した。


「なるほど……これを起動させればこの街は魔物に襲われる心配がなくなる、と……そういう事だな?」


「ああ、それで合ってる。継続期間と交換方法はさっき言った通りだ。安全で、人の手が届かない場所に設置してくれよ?」


「ふむ、なるほどな……これも同盟の産物というやつか……」


 あれっ? ノインの反応に俺はちょっとした違和感を覚えた。


「もしかして同盟の話ってもう広まってるの?」


「それはそうだろう。この国にとっては一大ニュースだぞ? 知らない人はおるまい」


 ああ、なるほどね。オリオンは耳が早いだけだと思っていたがもう国中に知れ渡っているのか。


「ついでに聞いておきたいんだけど、この国で俺の名前とか外見って今どのくらい広まってるの?」


「自分がどれだけ有名かも知らないのかね? 先日ミナト・ザ・ブレイブストーリーが発売され物凄い話題になっていたからな。もはや国内で知らぬ者はいないのでは」


「待て、なんだその恥ずかしい名前の物は!」


 ミナト・ザ・ブレイブストーリー? 何それ。俺絵本にでもなったの?


「無論私も購入済みだぞ? 少し待っていたまえ、持ってこようじゃないか」


 ノインが席を外し、数分後に一冊の本を小脇に抱えて戻ってきた。


 それは相当豪華な装丁の本で、中を開くと……。


「うわ、こりゃ小説か?」


「ええ、第一巻はミナト様がダリル王国を追われる身になりながらも国の為に魔王を倒す所までが描かれています。とっても素敵でかっこよかったですよ♪」


「な、な、なんじゃあこりゃあ……」


 おかしい。

 パラパラとめくった所、そこら中に脚色は入っているし事実と異なる部分も多い。

 だが、大まかな筋が通っている。

 俺が通ってきた道が、大体そこに書いてあった。

 実際よりももっと英雄らしい表現をされていて、俺を持ち上げる内容だったが、そんな事よりも誰がこんな本を書いた……?


「……ん?」


 物語は分厚い本の三分の二程度の所で一巻完結と書いてあった。

 それ以降の所には何が書いてあるんだ……?


 俺は目を疑う。


 そこには、俺の戦う姿、怒る姿、笑う姿、そして寝ている姿、あまつさえ水着姿までもが載っていた。


 イラストなんかじゃない。

 高度な転写技術によりまるで写真のようにそこに俺の姿が映し出されている。


「こ、これ……国中に出回ってんの……?」


「ああ、本来このボリュームでこの仕上がりの本なら相当高価なはずだが、著者がとにかくこの話を広めたい、この本をいろんな人に届けたいという気持ちで庶民にも手が届く値段に……」


「ぬおぉぉぉぉぉっ!!」


 バリバリバリ!!


 俺は勢いあまって本を思い切り引きちぎった。


「うわっ、何てことをするんだ!」


「お父様、問題ありません。あと二十二冊ストックがありますから」


「そ、そうか……それなら、まぁいいか」


 よくねぇ! 全然よくねぇ!


 レイラもレイラでなんでそんな大量に買ってるんだ。


 そもそも、俺の水着姿まで載ってるって事は本当にごく最近この本が作られた事になる。

 そしてこんな芸当が出来る奴なんて一人しか居ねぇ……!


 俺は自ら破った本の表紙を改めて見る。

 そこには……。


 ミナト・ザ・ブレイブストーリー。

 著:リリア・ポンポン・ポコナ。


 あれっ!? 思った奴と違った……。

 てかポコナなにやってんの!?


 そもそもポコナが知り得ない、彼女に出会うまでの事まで書いてあるのはおかしい。

 俺の考えが正しければ……。


 見付けた。


 表紙を一枚捲ったそこに、俺が最初犯人だと疑った人物の別名が書いてあった。


 情報協力:リリア帝国参謀・ヴァールハイト。


 ……あいつぜってーぶん殴る。



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