第387話:押しの強い女と押しに弱い女(男)
「はいあ~ん♪」
「あ、あ~ん」
レイラが腕を振るって作ってくれた料理をもくもくと俺の口に運ぶ。
俺は流されるままにそれをもしゃもしゃ食べている訳だが……。
「どうです? 美味しいですか?」
「も、勿論だよ絶品だね」
正直味なんて分からない。
まともに味わえる余裕が俺の心に残ってない。
レイラは俺が咀嚼している間ずっとテーブルに両肘をついて俺の顔を眺め続けている。
「そ、そんなに見つめられると食べ辛いよ」
「ごめんなさい。でもあなたのお顔をいつまでも眺めていたかったので……ダメですか?」
くっ……俺はこういう尽くすタイプに弱いんだよ……。
「ダメ……な、わけないじゃないかははは」
「良かった♪ はい、次これどうぞ。あ~ん♪」
……腹一杯になって苦しくなるまでそれは続いた。
結局最後まで料理の味に関してはよく分からなかった。
人は極限状態になると味覚すら馬鹿になるらしい。
「さ、次はどちらにしますか……?」
「つ、次って……?」
「もう……いじわるです……そんなのお風呂か、私のどちらかに決まってるじゃないですか」
レイラが顔を赤らめて胸の前で人差し指をくっつけたり離したりしている。
ダメだ。これはダメだぞ。
いい女すぎる。
だからと言ってこんな所で流れに流されまくって行くとこまで行ってしまうのはもっとダメだ。
「お、お風呂で……」
とにかく風呂に入って頭を冷やそう。
いや、温まる場所ではあるのだが、きっと湯舟に浸かって一人でゆっくり考える時間さえ有れば打開策の一つや二つ思いつくはずだ。
そうに違いない。
「実は料理する前にお湯は張っておいたのですぐに入れますよ♪」
「そ、そうか……さすがレイラは準備がいいなぁははは」
脱衣所の場所を聞き、用意されている篭に脱いだワンピースを放り込む。
今となっては身に着けるのが当然のようになってしまった下着類も同じように篭に入れて浴室に入る。
なかなかに広い立派な浴室だ。
大きな木製の浴槽が一つ。洗い場にはシャワーが備え付けられていた。
とりあえず頭からシャワーを浴び、ささっと身体を流してから湯舟に浸かる。
「ふぅ……こりゃいい湯だな」
温度も完璧だ。
少し熱めだけどこれくらいが気持ちいい。
「あなたー、お湯加減はいかがですか?」
「ん、あぁ……丁度いいよ」
浴室のドアの向こう側から聞こえてきたレイラの声に感謝を告げると、おもむろにドアが開かれた。
「う、うわーっ! うわわわっ!」
突然レイラが浴室に乱入してきた。しかもバスタオル一枚状態で。
「お、おま、何やってんの!? なんで入って来ちゃったわけ!?」
「なんでって……お背中流しに来ただけですよ? 夫婦なんだからこれくらい当然じゃないですか♪」
か、完全に入り切ってる。
今のレイラは俺の嫁さんになり切っているのだ。
この場合おかしいのは俺の反応の方なのか?
「そ、そうか……」
「ささ、こちらにいらして下さいな♪」
もう頭の中ぐちゃぐちゃの状態で言われるがままに湯舟から立ち上がる。
「ふわぁ……ミナト様、きれい……」
「ちょっ、人の裸じろじろ見ないでよ恥ずかしいでしょ!?」
「ふふ、恥ずかしい事なんてありませんよ? 私達夫婦ですし、それに……女の子同士じゃありませんか♪」
「いやいや、レイラは俺が男なの知ってるよね!?」
「はい、知ってますよ? でも今のミナト様はどこからどうみても女の子ですし……お互い隠すのもおかしいですよね」
そう言い放ちレイラはバスタオルをバサリと床に落とした。
その細くしなやかな身体に目が釘付けになる。
真っ白な肌が風呂の熱気か、それ以外の理由か分からないが紅潮しているのがなんというかアレがアレなのである。
「れ、れれれレイラ、待て待て早まるんじゃない!」
「早まるって……何をです? さ、こちらに来て座って下さい。お背中流しますね♪」
あ、あぁ、そう言えばそうだった。
背中を流すだけ、背中を流すだけ……だよな?
俺はホッとしてるのか? それともがっかりしてるのか?
もう自分が分らん。
ただ一つ言えるのは、レイラの破壊力がヤバすぎる。
「ひゃっ!?」
思わず変な声が出た。
「ど、どこ洗ってんの!? 背中流すだけじゃなかったの!?」
「ふふ、可愛らしいですね……背中を流す、といっても本当に背中だけな訳ないじゃないですか」
そう言ってレイラは俺の前の方にまで手を伸ばしてきた。
「や、ややややめろやめろこれ以上はまずいって……おい聞いてる!?」
「はい聞いておりますよ? でも主人の身体を洗うのに抵抗はありませんし止められるような事はしておりませんので♪」
「だったらとりあえず胸揉みしだくのやめて頂いていいですか……!?」
この子さっきから身体を洗うのそっちのけで俺の胸をずっと揉んでる。
「あら、あまりに魅力的だったもので我慢できなくなってしまいました……こういう所とか、触ってみたくなってしまって」
ぴんっ。
「ひっ」
レイラが俺の胸のとある部分を人差し指で軽く弾いた。
俺は頭が一瞬で真っ白になってしまい、そこから先の事を覚えていない。
「み、ミナト様!? ミナト様!!」
遠くでレイラの声が聞こえていた気がするがもうそれもよく分からない。
我ながら耐性が無いにも程があると、情けなく感じるが……普通女性側としてのこういうのに耐性ある奴なんていないんだししょうがないじゃんか。
俺は悪くない。
絶対、俺は悪くない。
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