第382話:はっけろ。


 不思議と今までよりも効率のいい魔力の流し方が分かる。

 一度身体を酷使されているからか、こうすればこういうふうになるんだ、というのが刷り込まれているんだろう。


 悔しいが、シルヴァのおかげで俺は一歩前進する事が出来た。


 というかあんな事が出来るならシルヴァがキララと戦ってくれたって構わないんだけどなぁ。


『それは難しいわ。私達の身体と力を使ったからこそアレだけの事ができたのであって、シヴァルド本人は攻撃特化じゃないもの』


 六竜の大元であるところのヴァルゴノヴァという巨竜からシルヴァが受け継いでいるのは知、だとかいう話だったな。


 知性を受け継いだ六竜って聞くと大して強くなさそうだけどあいつが弱いようには思えない。

 あくまでも六竜の中では力に特化している訳じゃないというだけで、十分な脅威ではある。


 逆に言えば、俺がママドラの力をフルに使いこなす事が出来るのならば、ヴァルゴノヴァの魔力の部分を引き出せるはずだ。


 そう考えると俺の今までの戦いは本来の戦い方ではないのかもしれない。

 ママドラの力を借りて身体を竜化させ、物理で殴るというのが今までのやり方だったが、もっと魔法や魔力の使い方について学んだ方がいいのかもしれない。



 シルヴァのおかげで力の使い方が分かったにせよ、まだ完璧にとはいかず、腕、腹部は簡単にできるようになったがそれに加えて両足、というのがなかなか難しい。


 加減を間違えると足から魔力が噴出してはるか上空に吹き飛ぶ、なんて事が多々あった。


 なまじ力の伝導がよくなった為に加減がきかずそんな事になってしまう。


 調整を上手く出来るようにならないといけないのと、それと並行してラムに魔法を教えてもらう日々が続いた。


 過去の記憶を引き出せばいろんな種類の魔法を使えるが、自分である程度使えるようになっておくに越したことはない。


 それに魔法の知識、ベースとなる物が身についていれば、記憶を全て引き出すような事をせずとも知識だけ引き出して自分で応用して使う事ができるようになる。


 俺は全体的に自らをレベルアップさせる必要があった。


 ステータス上のレベルなんて飾りのようなものだ。偉い人にはそれが分らんのですよ。


『何言ってんの?』

 ママドラには分らんよ。


 そしてそんな修行に明け暮れるある日、俺はシルヴァから呼び出される。


「ああ、来たかミナト」


「なんだ? 俺に何か用か?」


 出来れば今はまだ修行に集中していたい次期ではあるんだが……。


「うむ、君は障壁発生装置の事を覚えているかい?」


 ……障壁発生装置と言えばシルヴァが作ろうとしていたアレか。


「実はタチバナやマァナ、ラム達の協力によりやっと完成したのだ。ある程度の量産も済んでいる」


「へぇ、そりゃすげぇな」


 タチバナは確かに腕のいい技師だが、こっちの世界でも応用が利くようなら本物だ。


「これは凄いぞ。まずラヴィアンで採掘されたローズストーンを加工して、ラムから教わった魔法にて魔力を封入しておく。そしてタチバナが完成させたこれだ」


 シルヴァは八角形の板のような物を取り出した。

 八卦炉に似ている。

 八卦炉って確か……中国? なんだっけ、あっちで有名な物語か何かに出てくるもんだったっけか?

 とにかくシルヴァはその八角形の物体の中心に球体に加工されたローズストーンを嵌めた。


「この炉には魔法をブーストさせる機能がついている。そしてこの結界魔法を封入したローズストーンをセットする事で……」


 ぶわりと八卦炉を中心に空気が変わった。


「街をすっぽりと覆うほどの障壁を張る事が出来るというわけだ。しかもこのローズストーン一つで役半年ほどは効果が持続する。魔力が底を尽いたらローズストーンを入れ変えるだけでいい。完璧な仕上がりだよ」


 ……それが本当ならばこの世界の街という街はこれ以上魔物の進攻に侵されずに済む。

 キララが本格的に世界に牙を剥いたとしても、街を危険に曝すような事は無い。


「なるほどな……そいつがすげぇのは分かったけど俺に何をしろって?」


「うむ、これを各地に配布しなければいけない訳だ。僕はシュマル方面を担当するから君にはダリルの各街へ行って説明と設置をしてきてほしいのだよ」


 ……あぁ、なるほどな。

 確かにダリルに行くのなら俺が都合いいだろう。

 何せ顔が割れてる上に英雄扱いだからな……。


 ここはリリアだし、リリア全域に関してはレナやポコナ達に協力してもらえば設置はすぐだろうし説明は必要無い。


「頼まれてくれるか?」


「ああ、いいぜ。俺もいろいろ試したい事があるしな」


 修行の成果を試すついでに各地を回ってくるのもいいだろう。


「それならまずは先んじてダリル城へ向かい設置を急いでもらおうか」


 国の中心部に何かあってからじゃ遅いからそれは当然の判断だろう。


 シルヴァに八卦炉が山のように入った袋を手渡される。


「では僕もそろそろ出発するからダリル方面の事は任せたよ。設置場所はどこでもいいが誰かに悪さをされない場所を選ぶように。雨ざらしは避けてくれよ?」


「分かった分かった。室内で、悪さされない場所だな。考えてみるよ」


 シルヴァはにっこりと笑うと目の前から姿を消した。

 転移魔法……さて、そういう事なら俺も動き出すか。

 さっさと済ませて自分の修行に戻らなきゃならないからな。


『さっそく試すの? ダリルは遠いわよ?』


 大丈夫さ。チェックはしてある場所だし座標を間違える事は無い。

 後はどれだけ上手く出来るかだよ。


 俺はラムから教えてもらった転移魔法をチェック&ホールに応用する事で少ない魔力で遠くまで移動できる転移魔法を作り上げていた。


『その構成を練ってくれたのはラムちゃんだけどね』


 今かっこよく決めてた所なんだから邪魔しないでくれる?


 とにかく、まずは……いざダリル城へ!


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