第381話:男に身体を委ねたミナト君。


「まぱまぱ、本気で行くよ? いいの?」


「お、おう……やってくれ!」


 怖い怖い怖い怖い~っ!

『集中しなさい!』

 分かってるって!


「どっせーいっ!」


 ズゴッ!!


 イリスの拳が俺の腹にクリーンヒットし、全身を振動が駆け抜ける。

 そして二秒ほど遅れてから凄まじい暴風が吹き抜けていった。


「だ、大丈夫?」


「……お、おう。なんとか無事だぜ。多少痛いが、ほぼダメージを消せたと思う」


『やったじゃない!』

 はは……苦労した甲斐があったってもんだ。




 俺が腹部の竜化をマスターするのに更に二週間かかってしまった。


 それにはとても辛い思いをしたが、俺の苦労が実を結んだ結果だと思いたい。


 やはり俺の考えは正しかった。

 自分の力だけではなかなか上手くいかないと感じた俺は、苦渋の決断でシルヴァに頭を下げた。



 ◆◆◆◆


「ほう、それはなかなか面白い事を考えたものだね」


「で、どうなんだ? やってくれるのかダメなのかはっきりしてくれ。出来れば無理だと言ってほしい」


「自分から頼んでおいてそれはどういう……? 結論を言えば出来ない事は無い。早速試してみようじゃないか」


 自分で決めた事とはいえほんと嫌だ。


 表に出て、いつもの面子が見守る中シルヴァがそっと俺の肩に手を触れる。

 ぶっちゃけそれだけで気持ち悪い。


 で、何をするかといえば……。


「では行くぞミナト」


「おお、やってくれ……う、うおぉぉ!? 気持ちわりぃぃぃぃっ!!」


 俺がシルヴァに頼んだ事は、俺の記憶の中にあった白魔導士の記憶を使ってシルヴァと俺の精神を一つにする事。


 白魔導士って聞くと回復魔法とか使える魔法使いみたいなイメージがあるが、記憶の主の白魔導というのはちょっと違うらしい。

 精神体を自分から分離して相手に乗り移ったりするタイプの妙な魔法を得意としている魔導士の事を白魔導士というらしい。


 少なくとも記憶の主、白魔導士キルラの世界、時代ではという話だが。


 そして、その応用として俺が誰かに乗り移るのではなくシルヴァの精神を自分の身体に引き込む事はできないかと考えた。


 自分の中にはママドラが居るんだから彼女に俺の身体で無茶をしてもらえば済む話だったのだが既にママドラは俺と一つになりすぎていてこの身体で無茶な事が出来ないのだという。

 多分どこか深層心理的な所で力をセーブしてしまうのだろう。

 緊急事態ならともかく、こんな所でそんな無茶な事は出来ない。一歩間違えば先日の俺のように巨大な竜になって暴れ回る可能性もあるとか言い出したので仕方なくシルヴァに頼む事にしたのだ。


「ふむ……これがミナトの身体か。素晴らしい」


『頼むからあちこち触るのはやめてくれ俺がつらいし気持ち悪い』


「ふふ、本当の意味で君とここまで一つになったのは僕が初めてだろうね。これは魔王に嫉妬されてしまうな」


『気持悪い冗談言ってないでさっさとやってくれ』


 シルヴァは俺の身体を使い、目の前で動きを止めた自分の身体を静かに安全な場所へ移動させた。


 その辺は安全管理がしっかりしている。


「では……君の身体で好き勝手させてもらうとしようじゃないか」


『言い方ァっ!』


 シルヴァが俺の身体に力を満たしていく。

 この身体なのでそれはママドラの力なのだが、シルヴァは俺やママドラではなく他者なので遠慮が無い。


 俺の身体がどうなるかなんて知った事じゃないといわんばかりに一気に魔力を充填させていき、全身を竜化させた。


「ふむ、これはなかなか使い心地がいいね」


『う、うぉぉぉ……なんじゃこりゃぁぁぁあ!!

 』


 全身の竜化と言っても、巨大な竜になったわけじゃない。

 腕の竜化と同じように全身が暗めの青紫に覆われ、まるでいかつい重鎧でも着こんだかのような風体に変化する。


 そのままシルヴァは二~三度ぴょんぴょんと跳ねてから、思い切り地面を蹴り垂直にジャンプ。


 一瞬で雲を突き抜け一面真っ青な世界が広がった。


『す、すげぇ……!』


「この程度で驚いてもらっては困る」


 シルヴァは俺の背から巨大な翼を生やし、青空を飛び回った。


 その勢いたるやまるでジェット機か何かのようだった。


「どうだミナト。これがこの身体のスペック、僕らが見ていた世界だ」


『六竜ってのは……分かっちゃいたがバケモンだな……』

『失礼ね! 今は君もそのバケモンの一員なのよ!?』


 言葉選びを間違ってしまったらしくママドラがぷんすかしているが俺はそれどころじゃない。


 感動と、恐怖と、全身の痛みで頭がおかしくなりそうだった。


 無理矢理全身に六竜の魔力を限界まで垂れ流されている状態なので負担が凄い。


「まだまだ行くぞ」


 シルヴァは両掌にそれぞれ別の属性魔法を発生させ、まるで螺旋のように絡めながら放つ。


 そしてそれは直線軌道上でいつの間にか一つに混ざり合い、大爆発を起こした。


 それはとてつもない威力で、一瞬にして空が赤く染まる。


『ぐっ……おおお……身体が、壊れそうだ……』


「今の君ではここが限界か。しかし、使いこなせるようになれば君が自分でこの力を扱えるようになる。精進したまえ」


 シルヴァは転移魔法を使い、俺達が今までいた場所まで戻ると、すぐに自分の身体に戻っていった。


 取り残された俺は、全身に駆け巡る苦痛に耐えきれずそのまま意識を失い、二日間昏倒したらしい。


 ◆◆◆◆


 ほんと、我慢してあいつに力を貸してもらって正解だったな。


『気持悪くて仕方なかったけどね!』

 それはほんとにそう!



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