第380話:ミナトが水着に着替えたら。


 俺の人生の中で一番真面目に修行に取り組む日々が始まった。


 毎日毎日何度も何度も腹をイリスに殴られてその都度胃液を吐き出す。

 最初よりはマシになってきたと自分でも思うが、それでもまだイリスの攻撃を受け切る程ではない。


 そして何より俺が困っているのは、レナが提案しラムに採用されてしまった俺の修行スタイルである。


「なるほどのう、確かにこれなら一目瞭然じゃものな」

「でしょー? それにミナトが可愛いし♪」


 だそうである。

 つまり、俺は腕や足のみならず腹まで見て分かるような服装をしている。


 そう、水着だ。


 胸と下半身しか隠れていない状態。勿論おれは最初物凄く反対したし抵抗もした。

 それなのにあいつらは寄ってたかって俺を押し倒して……うっ、うっ……。


『乙女ねぇ……』

 ちゃうわ! 男だから恥ずかしいんです!


 まさか娘を含む女の子の集団に服を剥ぎ取られる日が来るとは思わなかったよ……。

 字面だけ見たら天国かもしれんが当人からしたらアイデンティティやら自尊心やらいろんな物が蹂躙された気分だよ……。


 どぎつめのビキニを無理矢理装着させられたのでせめてもの情けを、とお願いしてパレオをつけてもらった。


 あんな食い込み激しいの一枚で修行なんて集中できるかよ。


『そのパレオってのを巻いたところでその中身は食い込んでるのよね』

 お願いだからそういう事言わないで気になってきちゃうから……。


『君が女の身体でいろいろ悩んだりするのがなんだか懐かしくて楽しくなっちゃって』


 俺だってこの身体には大分慣れてきたし、どうせ見た目が良いんだから可愛い服とか着たりするようになったけどさ、これは違うじゃん?

 俺はこう可愛らしいのが好きなのであってこんな露出が高いのは何か違うというかエロスというか。


『ちょっと何言ってるか分からないわね』

 なんでだよ!


『レナちゃんは水着とても可愛いって喜んでたわよ? ネコちゃんだって似合うって言ってたじゃない』


 そう、修行している所に毎日ネコがお昼ごはんを持って来てくれるのだが、初めてネコに見られた時はそりゃもう大変だった。


『何か大変な事あったかしら?』


 ……めっちゃ見てくるし。


『見られただけじゃない』


 ……だって恥ずかしいじゃんか。


『乙女……ッ!』


 あぁもう! だからそういうんじゃないんだってば……。


「まぱまぱいっくよー!」


「えっ、ちょっと待ってまだ準備がぶごっ!!」


 う、うぉぉぉ……。


「最初のように吹き飛ばなくなったのは大きな成果じゃのう。それだけ衝撃を拡散できているという事じゃ」


「ミナトすごい♪」


 お前ら……好き勝手言いやがって……こっちからしたら痛みはほとんど変わってねぇんだよ……!


「どれ、腹を見せてみい」


 腹を抱えて蹲っている俺をラムが「てぃっ!」っと魔法で仰向けに転がし、車椅子から降りて俺の腹をわしゃわしゃ撫でまわす。


「いっ、いひひひっ、ラムちゃん、ちょっ、くすぐったい……やめっ……んぁっ」


「へ、変な声出すでないわ! まったく……しかし、確かに鱗も最初に比べると厚く大きくなってきておるのう。このままいけば腕と同じように扱えるようになるじゃろう」


「ごしゅじん……えっちな事してるんですかぁ? ズルいですよぅ」


 いつの間にかネコが昼食の入ったバスケットを抱えて俺を見下ろしていた。


「お前なぁ……何をどう見たらそういう事になるんだよ」


「だってそんな恰好でラムちゃんといちゃいちゃしてたら普通そう見えますよぉ?」


「ば、ばかものっ! 儂は公衆の面前でそんな事をする破廉恥な娘ではないわっ!」


「影ならするんですぅ?」


「せ、せせせせんわいっ!」


 ラムは顔を真っ赤にして俺から距離を取る。


「そういえばお前なんでラムの障壁の中に居るんだよ」


 いつもはレナや、その日によってやってくるギャラリー達と同じように障壁の外側で眺めてるだけだったのに。


「いや、なんだかえっちな事してるなぁって思って入ってきちゃいました」


 ……入ってきちゃった、で入れるもんなのか……。


『ネコちゃんもアルマの力を自由に使えるようになってるみたいね』


 おいおい本格的に俺よりネコの方が飲み込み早いんじゃねぇか……?


『君が不器用なだけかも……まぁ、実際の所は一度身体をイヴリンに乗っ取られてるのが大きいかもしれないわ』


 ……? それが何か意味があるのか?


『あるわよ。イヴリンは器を最大限に利用する為に力をその身体に行き渡らせていた……つまり体内にきちんと力の通り道が出来てるって事なのよ』


 ……へぇ。それは面白いな。

 奴に身体を使われた事でネコの身体自体が大きな力を使う為の準備が整ったって事か。


『そうそう。そんな感じね』


 ちょっと待てよ? もしそれが本当なら……。


『えっ、ちょっと待ってなんだか嫌な予感がするんだけど』


「誰かにこの身体を委ねて無理矢理されたら……俺も目覚める事が出来るのでは?」


 俺からしたらかなり妙案だと思うし試す価値があると思うのだが……。


 何故か、ラムやレナ、ネコまでもが俺にドン引きの視線を向けていた。


 ……なんでだ?


『君は自分のワードセンスを見直した方がいいわ」


 ……俺また何か言っちゃいました?


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