第379話:ワンピースを捲ったら。


 両腕の竜化に成功し、次は両足……。


「あ、まぱまぱ。足よりお腹とかの方がいいかも」


「え?」


 腹の竜化……? その発想は全くなかった。

 両腕両足を竜化できれば十分だと思っていたんだが俺の認識は間違ってるんだろうか?


「足は二つあるでしょ? 腕と違って片方だけ成功してもバランスとれなくなっちゃうよ?」


『なるほど、さすが私の娘ね!』

 なるほど、さすが俺の娘だ。


「分かった。ちょっとやってみるわ」


 意識を腹部に集中して……ママドラの魔力をそこへ流し込んでいく。


「ど、どうだ? 出来てる?」


「うーん、見た目は変わらんのう? どれ、確認してみるのじゃ」


 ラムが俺の方へすーっと車椅子を進め、おもむろに俺の着ているワンピースをめくりあげる。


「うわーっ! な、何すんだっ!?」


「ちょっと黙っとれ」


「待って待って、流石に俺でも恥ずかしいんだけど!?」


「やかましい。ここには女子しかおらんのじゃから気にする事もあるまい」


 そういう問題じゃないんだけど……。


「ひゃっ!?」


「ふふっ、随分可愛らしい声をだすんじゃのう?」


 ラムがめくりあげたワンピースの中に頭を突っ込んで俺のお腹をぺたぺたと撫でまわしてきたので変な声が出てしまった。


「ふむ……なるほど、竜化が出来ていない、とは言わんがこれはダメじゃな」


 ラムが頭をワンピースから引っこ抜き、こちらをじっと見てくる。


 なんだかとんでもなく恥ずかしくなって俺はしゃがみ込んでしまった。


「乙女かお主は」

『乙女か君は』


 ぐぬぬぬ……!


「俺が同じ事をラムちゃんにやったら怒るくせに……」


「あ、あ、当たり前じゃばかものっ!」


「そう思うんなら人にやっちゃダメでしょーが!」


「儂がやるのとお主がやるのじゃ意味合いが変わってくるじゃろうが!」


 ぐっ……! 正論すぎて何も言えねぇ……。

『アホねぇ……』


「だ、だからって……急にお腹なんて触られたら……」


「ミナト可愛い……」


 レナはラムが張った障壁の向こう側でなんだかソワソワしている。

 やめて、そんな欲望丸出しの視線で見ないで!


『だから乙女かって……』


「と、とにかく! どんな感じだったんだ?」


「ふむ、全く変化が無かった訳ではないのじゃが、うっすらと鱗が生えた程度じゃなぁ。強度も何もあったもんじゃないのじゃ」


「鱗ぉ??」


 俺は思わず自分でワンピースを捲り上げて腹を確認する。


「うわわ、何しとるんじゃお主は!」


「何って……さっき自分で捲っといて何言ってんだこの子は……」


「自分で捲り上げるなんて破廉恥じゃっ!」


 ラムの基準がわかんねぇ……。


「うおっ、なんだこれツルツルしてるわ」


 俺の腹は胸のすぐ下の辺りから下腹部あたりまで青紫の艶々した鱗に覆われていた。


「へぇ~、これって強度はどれくらいあるんだろ」


「全然じゃと思うが……試してみるかのう?」


「試すってどうやって……?」


「イリス、ちょっとミナトの腹を殴るのじゃ」


 待って何言ってんのこの子!


「分かったー。まぱまぱお腹に力入れてね?」


「ちょっ、まっ……」


 既にイリスが目の前に迫っていて、なんとか受け止めようと手でガードしようとしたのだがそれより早くイリスの拳が俺の腹に突き刺さっていた。


「ぶげらっ!!」


 俺は激しく吹き飛び上空の障壁にぶつかって跳ね返り勢いよく地面に突き刺さる。


 やっぱり黒鎧として俺と戦った時はイリスが大分加減してくれていたらしい。

 角が一本かけているというのにあの時よりも明らかに威力が高かった。


「う、うげぇぇぇ……っ! げほっ、げほっ」


「イリス、やりすぎじゃっ!」

「ごめーん、まぱまぱ大丈夫?」


 大丈夫じゃねぇ……全然大丈夫じゃねぇ……。


 どてっぱらに風穴でも空いたかと思った。

 むしろその方がいっそ楽なんじゃねぇかと思えるくらいきつい。


 ワンピースの腹の部分は衝撃でズタボロになっていて腹が丸見えになっている。

 なんとか仰向けに転がり、自分の腹を覗き込むと、鱗はイリスの一撃でほとんど消し飛んでしまっていた。

 というよりは砕け散った感じか。


「ぐぅ……っ、こりゃ防御能力に期待できねぇな……」


「なに言っとるんじゃ。これからしっかり鍛えてイリスの攻撃を受け止められるくらいに進化させるんじゃよ!」


 ……勿論俺もそれくらいの強度にできればいいなとは思うが、それは地獄の始まりを意味していた。


 つまり、何度も何度もこれを繰り返し、俺が完全にイリスの攻撃を受け切れるようになるまでこの特訓が続く事になる。


 こりゃ早くマスターしないと俺の身体がもたないぞ……!


「いたいのいたいのとんでけーっ!」


 イリスが俺の腹を撫でまわしてお約束のあれをやってくれるので、なんだか本当に痛みが消えていくような気が……。


「いてて、やっぱりきついわ……」


「随分儂に触られる時と反応が違うのう?」


 何故かラムがちょっぴり不機嫌になっている。

 なんでだよ……理解出来ん。


『竜化を使いこなせるようになる事よりも女心を理解する方が君には難しいかもしれないわねぇ』


 人を朴念仁みたいに言わないでくれる?


『そうね、朴念仁に悪いものね』


 ……。


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