第347話:出来れば他の方法を提案してほしい。


「憎め! 恨めっ! あたいを、魔物を、人類を、この世界を……!」


 イヴリンの身体から無数の黒いオーラが噴出し、それらが全て腕のように変化していく。

 イリスと戦っている時に彼女の腕から噴き出したアレはイヴリンだったのか。


「ホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラァァァァァァ!!」


 ゲラゲラと笑いながらイヴリンがその黒い腕を一斉に俺へと向けて放った。


 でも……。


「うるせぇよ」


 パキィン。


「……あ?」


 その黒い腕が俺に届く事は無かった。

 そして、もう届かない。


 イリスの時とは違う。


「俺が恨むのも憎むのもお前個人だよ。俺から大切な物を奪おうとする奴は誰だろうとぶっ殺す」


「ひっ、ヒヒッ……旦那様ともあろう者が随分と利己的で自己中心的な事を言ってくれるじゃあないのさ」


「お前は俺の事を勘違いしてる。俺はいつだって俺の事で精一杯で、俺のやりたいようにしか動かない。それでも零れ落ちていく物があるんだよお前みたいな奴のせいでな……」


「怒っちゃってるのかァ? ちいせえ人間だなァ!?」


 今度は無数の腕をぐるぐると一束に纏め、巨大な腕に作り替える。

 イリスの腕から出てきた時とは別物といってもいい程、ソレから感じる圧力が違う。器を手に入れたイヴリンの最大火力。


 それでも、だとしても。


 パキィィン。


「お、おいおいなんだよソレどういう事だよォォ!!」


「俺はいつだって自己中で利己的にしか動かないんだ。俺の事を旦那だって言うんだったらそれくらいよく覚えておきな」


 いくらイヴリンから攻撃されようと俺は片手でそれを叩き落としていく。


 パキィン! パキィン!


「な、なんだよォ! なんだよソレよォ!!」


 イリスの時はイリス本人が相手だった。

 俺の【復讐】は、イリスを奪ったギャルンにしか発動できなかった。


 今は違う。

 明確に、イヴリンが俺からネコを奪った。

 それだけで、俺はこいつに負ける事が無くなった。

 発動条件がシビアなだけに、その分強力なスキル。

 大抵の場合は発動条件を満たした時、既に手遅れになっているが、今回のようなケースならまだ間に合う。


 俺は運がいい。

 俺からイリスを奪ったギャルン。

 俺からネコを奪ったイヴリン。

 そのどちらも、取り返しのつく状況だった。

 勿論イリスの場合はいろんな偶然が重なってうまくいっただけかもしれない。

 だから、俺がやる事はネコの場合もうまくいくようにする。それだけだった。


「く、来るなよォ! なんなんだよお前ェェェ!! 近寄るなァァァ!!」


「だったらお前がそこから出ていけばいい」


 俺は構わずイヴリンへと歩みを進める。


「よ、よく考えろよ!? あたいをどうにかしたかったら器を壊すしかないんだからな!? それがどういう意味か分かってんのかァオイ!」


「あぁ、勿論分かってるよ」


『ミナト君、何をする気……?』

 ママドラにも力を貸してもらうぞ。

 こんな事不本意極まりないが、どうにもこれしか方法が思いつかない。


『……えぇ~? また、随分面白い事考えたわね……』


 ママドラには俺の考えている事がすぐに伝わるので非常に助かる。


 出来ればこれ以外の方法を提案してほしいところなんだが……。


『いや、それいいと思うわ。多分一番効果があると思うわよ』

 こんな事でお墨付きは頂きたくなかったが、これもネコを取り返す為だ。仕方ない。


「お、おい……冗談だろ? あたいをどうする気だよ……本当に器を壊すつもりなのかァ!? どうせハッタリだろ……!?」


「だと思うなら怖がる必要無いだろ」


 パキィン。


 相変わらず効きもしない攻撃を繰り返すイヴリン。


「ちっくしょう……やってられるかよォ!」


 イヴリンが背中から黒い煙を噴き出し、大きな翼を作り出す。

 そのままふわりと宙に浮いた。


「今回はこのくらいで引いてやるZEeee!」


「逃がすと思うか?」


 俺はこういう展開も予測していたので対策は準備してある。


 イヴリンに近付きながら魔力をこっそり編み込んでおいた。

 それを空中のイヴリンに放ち、足を絡め取る。


「うわっ」


 そして思い切りこちらに引きずり下ろす。


「ヒィィッ!!」


 どすっと、落下してきたイヴリンの身体を受け止めた。

 はからずともお姫様だっこというやつだ。


「ネコを俺から奪った時点でお前の負けは決まってたんだよ」


「な、なんだよォ……あたいにあっつい口付けでもしてくれるってェのかァ? 旦那様よぉ……」


 イヴリンは震えていた。

 何をされるのか分からない恐怖、そしてせっかく手に入れた器を失うかもしれないという恐怖。その両方で。


「……はぁ、残念ながらそのまさかだよ」

「……は? ハァァァァ!? むぐっ!?」


 俺の腕の中でジタバタと暴れるイヴリンを押さえつけるように抱きしめながら、その唇に強引にキスをする。


 勘違いするな。俺はイヴリンなんぞとキスをしたかった訳じゃない。

 勿論ネコとしたかった訳でもない。


『誰に言い訳してるのよ』

 うるせー。それよりも早くやってくれ!


『分かってるわ……よ!』


「むぐぁっ!? ん゛~っ!! んあ゛~っ!!」


 暴れるんじゃ……ねぇよっ!!


 これはママドラの六竜の魔力を直接イヴリンの体内に流し込む為のキスだ。


『いい加減目を覚ましなさいアルマっ!』

 いい加減目を覚ましやがれ馬鹿ネコ!!



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