第344話:ミナト大暴走。


 俺は一体誰だ?

 剣聖、ジュディア・G・フォルセティ?

 それとも魔導シューター、リン・イザヨイ?

 科学者、ガジェット・ガル・ガーディン?

 空間魔導士、グリゴーレ・デュファン?

 重力魔法使い、フェイド・リル・シッド?

 サポート魔法使い、スライリー・マトン?


 違う。


 ならば大僧正? 格闘家? 武闘家? 暗殺者? 大盗賊? 魔法剣士? 名探偵? 


 それとも、邪竜?


 そのどれでもあるような気がするし、そのどれでもないようにも思う。


 ただ、分かるのは目の前の敵を無力化しなければならないという事だけ。


 自分が何者かなどどうでもいい。

 そんな事は二の次だ。

 自らが振るう事の出来る力の全てをもって、標的を無力化せよ。


「キヒ……うっさいなぁ……! 邪魔するな」


 目の前の敵は、事情は分からないが今隙だらけだ。

 やるなら今。絶好の好機。


 俺は……俺達は一気に加速しイリスへと向かいながらその周囲の空間にロックをかけ小さな四角形の空間に閉じ込め、身動きを封じる。

 それもすぐに破壊されてしまうが、その一瞬の時間さえ稼げれば十分だった。

 オートターゲットで確実にロックオンする事で回避を防ぎ、竜化した腕に邪竜の力を上乗せし禍々しいオーラを身にまといつつ重力魔法をイリスに向け発動。

 サポート系の増幅魔法で重力を増して増して増してそこに自分すら巻き込み重力による加速もプラスさせつつ拳の周りには小型核弾頭を具現化し、剣聖の技をアレンジしつつ一気に叩き込む。


「天楼斬魔拳!!!」


 イリスは重力に押されつつもそれを押し返すが、自由になった瞬間に俺達の拳がその顔面へと突き刺さる。

 あらゆる力が波状攻撃と化してイリスへと叩きこまれた。


 強い衝撃が拳に伝わった瞬間に大爆発。

 勿論爆風、威力が逃げないように増幅された引力、斥力魔法を駆使して指向性を持たせているので、本来なら三百六十度に吹き荒れるはずの力がイリスへの一点に全て集約され、彼女を吹き飛ばす。


 イリスは自らが張った障壁に何度もぶつかりながらもすぐに軌道を修正しこちらへ向かって飛び込んで来た。


「まぱまぱ凄い……私も、本気だしちゃうからね……!」


 彼女は両腕に膨大な魔力を纏わせ、距離が詰まる直前にその魔力を放出した。

 そのまま殴ってくると思っていたので意表を突かれたが問題は無い。

 空間魔導により自分の眼のまえの空間とイリスの目の前を繋げ、彼女の放った魔力はそのままイリスへと返る。


「うわっ……!」


 勿論自らの力とは言え彼女に大きなダメージを与える事は出来ないのでそのまま俺達は側面に回り込みディーヴァを取り出し邪竜の力を流し込んで思い切り叩きつける。


 邪竜の魔力属性は闇。

 闇魔法を纏ったディーヴァの特性は触れた物を抉り取る。

 受け止めたイリスの腕は根元から手首あたりまでが抉り取られ消滅。

 そのまま一気に畳みかけようとしたところで……。


 失われたイリスの腕から真っ黒な何かが生えた。


「う、ぐぅ……っ! おさえ……きれない……!」


 イリスから生えた真っ黒な力の奔流はまるで巨人の腕のように肥大化し、俺達を力任せに叩きつけた。


 その力は広範囲に渡っていたが、威力の方はそこまででも無かったため聖属性を纏わせたディーヴァで突き破り、再びイリスへ強襲。


『ミナト君! これ以上は君の精神がもたないわ!』

 うるさい。


「「ウオォォォォ!!」」


 はからずともイリスと俺達は同時に咆哮をあげ、正面からぶつかり合う。

 大きな力同士の衝突にお互いは弾き飛ばされ地面を転がった。


 再び視界に入ったイリスの腕は既に修復されていた為あの黒い何かが何だったのかは分からないままだが、そんな事はどうでもいい。

 早く仕留めなければ。


 イリスが距離を取ったまま巨大な光の玉を頭上に作り出した。

 魔法による遠距離攻撃……?

 どう見てもその威力はどうかしている。放たれる前にどうにかしないと。


「させるか!」


 俺はイリスではなく、生み出された光の玉へ向けて空間を断裂。

 イリスは魔法を放つ直前にそれは細かく空間ごとバラされそれぞれが誘爆し、イリスも爆風に巻き込まれる。


 爆風が治まってもイリスは立ち上がらなかった。


 トドメを刺すならここしかない。

 再び全力の一撃を準備し、イリスへと飛び掛かる。

 どうやら意識を失っているようだ。

 この一撃で終わらせる……!


『ミナト君! ミナト君ってば!!』

 やかましいぞ!


『あぁもうこの馬鹿っ!』


 突然身体の自由がきかなくなる。

 何をした……!?


『馬鹿ね。私が本気を出せば自分が何者なのかも分かってない今の君から身体の主導権を奪う事くらいどうって事ないわよ』


 邪魔をするな。今殺さなければ二度とチャンスが無いかもしれないんだ。


『目を覚ませッ!!』


 全身が、いや……既に身体の感覚がないので精神がビリビリと震えるほどの波動。


『……まだ寝ぼけてるの?』


 ……いや、悪い。もう大丈夫だ。

 俺はなんて事を……。

 こうまでしなければイリスの相手が出来なかったとはいえ、勢い余って殺そうとするなんて……。


 すまない。

『正気に戻ってくれたならそれでいいわ。それより、一つ考えがあるの』


 イリスを元に戻せるのか!?


『分からない。だけど、無力化する事なら出来る』


 なんでもいい。イリスと戦わなくてすむように出来るならそれに乗るぜ。詳しく聞かせてくれ。


『……方法は簡単よ』


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