第334話:もう一人の黒鎧。
「ぐっ……」
ティアが叩き込んだ拳はダンゲルの鎧兜を叩き割った。
そして……。
砕けた兜の中から現れた奴の顔は……。
「だ、ダンゲル……その、顔は……!」
ラムは勿論、俺も息を呑んだ。
「見たな……僕の、僕の顔を……!」
確かにその素顔はダンゲルそのものだった。
【半分】は。
顔を中心から左右に分けたとして、向かって左側は見た事のあるダンゲルの物。
右側は……なんだか分からないどろりとした物が固まったような、とても人とは思えない物だった。
そこに大きな目玉が一つくっついていて、ギョロリと眼球が動いている。
「くそっ……これを見たからには……生きて返す訳には……」
「危ないのじゃっ!」
ダンゲルは掌から光を放ち、ティアの腹部を撃ち抜く……所だった。
寸前、ラムがそれに気付き障壁を張った事で方角が逸れ、岩肌に突き刺さる。
「ぎゃーっ! 助けてーっ! 助けて下さーいっ!」
崩れた岩肌がリリィ達の真上に落ちていく。
「ネコ! 出来るか!?」
「勿論ですぅ!!」
ネコはアルマの力を使いリリィ達の周りに球状の障壁を張った。
ラムの物から比べれば強度は落ちるかもしれないが落石くらいなら大丈夫だろう。
あっちは問題無い。それよりも対処しなければいけないのは……。
「くそっ! くそっ! くそっ! こんな醜い姿をラムちゃんに見られるなんて今日は最低の日だ! もう何もかも終わりにしてやる!」
そう言いながらダンゲルは無差別に光線を巻き散らした。
ラムに見られるのが嫌だとか言いながらそのラムにも攻撃してしまっている時点で正気とは思えない。
「ダンゲル……お主は……もう、儂の知っているお主では無いのだな」
「なぁぁぁぁに言ってるのさぁぁぁ! 僕はいつだってラムちゃんの事だけを考えて……かん……がえ、て……? あれ? 僕は一体何をやってるんだろう」
急激にクールダウンしたダンゲルが自分の手を見つめ、固まる。
「ダンゲル……?」
ラムちゃんはその姿にわずかな希望を見出したのかもしれない。
「ふ、ふはははは……ムキになっちゃったよ。僕らしくもない。でもさぁぁぁ……僕に与えられた命令はこの施設を守る事だったんだよねぇぇぇ」
冷静にはなっている。
だが、正気ではない。
「ダンゲル! 戻ってくるのじゃ!」
「なぁぁに言ってるのさぁぁ……僕はもう、戻れる場所なんてどこにも……無いんだよっ!」
ダンゲルが再びラムに向かって光線を撃ち出す。
あの光線は魔法ではなく、ただ魔力を掌から放出しているだけのようだ。
ダンゲル自身身体が強化され、魔力も溢れているのにも関わらず魔法の才能、知識に欠如している結果あんな攻撃方法を見出したのだろう。
しかしその膨大な魔力量が凝縮された光線は相当威力が高い。
俺もまともに喰らったらかなりのダメージを受けそうなほどに。
「さっきはちょっとヒヤっとしたんだゾ!」
ティアが空中を蹴るようにしてダンゲルまで駆け上がり、発射される光線をギリギリでかわしながら距離を詰める。
「ウザいなぁぁぁぁ! なんなんだよお前はぁぁぁっ!」
「だから勇者だって……言ってるんだゾっ!」
ダンテヴィエルを振り下ろすが、同時に近距離から再び光線が放たれる。
「なんども同じ手を喰らう私じゃないんだゾ!」
振り下ろしたダンテヴィエルはダンゲルに向けられておらず、むしろ光線の方へ向かっていた。
至近距離から光線を真っ二つに切り裂きダンゲルの手首を片方切り飛ばす。
「僕の腕がぁぁぁっ!」
ダンテヴィエルが光り輝き、そのまま宙がえりをするように勢いをつけ、ダンゲルの脳天に直撃させた。
切りつけたのではなく、その幅広の剣を横にしたまま剣の腹の部分を叩きつけたのだ。
「ぬぉおぉりゃぁぁぁぁっ!!」
そのまま一気に振り抜き、ダンゲルは地面に一直線に突き刺さる。
俺もそのタイミングに合わせて急降下し、ディーヴァを突き立てようとした。
だが、俺のディーヴァがダンゲルに届く事は無かった。
「お、お前……! 現れやがったな!」
俺の剣は、突如現れたもう一人の黒鎧に片手で掴まれ、止まっていた。
なんて力だ……!
ダンゲルが現れた時は背筋がぞわっとしたが、もう一人の方を目の前にするとよく分かる。
これは比べ物にならないほど危険だ。
「はぁ……念の為に様子を見てこいって言われたから来てみたら……何してるの?」
黒鎧はこちらの事など全く気にせず、地面に埋まったダンゲルを引っこ抜く。
「ひ、ひぃっ!」
「ひいじゃないでしょ。何をしてるのかって聞いてるんだけど。お前がついててなんで壊されてるの?」
「ち、違う! 僕が来た時にはもう……」
パワーバランスは明らかだった。
ダンゲルもこの黒鎧には逆らえないらしい。
そりゃそうだろう。
俺からしたらこいつはギャルンよりもヤバい気さえしている。
「それならそう報告して終わりだったでしょ? 私が言ってるのはなんで一人で楽しんでるのかって話。用が済んだなら帰ってくればいいのにこんな所で楽しんでたのはどうして?」
「だ、だってこいつらが……僕、僕はこいつらを乗り越えないと先に……いや、僕は何を……?」
ダンゲルの意識はかなり混濁しているようでまともな会話が成立しないようにも見える。
「あぁ……ダメだこりゃ。せっかく力に適合したのに器が耐え切れなかったんだね。君はもうすぐ死んじゃうよ?」
「し、死ぬ……? 僕が、死ぬ? だったら、だったら今のうちにやる事をやらなきゃ!」
ダンゲルの身体から禍々しい魔力が一気に溢れ出した。
「多分最後の最後だから思い残す事がないようにね」
ダンゲルはその言葉を聞いて気が狂ったように表情を険しくして涎をダラダラと垂らし始めた。
身体の方がこの強大な力に耐え切れず崩壊を起こしているらしい。
最後に黒鎧がダンゲルに何か言っていたが、小声だったのも有りきちんとは聞き取れなかった。
というよりは、俺の耳が聞き取ったその言葉が俺には理解不能だっただけかもしれない。
「……に怪我……たら……がお前を……すから」
その場をぐるりと一度見渡し、黒鎧は消えた。
俺は目の前のダンゲルなんて……正直もうどうでもよくなってしまっていた。
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