第333話:黒鎧襲来。
「後はあのデカブツを作らせていた黒幕を始末すれば終わりだが……」
もしそれがギャルンだった場合、本人がここに常駐しているという事は無さそうだ。
奴がここに居ないのならば、代わりの管理人を置いておくか?
少なくともこの場にはそれなりに実力のありそうな魔物は居なかった。
これ以上脅威が無いようならラヴィアンでの仕事はこれでお終いだが……。
まだ首都の問題が残っている。
あれがどういう状態なのか、どうにか出来るのか、それを確認する必要があるが……それにはシルヴァの知恵を借りなければいけないかもしれない。
「あーあ、これ壊しちゃったの? 困ったなぁ……僕が怒られちゃうじゃないか」
ぞわり。
背筋に冷たい物が走る。
急に、何の気配もなく背後から何者かの声がした。
慌てて振り向きつつその場から距離を取る。
「みんな気をつけろ!!」
「分かってる……」
「分かってるのじゃ!」
ティアとラムは俺が言うまでもなく相手の脅威を感じ取り既に距離を取っていた。
ネコはマァナ、リリィ、ジーナの三人を庇うようにしながらさらに後方へと下がる。
それでいい。こいつは……。
相対するだけでどっと汗が噴き出してきそうな感覚だった。
その姿は、真っ黒な鎧に包まれていて……。
「ミナト、これって……例の奴?」
ティアの問いには答えられなかった。
こいつがなんなのか分からない。俺には、何か違う気がしていた。
『違うわ』
ママドラは違うと断言した。
確かに、あの時の黒鎧の方が余程ヤバかった。
だったらこいつは何者だ……?
「違うのじゃ。あの黒鎧とは……魔力の形が……む? いや、そんな……馬鹿な。こんな事がある訳ないのじゃっ!」
ラムが顔を引きつらせて車椅子をぎゅっと掴む。
半ばヒステリックとも取れる声をあげながら、ラムは目の前の存在を否定した。
「こんな馬鹿な事があるかっ! お、お前は……なんでこんな所に……いや、何があったのじゃっ!!」
ラムはかなり錯乱している。
急な動きに対応は出来ないかもしれない。
俺とティアはそんな時の為にすぐカバーできるよう身構えていた。
だが、黒鎧は一瞬で姿を消す。
「嬉しいなぁ。覚えていてくれたなんて」
「ひっ!」
黒鎧はラムの背後に移動し、その髪の毛を愛おしそうに手で梳いていた。
「ラムちゃんから離れろっ!」
即座に黒鎧に切りかかるが、あっさりとかわされてしまう。
「あははは、相変わらずミナトちゃんは好戦的だなぁ~。でもこんな所まで来るなんてほんとに君は物好きでおせっかいで……邪魔だねぇ?」
その黒鎧はくるくるとわざとらしく回転し、ピタッとポーズを取る。
俺が以前会った黒鎧とは別だ。
こいつは、こいつの中身は……。
「な、何故じゃ……お主が、どうして……」
「やだなぁラムちゃん。僕は生まれ変わったのさ。今までの自分はなんてちっぽけだったんだろうとさえ感じるよ。どうだい? 君もこちら側に来ないかい?」
間違いない。このヘラヘラとした喋り方、軽薄そうな声。そしてその全てが作り物に見える男。
「ダンゲル……どうしてじゃ。お主に何があったというんじゃ……」
「うーん、クドいなぁ? 僕はただラムちゃん達と別れた後にギャルン様から力を頂いただけだよ。ただそれだけさ」
またギャルンだ。
しかし、ダンゲルの野郎……以前会った時はただのエルフだったのにどうしてここまでの力を……?
明らかに魔力の総量がおかしい。
俺がパッと見て分かるくらいだから相当な物だ。
「まさかお主、ギャルンにあの種を……」
「ん? ラムちゃん種の事良く知ってるね? アレは凄いよ。一気に頭が冴えてきてさ……今だったら何でもできそうな気分だよ」
『あの種との適合率が高かったのね……でも、発現した力とつり合いがとれてない』
ママドラの言葉は俺にはよく分からなかったが、ランガム教の教祖も、ジンバも、種によって大きな力を手に入れた。
こいつも同じ……というには魔力の総量がどうかしている。
明らかに今までの種使用者とは違う何かを感じた。
ダンゲルがここまで化けるとしたらあの時の黒鎧はどれだけの力を秘めているのだろう……。
ギャルンの配下にこんなのが二人も居るとなると面倒だな……。
「ダンゲル、大丈夫じゃ。その種ならなんとかしてやる。こっちに帰ってくるのじゃ……!」
「……何言ってんの? 僕が? そちら側に? どうして?」
当時と一番大きく変わっているのはその力よりも、ラムに対する対応かもしれない。
以前はラムの為ならば何でもできる男だった。
しかし、今はそのラムすら否定できるようになっている。
「仮にラムちゃんがこっちに来るって言うなら僕は大歓迎だけどね、僕がわざわざそちら側につく意味が分からないな。ギャルン様を裏切ってまで? はは、有り得ないね」
完全に洗脳されてやがる……。
「ラムちゃん、今のこいつに何を言っても無駄だ……諦めろ」
「……分かっては、いるのじゃ……それでも、それでもどうにかならんか?」
「ジンバの時とは相手の力量が違いすぎる。あんなこと狙って出来る余裕は無いぞ……!」
俺の言葉にラムはゆっくりと一度目を瞑り、開いた時には覚悟が決まっていた。さすがである。
「ダンゲル。お主は儂の敵……そういう事でいいんじゃな?」
「んー? いいんじゃないかなぁ? こっちに来る気が無いならギャルン様の敵でしょう? なら僕の敵だよ。残念だけどね」
「隙ありッ!」
ダンゲルが俺達と話している隙をついてティアが背後から切りかかっていた。
「おっと……危ないなぁ~。というか君誰だい?」
ティアの攻撃をかわしながらダンゲルがティアに問う。
「私はティリスティア・マイ・メビウス・メロディ……これでも勇者だゾっ!」
ティアの動きが数段階上がった。
目で追えない程の動きにダンゲルも一瞬見失ったようだ。
「とりゃーっ!」
真上から現れダンテヴィエルを振り下ろすが、ダンゲルはそれに気付き両腕をクロスさせるようにして受け止めた。
アレを受け止める時点でどうかしてるが、驚くべき事にティアは既にダンテヴィエルを手放していた。
「どっせーいっ!」
ダンテヴィエルを囮にし、ティアは黒い鎧、その顔面に拳を叩き込んだ。
相変わらず無茶苦茶な戦い方だが、頼もしい事この上ないぜ勇者様よ。
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