第332話:前言撤回が好きな男。
俺は群がる魔物共を皆に任せて眼前にそそり立つ巨大な塊を駆け上がる。
おそらくここにいる魔物達はこのよく分からん物体の建設をさせられていたんだろう。
そんな知識があるとは思えないので与えられた仕事を黙々とこなすだけの傀儡のようなものだと思う。
ランガム教徒が抜け殻のように仕事をしていたのと同じだ。
これを作らせている側からしたら命令した事をこなせるのなら労働力は人間だろうと魔物だろうとどっちでもいいんだろう。
全速力で巨大な塊を駆け上がり、頂点に到着した所でディーヴァを手に取る。
「ジュディア……お前の力を借りるぞ!」
俺はディーヴァに聖属性の魔力を込める。
ディーヴァは纏わせた魔力の属性により様々な効果を発揮する。
ただそのままの魔力を込めただけならば音。
特殊な音波を放つ事で相手を行動不能にしたり、その音波による微細な振動により切れ味を上げたり。
では聖属性ならばどうか。
これは既に実験済みだった。
条件を満たしている場合にのみ、一部の攻撃の威力を数段引き上げる事が可能だ。
そして、さすが剣聖ジュディア・G・フォルセティ。彼女の会得した剣聖技はまさにこの為にあると言っても過言ではない程相性がいい。
「久々にぶちかましてやろうぜ」
前回この技を放ったのはティアに向けてだった。
しかもティアは途中で試合を放棄し、この技をその身に受け死ぬつもりだった。
結果的にジュディアも途中でなんとか威力を弱めようとしたし、俺が横槍を入れたせいで不完全燃焼だったはずだ。
今回はそんなの気にしなくていい。
周りへの被害なんてどうでもいい。
そんなのはラム達がどうにかしてくれるはずだ。
仲間を巻き込んでしまうかも、なんて心配は彼女らには必要無い。
数人無関係な奴がこの場に紛れているからあの三人は驚くかもしれないが、こんな物騒な兵器は一撃で粉砕するに限る。
ディーヴァを掲げ、叫ぶ。
そして思い切り、謎の塊へ向け振り下ろした。
「天楼斬魔剣!!」
目の前が真っ白にフラッシュ。
凄まじい轟音と共に金属製の塊は粉々に吹き飛んだ。
余波は多少周りにも影響を及ぼしたが、せいぜい周りの魔物共を巻き込んだ程度だろう。
思った通りラムが仲間達に障壁をかけ被害は最低限に抑えられているし、ここの形状的に丁度よく衝撃派は上へと吹き抜けていった。
とりあえずこれで兵器の破壊、というミッションはこなせたはずだ。
地面に降り立つと、マァナとリリィは顔面蒼白で抱き合いながら震えていた。
それを必死に大丈夫だと言い聞かせるネコ。
そして……。
「こらミナト! いきなりあんなのぶっ放されたら危ないんだゾ!!」
「儂が障壁かけなきゃどうなっていた事か!!」
ティアとラムの二人はかなりご立腹だった。
「すまんすまん。でも俺はラムちゃんがみんなを守ってくれると信じてたよ」
「ぐぬぬ……おのれ……儂には周りの魔物を対処せよと言っておったじゃろうが。もし儂がすぐに対応できない状態だったらどうする気だったんじゃ!」
「でもラムちゃんはどうせ俺が何かするだろうと思ってある程度予測はしていただろ?」
「……ま、まぁそうじゃけども……」
やっぱり。ラムに任せておけば大抵の事はどうにかしてくれる。
俺に足りない部分は仲間達が補ってくれるのだ。
俺は悩む必要など無い。
「ティアだって分ってたよな?」
「……そりゃ急にセティの気配が濃くなればね、何をしようとしてるのかくらいは分かるけど……そういう問題じゃないんだゾ」
「悪かったって。とにかくアレをさっさと破壊しておきたかったからさ」
そこでラムが恐ろしい事を言った。
「ちなみに、あれが街を消し飛ばすほどの破壊兵器だったとしてじゃ、もしエネルギー充填済みだったりしたらお主の攻撃でこの周辺は全て消し飛んでおったのう?」
「うげっ、マジで?」
「まぁ儂はそうでない事を見抜いていたから安心しておったが、ミナトはそんな事知らずに問答無用で破壊したじゃろう? もう少しで取り返しのつかない事になるところだったのじゃ。反省せい!」
「……ごめんなさい」
確かに言われてみればそれもそうだ。
もし魔力充填が終わっている状態だったとしたら事前にラムが指摘してくれていたとは思うが、俺はその辺の確認もせずにぶっ放した訳で……。
これは反省が必要だなぁ。
悩む必要が無い、任せとけば何とかなる。
そう思って勢い任せに動いてしまったが……どうにもならない状況ってのも視野に入れて動かないと大変な事になっちまう。
俺はやっぱりもう少し考えて動いた方がいいのかもしれない。
『前言撤回早すぎない?』
……俺は前言撤回が好きな男だ!
『……ゲイリーの真似なんてよく恥ずかしげもなく出来たわね?』
いや、今俺とっても恥ずかしい。
自分で言っといてなんだけどやめとけばよかった。
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