第331話:ミナトが尊敬する人。


「サンプルというのは……」


「勿論今まで通ってきたドアじゃよ。何度か間違えてくれたおかげでドアが纏っているちょっとした魔力の違いを判別する事ができたのじゃ」


「し、信じられません。このドアを見てどれが正解かを見分けられるというのですか?」


 マァナは口で説明しても簡単には信じられないようなので、さっさと実践した方が早いだろう。


「ラムちゃん、見せた方が早いよ。次はどのドアだ?」


「任せておくのじゃーっ! ちょっと待っとれ……うーん、これでは無いのう……これ、も違うのう……うむ、こっちのドアじゃ!」


 ラムが勢いよくドアを開くと、同じような部屋が続いている。

 この仕組みの迷惑な所は中に入ってみないとこれが正解なのか最初の部屋なのか分からない所にある。


 とにかくそのままラムの言う通りに進むと、本当にその先へ続く部屋だった。


「そ、そんな事が……凄い……」


「し、ししょーと呼ばせて下さいーっ!」

「うわっ、なんじゃなんじゃっ!?」


 突然リリィがラムの車椅子に飛びつき、ラムに頬ずりを始めた。

 ちょっとうらやましい。


『ロリのコン』

 いや、アレはどう見たって羨ましいだろうよ。

 しかしリリィも見た目はとても美人だからな……はたから見ている分にはこれはこれで。


『百合文化はまだよく理解できないわ』

 俺はママドラが百合にドハマりされても困るけどな。


「わ、儂は簡単に弟子など取ったりせんぞ!」


「そんなーっ! わらわも師匠みたいに魔法マスターになりたーい!」

「儂ほどになるには類まれなる素質と血のにじむような努力がじゃな……」

「努力嫌いーっ! でも魔法はマスターしたい!」


「す、清々しいまでの自己中じゃな……」


 そうか、俺がリリィをどうにも憎み切れないのはそこだ。

 自分の欲求に正直な所が羨ましいのかもしれない。


『君はいつだって抑圧されてるものねぇ。毎日抱え込んだ性欲を押さえて押さえて頑張ってるものね。わかるわ』

 待て待て、勝手に妙な決めつけで分かった気にならないでくれる?


 それじゃ俺が性欲の塊みたいじゃないか。


『違うの?』

 俺はごく普通の健全な男子程度です!


『……普通の健全な男子、よりは大分歪んでると思うわよ……?』


 急に哀れみのこもった声になるのやめてくれる?


「ジーナ、ラム様に迷惑がかかるのでそのうるさいのを黙らせ……」

「かしこまりました」


 ドゴッ!


「いだぁぁぁい! 今マァナが言い終わる前にぶったーっ!」


「私はもうマァナ様に話しかけられただけでリリィ様をぶっ叩く準備が出来ておりますので」


 順調にリリィの頭にたんこぶが増えていく。

 それでもめげない所が凄い。

 やっぱりネコに通じる部分があるのかもしれないなぁ。


 ネコもあの真っピンクお花畑脳さえなければなぁ……。


『あ、なるほど……積極的な子は好きなのね』


 積極的っていうか自分に正直に生きてるのが凄いなって思ってな。

 俺も前世では思った通りやりたいように生きてたつもりだけどそれで後悔する事はあったし酷い目にも合ったから。

 こいつくらい何があってもブレないっていうのは正直尊敬するよ。


「ふぅ、とにかく先へ進むのじゃ。次は……うむ、これじゃな!」


 その後もラムの言う通りに突き進む事ドア八枚。


 俺達の目に飛び込んできたのは……。


「な、なんですかコレは!? こんな物が、この国にあるなんて……」


「でかーい! カッコいい!! わらわの物にひでぶっ!」


 最早命令がなくともジーナは迅速にリリィをぶっ叩く。


 相変わらずの展開が繰り広げられているが、俺もそんなの気にしている場合ではなかった。


「ミナト、これは……結構ヤバい気がするんだゾ」


 ティアもうっすら額に汗を浮かべている。

 それくらい危険な物だというのが彼女にも分かったんだろう。


「マァナ、悪いが俺はこれを潰すぞ」


「……止める気はありません。こんなもの、早く処分してください」


 俺達が最後の扉を通り抜けた場所は、まるで山の中を丸々くり抜いたかのような、縦の吹き抜けがある空間だった。

 遥か上空に青空が見える。


 本当にどこかの山の中心に建造していたのかもしれないな……。


 ここがどこなのかという確認よりも先に、これを破壊しなければならない。


「ラム、ティア……周りの奴等は任せていいか?」


「勿論だゾ♪」

「任せるのじゃっ!」


「ネコはマァナ達を守れ。それくらい出来るな?」


「大丈夫ですぅ! がんばりますよぅ♪」


 よし、この空間にわらわらとひしめいている魔物共はラムとティアに任せて、俺はこの巨大な機械を破壊する。


 目の前には青空に届くのではないかと思われるほどの、巨大な機械があった。


 これがランガム大森林で作られていたという兵器と同じ物なのか、別の用途の為の物なのかは判断しきれないが、どちらにしてもこの世に存在してはいけない物なのは間違い。


 ママドラ、行くぞ……!

『ええ、思いっきりやっちゃいなさい!』



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