第328話:デリケートな話題。


「……なぁ、話の腰を折るようだが、どうしてあんた等姉妹はこう……いろいろ似てないんだ?」


 似ている所といったら髪色くらいのもんだ。

 性格は真逆だし。

 目付きはリリィが真ん丸、マァナはどちらかというとおっとり糸目な感じだった。

 こういう奴がくわっと目を開いた時が怖いんだよなぁ。


「……私達はそれぞれ違うコンセプトで教育されたのです。まず長女のルルお姉様はとにかく英才教育を叩き込まれ、妹の私が言うのもなんですがこの国を継ぐものとして完璧な仕上がりです」


 仕上がりってお前……自分の姉に対してどういう評価だよ。


「ストレスをため込んで定期的に大爆発を起こすのが玉に瑕ですがそれも自室に籠って喚き散らすだけなので周りには迷惑かけませんし」


 ……長女のルルってのは確かエアお紅茶をしてるって影人間だったよな。かなりの苦労人な気がする。正直ちょっと話をしてみたいが、残念ながら無事とは思えない……これは敢えて今言う事でもないな。


「次女のリリィお姉様は……その、何と言いますか、完全に放任主義といいますか」


「あぁ……なんとなくそんな気がしてたよ。どう考えても姫にしちゃ自由すぎるし馬鹿過ぎる」


「ちょっと君ぃ!? なんだかわらわの悪口が聞こえて来た気が」

「お姉様は黙ってて下さい」


「……あぃ」


 リリィはマァナの言う事には逆らえないようで、しょんぼりしながらまた豆茶を一口すすり、「うげーっ!」とか言いながら眉間に皺を寄せている。


 ここまでくると割と有りかもしれんなぁ。


『……この子が良くてネコちゃんはダメなの?』

 いや別にこいつが良いとは言ってないが……?

 というか可愛いのは間違いないが妙な勘違いをされたくない程度にはどうしようもない奴なんだよな……。

 こいつに興味を持ってしまいそうになる自分はあまり認めたくない。


『君って意外となんでもありなのね……』

 なんでもは無理だよ。大丈夫なのだけ。


「そして三女の私ですが、勉強と習い事を自分の意思で選べる教育を受けています。やりたい事をやらせて頂いてとても感謝しておりますわ」


 俺のもやっとした思考を遮断するようにマァナが自分の育った環境を話した。

 ナイスなタイミングだ。ちょっと助かる。



 それはそうと……自分でやりたい事を選んでいいというのは自由のように聞こえるが、本人にやる気がなければ何もやらないで終わる。

 それでこの立ち振る舞いが出来るように育ったのならば本人が優秀だったのだろう。



「長女の事は分からないがあんたらは完全に別個の育ち方をしたって事か。遺伝的にも髪色以外姉妹とは思えんな……この国ではリリィみたいな褐色の肌はよく居るものなのか?」


「そ、それは……」


 あっ、これってもしかして触れちゃいけない話題だったか?

 地球でも肌の色関連の話は結構デリケートな話題だし、万が一リリィだけ片親が違うとかそういう話になってくると気まずいし。


「あ、いや……忘れてくれ。無神経な質問だった」


「いえ、そうではなくて……」


 マァナはリリィをじーっと見つめながら首を捻っている。


「そういえばお姉様、どうしてそんなに黒いんです?」


 ……は?


「ん~? 知りたい? 君達知りたいの?? それはですねぇ~」


「早く言いなさい」


「ひぃっ!? マァナ怒んないで……これはちょっと日焼けしただけです~っ!」


 呆れて物も言えない。

 国が消滅の危機、というか首都が消滅していた時こいつは確かバカンスがどうとか言ってたが、本当に海でこんがり焼けただけだったのか。

 これは想像以上のお馬鹿だぞ……。


「ちょ、ちょっと何よその眼はぁっ! わらわだって遊びたいし海に行ったらこんがり焼きたくなるのは当然じゃないですかーっ!」


「……という訳だそうです。お姉様の肌について遺伝は一切関係ありません」


「お、おう……そうみたいだな」


「こんなどうしようもないお姉様の事はどうでもいいです。それより話を元に戻しますね?」


「ああ、余計な事を聞いたせいで脱線した。続けてくれ」


 俺達のやり取りを聞いてリリィが「余計な事とかどうしようもないとかどういう事ですの!?」なんて騒ぎ出したけれどすぐにジーナがぶっ叩いて大人しくさせた。


「……端的に申し上げますと、この国は魔物との繋がりがあります」


「えーっ! そうなの!?」


 真っ先に大声をあげたのは俺達じゃなくてリリィだった。


「……はい。私も夜中に父上が何者かと話をしているのを偶然に聞いて知ったのです」


「おおおお父様がままままま魔物とーっ!?」


「ジーナ、うるさいのでお姉様を黙らせて下さい」

「かしこまりました」


 ジーナは即座にリリィを縛り上げ、さるぐつわをさせて黙らせる。

 それでもまだ「むぐーっ!」とか「もごーっ!」とか言ってるけど、ネコが「よしよし♪」と頭を撫でたら大人しくなった。


「その魔物ってのは……真っ黒で能面みたいなのを被った奴か?」


「……貴女はその魔物の事をご存知なんですか?」


 その反応は肯定と同じだ。


 この国でもギャルン……どこに行ってもギャルンギャルンだ。

 俺の行く先々で面倒を振りまくあの野郎ともそろそろ決着をつけなきゃならないかもしれないな。


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