第329話:クセになるタイプ。

 

「多分そいつはギャルンっていう魔王軍の幹部だ。俺の天敵だよ」


「そう、ですか……父上はそんな相手と……」


 難しい顔をして俯くマァナの姿が本当の物ものか、それとも演技なのかは分からない。


「王は魔王軍と繋がりを得て何をしていた?」


「詳しい事は分かりません。ただ、何かの実験を早く進めるようにと魔物側から言われておりました」


 実権……か。

 そうなるとやはりこの国でも秘密裏に何かを製造させていたか、或いは別種の何かか……。


「分かった。どっちにしてもその実験とかいうののせいでこの国はこんな事になったんだろう。まずはその原因を突き止めたい。その実験が行われていた場所に心当たりはあるか?」


「……一応、もしかしたらというのはあります。保証はありませんが」


「十分だ。とにかくそこを調べてみよう。大体の場所を教えてもらえれば俺達が勝手に調べるが……」


 その言葉にマァナは首を横に振った。


「いえ、私達の国の事ですから……私も同行させて下さい」



 その後もマァナからいろいろ事情を聞き出したところ、その日偶然マァナは首都の外に出ていたのだそうだ。

 それもこっそりお忍びで。


 いつも読書をしたい時は街から出た少し先にある小さな湖のほとりで木にもたれて読むのだそうだ。


 こんな砂漠の中に湖が有る事は驚きだが、街の水源がそこだと考えれば不思議ではない。

 魔物もこの近辺には出ないようで、その日も読書を楽しんでいた。


 そんな時、突然街が光に包まれ、街自体が消失してしまった。

 呆然としつつも、確かめなければならないと思い街があった場所へ戻るがただの平地が広がるばかりだった。


 一日半ほど途方にくれた所で、突然街が元に戻った。

 しかし暮らしている人々は真っ黒な影人間と化していた。


 誰も話が通じず、独りぼっちになってしまったマァナは食料の備蓄もしてある地下シェルターを思い出し、避難していたという流れらしい。


 ちなみにリリィが地上で見つけた長方形はここへ通じるスイッチであり、王族の魔力にしか反応しないようになっている為、気にせず放置していたとの事。

 内側にも同じ物がもう一つあり、出る際に使うのだそうだ。


「じゃあマァナはずっとここに一人だったんですか?」


「ええ、お姉様はあまりに長い間出かけて帰って来なかったのでもうどこかで野垂れ死んだものと思ってました」


「ひ、ひどっ! わらわの事忘れちゃやだーっ!」


「ちゃんとジーナの事は覚えておりましたわ。……まぁジーナが一緒だったので大丈夫だろうとは思っておりましたが……こんな方々を連れてきてくれるとは思いませんでした」


「こいつらがなんだっていうんですかー? 今すぐにでも追い出したいくらいですー!」


 リリィは全くブレない。

 馬鹿だが鋼の精神力の持ち主……かも。


 そしてマァナに怒られジーナにぶっ叩かれ即座に泣いて謝るという連鎖が何度やっても止まらない。




「……そう言えばこのシェルターの事をリリィもジーナも知らなかったようだが」


 階段をひたすら登りながらマァナに問いかけると、とても簡単な答えが返ってきた。


「王族ならここは知ってるはずです。ジーナが知らないのは当然ですし、お姉様だって知ってるはずなんです。知らないならお父様の話を聞いてなかったか忘れてるかのどちらかです」


 忘れてる……か、リリィなら有り得る話だな。


「あれっ、そういえばリリィがついてこないぞ?」


「別にお姉様は居なくてもいいです。むしろ静かで助かります」


 それは確かにそうだが、あれっ、むしろマァナと話しながらで全く気付かなかったけど誰も後を付いて来てない。

 ネコもティアもラムもリリィもジーナも。


 これは何かおかしい。


 もしかしたらマァナが何かしたのか?

 例えばゲイリーのように空間を隔離したとか……。


 なんて疑惑が俺の取り越し苦労だと分かったのはほんの数分後だった。


「遅かったのう?」

「えへへ~楽しちゃいましたぁ♪」

「私はどっちでも良かったんだけど楽できるならその方がいいに決まってるんだゾ」


「……お前ら、もしかして転移で外に出たのか?」


 俺がいちいち階段を登って地上に出てる間に楽に一瞬で飛んできたとかズルくね?


「いちいち階段上って来たんですか? そんなに意味の無い苦労が好きなら労働力として使ってやってもいーですよー? それとも転移出来る仲間がいるのに気付かずに登っちゃったんですかー? そんなに頭が残念なんですねざーこざーっこっ!」


 リリィのイキリ散らした罵倒も清々しくてむしろ面白い。


『君完全にこの子にハマって来てるじゃないの……』

 うっ、そんな事は無い……。


「お姉様、私この方と一緒に階段を登って来たんですけれど、つまり私にも言っているという解釈でよろしいんですよね?」


「えっ? ち、ちがっ……マァナは違いますよその、なんていうかーっ! じ、ジーナ助けてーっ!」


「ジーナ、やっておしまいなさい」

「かしこまりました」


「ぎゃふーんっ!」


 世の中には本当にぎゃふんっていう奴が居るんだな……。


 まるで即落ち二コマ漫画でも見てる気分だ。

 リリィは頭から煙が出てくるんじゃないかというくらい脳天を叩かれ泣き喚く。


「いっだーい! ジーナがぶったーっ!」

「リリィ様、ごめんなさい。私もこんな事したくないんです本当ですごめんなさいごめんなさい」


 ジーナはリリィを叩くのをやめない。


「じ、ジーナっ! い、痛い痛いっ! なんで笑ってるんですー!? 嫌なのになんで笑ってるんですーっ!?」


「もう笑うしか無いんです」

「なぞのりろんーっ!」


『……私もちょっとクセになってきたかも』

 だろ……?


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る