第327話:雰囲気ブレイカーリリィ。

 

「ところで、貴女がたは結局何者なんですか?」


 奥の部屋に案内されジーナにより紅茶が振舞われた後、マァナが切り出した。


「それは私も気になっていました。調べに来たと言っていましたが……それは何処からです?」


 マァナに続いて質問してきたのはジーナ。

 彼女は既に黒い頭巾は脱いでいて、薄い青みがかった銀髪のショートカットだった。

 頭巾をかぶっていた時には気付かなかったが相当な美人である。


 ちなみに、だがリリィは本当に相当苦い飲み物を出されたらしく、それを猫のようにぺろぺろ舐めながら眉間に皺を寄せて涙目になっている。

 そんなに嫌いなら飲まなきゃいいのにな……。


 どこまで話した物かと考えたものの、適当なでっち上げではマァナが納得しそうになかったので、ある程度は本当の事を言う事にした。


「俺達はシュマル共和国とダリル王国、そしてリリア帝国……その三国の使者として来た」


「なっ……そんなでたらめを信じろと……?」


 マァナは紅茶を持った手を震わせながらゆっくりカップを置き、「どうなんです?」と続けた。


「信じるか信じないかはそちらに任せるけどな、俺は本当にその三国の代表としてこの国の現状を調べにきたんだよ」


「……それは、偵察……という意味ですか?」


「それは違うな。俺達はラヴィアン王国の首都、ロゼノリアが一度消失した後元通りになっている、という報告を受けて調査に来ただけだ」


「……そうですか、それをご存知なのですね。なら他国が興味本位で調査を向かわせるのも分かります。ただ、分からないのはどうしてその三国、なのですか?」


 彼女は馬鹿姫と違ってとてもまともな姫様だ。

 普通はそこに引っかかる筈なのに、リリィときたらこっちの話なんてどうでもいいのかいまだに苦い飲み物と格闘している。


「ここに来た目的はもう一つある」


「質問の答えになっておりません」


「なってるんだよ。説明させろ」


 俺の言葉にマァナはこちらを一瞬だけ睨み、そして溜息をついて紅茶を一口。


「分かりました。そちらの事情を可能な限り教えて下さい。質問があればその後にします」


「とりあえずかいつまんで話すけれど俺達はダリルで王族関連の問題を解決したりリリア帝国で英傑王を決める大会に特別枠で参加して英傑王になったり、シュマルの代表を狙う組織を潰したりしてなんやかんや三国の信頼を得てな。今度三国の同盟をする事になったから……」

「ちょっとちょっとちょっとちょっと待って待って下さい!!」


「なんだよ質問は最後にするんじゃなかったのか?」


「そういう次元を超えていて頭がパンクしそうです。貴女のその途方もない話がホラだと決めつけるのは簡単ですがホラにしては規模が大きすぎる……」


 ホラじゃねーっつの。


「普通誰も信じないんだゾ?」

「まぁそうじゃろうなぁ。ついでに言うとランガム大森林で世界征服を企んでおったランガム教を亡ぼしたりもしておるぞ」


「ら、ランガム教……あのカルト教団をですか……? 今ランガム大森林はどうなって……」


「残念じゃが生き残りは儂だけやもしれんのう」


 マァナは完全に固まった。

 ラムの話を聞き、その耳を見て「え、エルフ……?」と呟いた。


「そうじゃ。儂はエルフ最後の生き残りじゃよ。一応もう一人いるがのう」


「……な、なるほど。少々信憑性が出てきましたね……」


「本当の話だからな。で、続けていいか?」


 大事なのはここからなのに話の腰を折らないでほしい。


「その話が本当ならば貴女がたは、一国を滅ぼすほどの力を持っているという事ですよね……?」


「まぁ、一応そうなるかな。でもこの国に関しては本当に調査をしに来たんだ。俺達じゃないぞ?」


「そ、それは理解しました。それで……他の目的というのは?」


「そうだな、報告にあったこの国を一度消し飛ばした光ってのに心当たりがあってな、以前関わった事のある物騒な兵器に似てるんだよ」


 マァナはその話を聞いて一瞬で冷静になった。

 切り替えがしっかりできている。


「俺達は、もしその兵器が関与しているようなら、破壊するつもりだ。そしてそんな物騒な物を作ってる奴を始末する」


「……始末、ですか。物騒な話ですね」


 表情が読めない。これはどっちだ?


「勿論あんた達が関わっているのなら俺は問答無用で暴れるぞ? 違うっていうなら知っている情報を話してほしい」


「……そう、ですか。それはなかなかに難しいお話ですね」


 何か知ってるなこれは。


「じゃあこれだけ聞かせろ。あんたは関わっているのか?」


「いえ……少なくともここに居る者は関係ありません。というよりお姉様やジーナは全く知らないと思います」


 ……相変わらず無表情なままだが、その話ぶりから何が原因なのかは知っているように思える。


「何か知ってるなら話した方が身のためだぞ? 出来れば無駄な殺しはしたくない。もし兵器がどこかに隠されていて、あんたがそれを知っているのに隠すとなると俺達はこの国を片っ端から吹き飛ばさなきゃいけなくなるからな」


「……分かりました。お話します。難しい話、と言ったのは……その兵器、私達は関与しておりませんがこの国は関与しているのです」


 言葉を選ぶようにゆっくりと、マァナは語り始めた。


 のに。


「うぇっ、にがーっ、にっ、にがっ! ジーナもう無理やっぱダメぇ~っ! こんなの人類が飲んでいい物じゃありませんわーっ!」


 リリィの気の抜ける発言で緊迫した雰囲気がぶっ壊れた。


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