第326話:叩くと良い音のする玩具。


「なぁ、ちなみにこの地下室に心当たりはあるか?」


 俺はまともな返事が帰ってきそうなジーナに問いかけた。


「いえ、残念ながら私はこんな物があるのはしりませんでした」


「待って下さい。どうしてわらわに聞かないんですの? わらわはこの城の姫ですわよ!?」


 リィルは顔を真っ赤にして怒っている。


「いや、お前に聞いたって分からないだろうよ……」


「あんまりです! わらわ、確かにこんなの知らないけど、知らないけど普通まずわらわに聞くもんじゃないんですの!?」


「めんどくせぇ……」


「めんどくさいって言いましたか!? わらわを!? 重たい女だとそういうんですか!?」


 俺に食って掛かるリリィの頭を、ジーナが可哀想な子を見るような目をしながら撫でる。


「リリィ様……それは貴女が今日会ったばかりの人でも分かるくらいどうしようもない馬鹿だからですよ?」


「や、優しい手つきが尚更つらい……!」


「どうでもいいから早く下に行ってみようぜ。その妙な機械で開いたんだろう?」


 ラムが反応していたので普通の代物ではないんだろうし、この下に何かがある可能性は高そうだ。


「ほらほら君達ィ? 何してるんです早く行きますわよ~♪ しゅっぱ~つ!」


 いつの間にかリリィが先陣切って階段下へと駆け降りて行った。

 ほんとに喜怒哀楽激しい女だな……。


 良く言えば純粋、悪く言えば馬鹿だ。

 裏表無さそうで意外と好感が持てる。

 どこかの馬鹿ネコのように卑猥じゃなさそうだし。


「? 私の顔に何かついてますかぁ?」


 ネコが不思議そうにこちらを見て首を傾げる。


「ああ、どうしようもなく余計なもんがついてるな」


「えっ、やだ怖いですぅ取って下さい~っ!」


 俺は無視して階段へと向かう。

 後ろでは、何かついてないかとティアやラムがネコの頭をチェックしているようだが何もありゃしねーよ。

 そいつの頭の中からエロという概念を引っこ抜いてくれると助かるんだがな。


 少しすると慌てて階段を降りて来たのか、後ろから足音がいくつも付いて来た。


「きゃぁぁぁぁっ!!」


 先に行ったリリィが突如悲鳴のような声をあげ、それを聞いたジーナは俺の横を駆け抜けるようにすさまじい反応速度で階段を駆け下りていった。


 なんだかんだ言って心配なんだろう。


 俺もジーナの後を追い階段を降りると、階段の終わり部分には細い通路があり、その先に扉。

 そしてその扉は開かれていて中から光がうっすらと漏れている。


 あの中か……。


 俺とジーナがその部屋の中へ飛び込むと……。


「ふぁぁぁぁん! よがっだーっ! よがっだよぉぉぉ!!」


「お、お姉様!? ご無事だったんですのね。てっきりどこかで野垂れ死んでいるものとばかり……」


 お姉様だぁ?

 そこに居たのはリリィによく似た顔立ちと赤髪。そして透き通るような白い肌のおしとやかそうな女性だった。


「マァナが無事でよがっだぁぁぁぁ……みんなね、お姉ちゃんもパパもママも真っ黒になってて……えっぐ、えっぐ」


「……では生き残りはわたくしとお姉様だけなんですわね。よりによってリリィお姉様とは……いえ、生きていて嬉しいですわ♪」


 ……この子、意外と腹黒系だな。

 しかしポロポロ本音が漏れているにも関わらずリリィは全く気にする素振りが無い。


 都合の悪い言葉は耳をすり抜けていくのか、それともただの馬鹿か……。

 いや、それだとどっちにしても馬鹿だな。


「マァナ、この国で何があったの? 何か知ってるんでしょう?」


 このマァナという女性が生き残りだというのなら確かに何かしらの事情を知っているかもしれない。

 場合によってはこの子が首謀者の可能性も……。


「……ところでお姉様、そちらのお方はどちらですの?」


 マァナは俺の方に視線を向け、その瞳を警戒の色に染めた。


「マァナ様、ご安心下さいこの方々はロゼノリアのこの状況を調べに来た者達です。少なくとも害はありません」


「ジーナ……無事で良かった。貴女さえ無事ならばお姉様はどうなろうと構わなかったのですが、無事に帰って来てくれて嬉しいですわ」


「有難きお言葉感謝いたします」


 うわぁ。

 マァナは腹黒というか黒い所を隠そうとしてないぞこれ。


「マァナぁぁぁ! わらわ心細かっだよーっ!」


「はいはいお姉様かわいそかわいそ」


 マァナはリリィを適当にあしらい、後ろから合流してきたネコ、ティア、ラム達を訝し気に眺めながら大きなため息をつく。


「はぁ……ここに部外者を連れ込むなんて……緊急事態ですしこれについては目を瞑りましょう。ただ、私は貴女がたが何者なのかを聞くまでは安心できません。話して下さいますね?」


「それは構わないが……こっちとしても情報が欲しい。ここで何があったのか、ってのと交換でどうだ?」


 マァナの視線が鋭くなる。

 こいつ……ただ黒いだけじゃなくてなかなかのやり手だぞ。


「いいでしょう。お姉様と一緒という事はきっとお姉様が多大なるご迷惑をおかけしているのでしょうしそれくらいは譲歩します」


 よく分かってるじゃねぇか……。

 ほんとにリリィの方が年上なのかよ。


「では奥の部屋へどうぞ。ジーナ、お茶のセットがありますから皆さまに紅茶をお出しして」


「はっ、かしこまりました」


「あっ、わらわは甘いのがいいですわ! 砂糖たっぷりなやつよろしく!」


 その場に居る全員がリリィに冷たい視線を送ったのは言うまでもない。


「ジーナ、皆様に紅茶、そしてお姉様には深煎りの豆茶を。勿論ブラックで」


「かしこまりました」


「なんでぇぇぇぇ!? どうしてそんないじわるするんですの!? ねぇ、マァナ!? ちょっとジーナってば! みんな私の事嫌いですの!?」


 嫌いって言うか……多分鬱陶しいけど叩くと良い音のする玩具、ってとこなんじゃないか……?



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